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小説:私だけの1人の彼氏
第11話:あの日の約束
「新人! それ重いから気をつけろよ!」 「あっ、はい! すみません!」
2年の月日が流れ、風宮詩音はバイトに明け暮れる日々を送っていた。 かつて「健」と呼ばれ、狂愛の檻に閉じ込められていた少年は今、睡眠時間を削り、5つのバイトを掛け持ちしてギリギリの生活を繋いでいる。
「詩音、もっといいバイトがあるよ。体を使う仕事」
同僚の音桃響鬼(おとも ひびき)が耳元で囁く。彼女は詩音に妙な執着を見せていた。
生活費に困窮していた詩音は、迷った末にその誘いに乗ることにした。
「撮影場……? 裸の写真を撮るって、どういうことだよ!」
「文字通りだよ、詩音。あんたを、性欲に塗れた女どもに売るの」
連れて行かれたスタジオで、音桃は冷たく言い放った。戸惑う詩音に、彼女は真実を突きつける。 「私の本当の名前は、正玲冬実。正玲凛奈の妹よ」
その名前を聞いた瞬間、詩音の脳裏に、封印していた「あの日の約束」が鮮明に蘇った。
2年前——。
「正玲さん……僕も、君のことが好きだよ」
ホワイトデーの日、詩音は凛奈に想いを告げた。彼女が作ったチョコケーキを食べて
「アホになるほど美味しい」と笑い合った、あの日。黒沢や山下といった友人たちと、下らない冗談を言い合って笑っていた、あの輝かしい時間。 しかし、その幸せは、姉・桃の狂気と、詩音を逆恨みした男たちによる凛奈への暴行によって、無慈悲に引き裂かれた。
「お姉ちゃんを振ったせいで、お姉ちゃんはボロボロにされた。これは、あなたへの復讐よ」
冬実の瞳には、かつての凛奈が持っていた優しさはなく、昏い復讐心が宿っていた。
「お姉ちゃんは1年間の昏睡から目覚めたわ。今もあんたに会いたがってる。……でもね、私はお姉ちゃんの彼氏だったあんたが、こんなに可愛いなら、私のものにしちゃおうかなって」
冬実はカメラを構える。
「さあ、服を脱いで。私たちの将来のために、しっかり稼いでもらうわよ。あ、日給は5万出すから安心しなさい」
詩音は力なく立ち尽くした。 かつては姉・桃の支配。 そして今は、かつて愛した人の妹による、金と欲望を媒介にした支配。
(僕は、結局……誰かの所有物でしかないのかな)
冬実の指がシャッターを切る音が、静かなスタジオに虚しく響く。 詩音がようやく手にした「自由」という名の生活は、過去からやってきた新たな復讐者によって、再び色を失い始めていた。
「とりあえず、写真撮りましょ。……いい顔してね、詩音君」
少年の瞳に宿った光が、また一つ、消えていく。
(つづく)
今回の物語のポイント
* 正玲凛奈の妹の登場: 凛奈の悲劇が原因で、妹である冬実が「復讐」と「独占欲」を詩音に向けるという、新たな「狂愛」の形を描きました。
* 過去と現在の対比: 黒沢や山下との楽しかった学園生活の回想を入れることで、今の詩音の境遇の悲惨さをより際立たせています。
* 詩音の「名前」の変遷: 健、詩音、そして今は「売られる商品」としての自分。彼が自己を失いかけている様子を強調しました。