※考察コメント大歓迎です!!!((
あの日は暑く とても蒸し暑かった
そしてそれと同時に
若草の生臭さが風にのって 鼻の奥を突いた
「あっちぃ~……」
“俺”は 制服のワイシャツの第一ボタンを外し
公園の木下にあるベンチで涼んでいた
日向よりも温度が低く 涼しい
まぁ……それは小学生でも分かる事か
「それにしても…どうしたもんかねぇ…」
俺は隣に座っている無口な彼女に視線を向けた
彼女は 紺色の涼し気な瞳を揺らし 首を傾げた
だが、決して喋ろうとはしない
「…お前 名前は?」
俺がそう尋ねても 彼女は 喋る気配も見せずに
ただ “瞬き”をしながら俺をじっと見つめる
「………親はどうしたんだよ」
だが この質問をした時
彼女が 口をパクパクと動かした
だが 声は “聞こえず” 唇を読もうとしても
何を言っているのか 伝えようとしているのか
“分からない”
「…なんて言おうとしてるんだよ……」
俺がそう言うと 彼女は 口を閉じ
瞬きを数回した
やがて俺は
モールス信号という物を思い出した
「…もしかして……」
俺は 再び 彼女の瞬きを観察した
そして 通学鞄の中に入れていたノートに
シャーペンで点と伸ばし棒を使って
彼女の瞬きを信号化した
・- --・-・ ・-・--
「……なんて読むんだ……?これ……」
俺は 紙に書いた文字を見ながら
彼女を見つめた
彼女は 瞬きを辞め 俺をじっと見つめる
「駄目だ…わっかんねぇッ!」
俺は 自分の髪を指でぐしゃぐしゃにしながら
再び 彼女に視線を送った
「……そうだ…お前 文字は書けるのか?」
再び 彼女に質問を問い掛ける
すると彼女は 静かに首を縦に振った
「おっ! じゃあ この紙にお前が
何を言おうとしているのか書いてくれるか?」
すると彼女は 再び首を縦に振り
俺が渡した鉛筆を握り紙に何かを書き始めた
「…お前 見た目の割には、字書くの上手いな」
俺がそう感心していると、彼女が此方を向いて
一輪の花弁の様にふわっと笑った
綺麗だった
驚く程 “俺”よりもこの世界に馴染みこんでいた
あれ…?今…俺…なんて思った?
彼女の方がこの世界に馴染みこんでる…?
……嗚呼………そうか そうだった
彼女の方が…この世界に馴染んでいるんだ
人形の様な女性だけれど
この子はちゃんと”喋る事が出来ている”し
ちゃんと笑う事だって出来る
そうだった
俺は____
「…思い出してくれた?」
彼女が唇を動かし そう喋った
「嗚呼 思い出したよ」
少しだけ透けている自分の身体を見つめてから
彼女に笑いかけた
「ありがとうな」
「ううん 思い出してくれたなら良かった」
「本当に…ありがとうな 霊華」
俺は 自分の”妹”である彼女を見てから
足元に置かれた花束を手に取ってから
その場を去った
「……お兄ちゃん」
私は ベンチの近くに置かれている
枯れてしまった花束を手に取ってから
空を仰いだ
すると微風が吹いた
花壇に植えられているチューリップが
楽しげに揺れながら笑っている
「……ッ……」
私は その様子を見て
高校生だった 兄の陽との思い出が
フラッシュバックし、 思わず涙をこぼした
「……ッ……お兄ちゃん……ッ」
兄は 難聴だった
だから……”あの時も”きっと兄の脳内は
湖の底よりも静かだっただろう
でも…先程 兄に私の声が届いていた
それは…きっと
偶然という糸が何重にも重なって起きた
“奇跡”という物なのだろう
私は 瞳から溢れる涙を堪え
再び空を眺めた
雪のように真っ白な雲が 止まることなく
今も進んでいる
私は空に手を伸ばした
私達よりもずっと遠い綺麗な空
いつか 私も”彼処”に行く日が来るだろう
“この不思議な能力と共に”
私は自分の腕を見つめてから
周囲を見渡した
「ありがとう お兄ちゃん」
拝啓 今はもういなくなってしまった
貴方へ
たった一人の兄へ
私は今日も 兄の事を忘れずに生きている
だって”二回目は死なせなくないから”
人間にとっての二度目の死は
誰かに忘れられる事
だから私は 兄の事を絶対に忘れない
“あの時”私の事を助けてくれた兄の事を
これが私に出来る貴方への最大の恩返し
コメント
3件
難聴だったんだね。お兄ちゃんが妹を助けて事故に遭い、帰らぬ人となっちゃったって事なのかな。 「霊華」と「陽」って一見陽くんが生きているように見えるけど、実は陽くんが帰らぬ人で、霊華ちゃんが生きているんだよね。名前と真反対なことがおきてしまって悲しいな。