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戦闘が始まって何分経っただろうか。
いくらドラゴン・イクシードの体を切り刻もうともすぐに再生をしてくる。
足の一本を斬り飛ばしたと思いきや次の瞬間には再び生えてきた。
尻尾を斬り飛ばしたと思いきや次の瞬間には再生した。
体に深く刺し傷を負わせて大量の血が噴き出そうともすぐに傷が塞がった。
「本当にこいつは不死身なのか…?」
ステータスを隙を見て確認してみてもやはり体が再生するとともにHPも凄まじい勢いで回復していた。一体これほどのエネルギーはどこから来ているのだろうか?
「グオオォォォォ!!!!!!」
ドラゴン・イクシードの強烈な咆哮による衝撃波が扇状に辺りの地形を抉る。
俺はすぐに土魔法で地面から強固な壁を作り出して防御する。
そして間髪入れずにドラゴン・イクシードはその大きな口から超高温の炎をこちらに向かって放ってきた。その威力は地面を溶かして一部マグマに変えてしまうほどであった。
何とか展開している土魔法に水魔法の効果を付与することによって土壁を溶かされないように踏ん張る。しかし熱波までは完全に防ぐことが出来ずに俺は超高温にさらされることとなった。
新しい装備のおかげでやけどなどのダメージを負うことはなかったが、大きくスタミナが削られてしまったのは痛い。それにじわじわとだが魔力も無駄に消費していっているのも痛手だ。
「このままじゃ俺のスタミナと魔力が切れるかやつの再生力が尽きるかの分が悪い勝負になるな」
幸いなことにシエンさんにその力の一部を分けてもらったことで得た新しい称号の魔力量およびステータスの大幅な上昇効果のおかげもあり、力関係に関しては少しばかり余裕を持ってドラゴン・イクシードの相手を出来ている。
しかしやつもこのステータスの差を補って余りある驚異の再生力で俺と張り合っている。
何か突破口がなければジリ貧な戦いが続いてしまうだろう。
「…あれを試してみるしかないか」
そこで俺は先ほどシエンさんから力を譲渡してもらったときに新しく獲得したスキルを試してみることにした。つい先ほど獲得したばかりの力なので普段ならちゃんと能力の詳細を検証してから使いたいのだが、今この状況では致し方ないだろう。
「グルルルルアアアァァァァ!!!!!」
「っ!?」
新スキルの準備をしているところにドラゴン・イクシードの強烈な前足による薙ぎ払い攻撃が飛んでくる。その威力は咆哮を防ぎ切った土壁を一撃で粉砕するほどの威力だ。
「あ、危な…」
俺は瞬時にその場を離れることでその攻撃を回避することは出来たが、新しいスキルのことを準備しながらだったので少し反応が遅れてしまった。
しかし何とか準備を整えることは出来た。
この攻撃がどれほどやつに効果があるか未知数ではあるが少しでも効いてくれるとありがたい。
「はっ!!」
俺はスキルを発動させてその効果を魔剣に魔力と共に付与する。
そして一瞬でやつの背後の死角に回り込んで屈強なその尻尾に一撃を喰らわせる。
「グアアアァァァァ?!?!?」
すると見事なまでにドラゴン・イクシードの尻尾は斬り飛ばされて血しぶきを上げながら地面へと落ちる。そしてここから再び尻尾の切断面から徐々に再生する。
ここまでは今までに何度も繰り返してきた攻撃とその結果である。
しかし今回の結果はそうはならなかった。斬られた尻尾の切断面から血しぶきが噴き出すことはなく、切断面は元からそうであったかのように綺麗に凍結していたのである。
これが新しいスキル『絶対凍結(アブソリュート・ゼロ)』である。
どうやらシエンさんは氷属性を得意とする古龍だったらしく、その力を譲渡されたことによってその影響を強く受けたスキルを取得することが出来たのだろう。
このスキルはおそらく名前の通り対象を絶対零度の氷で凍らせるというスキルである。おそらくと言ったのは十分に検証が出来ていないのでその説明した効果がこのスキルの全貌であると言い切ることが出来ないからだ。
