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沈黙だった。
俺はしまった、と他の言葉で取り繕おうとしていたけれど、それはこいつの言葉によって遮られた。
「今の、告白?」
体を翻して温泉の縁に腕を起きながら、俺の失言を掘り下げようとする。むしろ俺のその一言だけでなんで告白だなんて答えにたどり着いた?
いや、まぁ間違ってはないんだけど、口が滑っただけなんだが。俺はパニックになって、足りない頭で必死に言い訳を考えていた。
「えーと…すまん、忘れてくれ」
「今のを?無理があるでしょ。もしかしてそういう意味で言ったんじゃなくて?温泉が好きとかそういう話?」
「いや、そうじゃないんだけど…なんていうか…」
もごもごとはっきりとしない口調に畳み掛けるように質問攻めにされた。
「確かにロマンチックだけど、男よ?わかってる?」
「…はい」
「やっぱ俺のことじゃん」
「そっすね…」
「それで、俺にそれ言ってどうしたいわけ?付き合いたい?ちゅーとか、それ以上のこともしたい?」
「……」
中々答えられずにいる俺に痺れを切らしたのか、すすっと寄ってきて俺の顔を覗き込んだ。その顔を見るとバチッと目があって、あまりの気まずさに俺はすぐ顔をそらした。気まずいのもあるが、その火照った体を近距離で見せつけられて、俺自身が我慢できなくなってしまうことが怖かったから。
「なぁ」
「いやほんと…忘れてください…」
「ふーん、まぁいいや。冗談ってことにしておいてやるよ」
間違いだったと言う俺に不服そうな顔をしながらも、半ば納得したようでまた外の景色を見ていた。
そう、俺の失言は酒のせい。そのせいで頭が回っていなかったんだ。だから絆されて、こんなタイミングで言ってしまったんだ。シチュエーションとしては最高だったんだけど。
そう思い込まないと今の俺にはとても恥ずかしい行為だったと思う。
「もう飲んでんの?」
「あ?あぁ…」
「じゃあ俺も飲んじゃお」
小さなお猪口に並々と日本酒を注ぎ、それを一気に呷る。そんなに急に飲んだら危ないぞ、という俺の忠告は無視された。そこから先のこいつは今まで以上に饒舌になり、困ったことになかなか制御がしづらくなってしまった。
「お前さぁ、俺にそんな冗談言ってないでよ、彼女でも作れ?な?」
「はぁ…」
「料理もできねぇし引きこもりだし、ほんとどうしようもないけど、そこがいいって女が現れるかもしれないだろ」
「そうですかね…」
「自分を卑下し過ぎなんだよ。かっこいいんだから自信持てって」
「そんなの初めて言われたわ」
「お前みたいなやつ、女がほっとくわけねーべ」
「結構いい年なんですけど…」
「大丈夫、お前はモテるよ、ははっ」
素面では言わないような台詞をすらすらと言ってのける。酒が回っているようで、ヘラヘラしながら俺の背中をバシッと叩いた。
(相当酔ってるな…)
「そろそろ上がるわ」
「あ、俺も」
少しふらつきながらも、タオルで頭をガシガシ拭いている。こういうところは男らしいというか、あまり頓着しないのかもしれない。
飲んでいた日本酒はまだ半分ほど残っていて、また後で飲むだろうとテーブルの上に置く。ずっと浸かっていたせいかすごく暑い。まぁ下着でいるわけにもいかないので俺は汗を拭いてすぐ浴衣に着替えた。
To Be Continued…