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着替えてスマホを見ていると、まだ暑いのか下着姿でうろうろしているあろま。浴衣は渡したのだが、あちぃから、と言ってそこらへんに投げ捨てられてしまった。ドライヤーで髪だけ乾かして床にあぐらをかいている。
俺はいつ寝てもいいように布団を敷いていた。この感じだと酔って寝落ちしそうだもんな。
「あろま、風邪引くよ」
「暑いんだもん。それに―」
「ん?」
「浴衣うまく着れない…」
おいおい、いい年したアラフォーが浴衣が着れないだと?そんな展開あるかよ…
俺は落ちている浴衣を拾って、早く着るように促す。酔いが覚めるように水も一緒に渡す。ペットボトルを受け取ってごくごく飲み始めた。そんなに暑いのか。
「えおえお〜」
「なんだよ」
「浴衣着せて」
(うわ…まじかよ…)
酔っててさっきの会話を忘れたんだろう。なんの脈絡もなく告白した相手に無防備な姿を晒すなんて。無意識でやっているんだろうが、俺にはそれが耐え難い。
「なぁ早く」
「じゃあほら、こっち来て」
「ん」
俺はその姿を目に入れないよう、必死で目をそらす。いや別にいつも見てるんだけどさ、今は状況が違うじゃん?
俺がまた一人もやもやしてる中、あろまは自分で着ようと頑張っている。でもやっぱり下手くそで、帯の結び方なんかめちゃくちゃだ。
「帯は前で結ぶんじゃないでしょ」
「どっちでもいいじゃん」
「前は女性なの。男性は後ろで結ぶんだよ。」
「…細かい」
浴衣の合わせをしっかり引っ張り、帯を後ろで結んでやる。俺より身長が少し低いあろまの髪はふわふわで、うっすらシャンプーの匂いがした。
華奢なこいつの体格だと、確かにフリーサイズの浴衣では脱げてしまうかもしれない。いっそのこと女性用を着てもいいんじゃないか?チャイナドレスだって入ったんだ。大丈夫だろ。
「なぁ」
帯を締め終わるところで、ぼそっと呼ばれる。少しうつむき加減のその雰囲気は、機嫌があまり良くはなさそうだった。長いこと一緒にいるから雰囲気で感情がわかってしまうんだけど、今回はどうしたんだろうか…
「お前、何で俺のこと好きなの」
「え…っ」
予想外だった。そんなこと聞かれるなんて。さっきのは事故。そう自分に言い聞かせて返答する。
「えっと、あろまさん、それは冗談で…」
「冗談で男に告るのかよ」
あろまのその声色からわかった。怒っている。
そう思った瞬間、視界が眩んで倒れ込む。天井が見えた。下に布団があって助かった…けど、その衝撃をもろに食らった俺は腰に鈍い痛みを感じる。
「いってぇ…」
痛みで目を瞑ったが、ずっしりとした重みを感じてそっと目を開ける。今までにないほど怒った顔をしたあろまが俺の上に乗っていた。
「あろま、どうし―」
「ふざけんな!!!」
突然の大声。驚きで声も出ない。
「俺のことおちょくってんのかよ」
「待ってあろま…そんなつもりじゃ」
「じゃあ何で…冗談だって…」
俺の胸ぐらを掴む手に力が入る。怒りと苦しみの声の中に、嗚咽にも似た声が混ざる。
「お前…まじでふざけんなよ…
そんなこと言われた俺の気持ちは無視かよ」
「待てって。だって俺にあんなこと言われても困るだけだろ」
「……」
「お前酔ってるんだって。俺も酔ってたし、お互いなかったことに―」
「…くそっ」
その時、俺の顔に何かが降ってきた。見ると、あろまの目からポロポロと涙がこぼれている。
人の気持ちを汲み取ることが苦手な俺だけど、この瞬間だけはわかった。
俺がこいつを傷付けたんだ。
To Be Continued…