それとこのスキルのデメリットとして使用時に魔力、MPではなくHPを消費してしまうということである。おそらく対象の生物などの条件によって消費量は変化するのだろうが今の俺のHP量であれば50回使用しても余裕はあるだろう。
ただしHPを消費してしまうので危険であるということは注意しなければならない。
HPはなくなれば、それすなわち『死』を意味するのだから。
「グオォォ!?」
ドラゴン・イクシード自身も異変に気付いているようだが、先ほど俺が斬った尻尾が未だに再生する気配を全く見せていないのである。どうやら尻尾の断面が綺麗に凍り付いているために再生が阻まれているのではないかと考えられる。
「よしっ、上手くいったな。これで終わりだ、ドラゴン・イクシード!」
俺はここぞとばかりに一気に攻勢に出る。
少しでもHPを減らされる前に一気にけりをつけたい。
「はああああぁぁぁぁ!!!!!」
俺は身体強化魔法により魔力を割いて強化量を上昇させた。
それによって今までをはるかに上回る攻撃速度でドラゴン・イクシードに迫る。
「グアアアァァァァ!!!!!!!」
『絶対凍結(アブソリュート・ゼロ)』の効果を付与された連撃によって傷つけられたドラゴン・イクシードの身体はその回復能力を一切発揮できることなくダメージを蓄積していく。
隙を見てステータスを確認してみても明らかに先ほどまでとはHPの回復スピードが違っていた。もちろんこのスキルはHP回復阻害の効果があるわけではないのでHPの回復自体は行われているのだが、傷の修復が出来ないことに影響してHPの回復も遅くなっているのではないかと思われる。
ただ今の回復速度ならそれを上回るダメージを与えることが出来るので勝ち目は大いにある。
「グルルルァァァァ!!!!!」
すると今まで一切この山の山頂から離れようとしなかったドラゴン・イクシードがその大きな翼を羽ばたかせて飛び上がった。この場から逃げられてしまえば周辺環境への影響や他の人たちへの被害が大きくなってしまう。
逃がすわけにはいかない…!!!
「行かせるか!!!!!!!」
俺は身体強化魔法と共に風魔法も発動させて超跳躍力を発揮させてドラゴン・イクシードを超える高度へ飛び上がった。そして風魔法で一か所に空気を集めて高密度な空気の塊を作り出すことによって足場を作り、それを利用して勢いをつけて上空からやつに攻撃を仕掛ける。
まさか上空にまで追って来るとは思っていなかったドラゴン・イクシードの完全に死角を突いたその綺麗な一閃はやつの片翼を根元から斬り飛ばすことに成功した。
「ギャオオオオォォォォ!?!?!?」
突然片翼を失ったドラゴン・イクシードはその巨体を空中で留まらせることが出来なくなり、そのまま再び山頂へと落下することとなった。それに加えて斬られた翼の根元は絶対零度によって凍らされており回復不可能となっていた。
「グォォォ……」
片翼を失ったことによって体のバランスが上手く取れなくなってしまったのか立ち上がる事すら困難な様子になっていた。今の状況であれば防御も回避も出来ないだろう。
「さあ、ドラゴン・イクシード。これで本当に終わりだ」
俺は多くの魔力とスキルの効果が付与された魔剣を構える。
そして次の瞬間、勢いよく振り抜いたその一閃は見事にドラゴン・イクシードの首を跳ね飛ばした。
ドスンッ!と大きな音を立てて大きな首が地面に転がる。
そのままドラゴン・イクシードの瞳からは光が消え、体の方も力なく地面へと倒れた。
斬られた首元もしっかりと凍り付いており再生する気配はない。
ステータスを確認してみてもHPの表記は0となっていた。
《経験値が一定を超えました。レベルが上がりました》
《経験値が一定を超えました。レベルが上がりました》
《経験値が一定を超えました。レベルが…
《経験値が一定を超えま….》
《…
「ふぅ…終わった」
俺は達成感と共に空を見上げる。
そこには黒く淀んだ雪雲がまだ漂っていた。