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ケルバの荒唐無稽な話にもサイモンは笑うことなくどんどんと眉根を寄せていく。
「わたくしの頭の中に絵本のようにそのお話が流れてきたの。それが何かはわからないし、それが真実なのかはわからないわ。でも、不安で不安で仕方がないの。
わたくしは没落するのはかまわないわ。でも、マリリアンヌが殺されるのは嫌! 絶対に嫌!
貴方。助けて。わたくしのマリリアンヌを助けて……」
ハラハラと涙を流しながらすがる妻ケルバの肩を両手でそっと支え目をしっかりと合わせた。
「君の話を信じるよ。いくつかは整合性が取れているんだ。
一部の者しか知らないが、国王陛下は病の床に伏せっていらして、現在、宰相たる父――前公爵――が中心となり政務をこなしている。父は政務に集中するために早々に私に爵位を譲ったのだ」
「そうでしたのね。お義父様はお元気ですのに不思議だと思いましたわ」
「あと、現王太子は本物のバカだ。だが、王家の血を重んじる風潮は簡単には変えられないからアレが国王になるのは避けられないと思う」
サイモンは俯く。
「さらに……君には言っていなかったが、すでにマリリアンヌへ婚約の打診をされている。だから私は王家の子がとりあえず我が子と同性であってほしいと願っていたのだが……。
そうか……男なのか」
「どなたからの打診ですの?」
「現国王陛下が床から怨嗟のように嘆願しているそうだ」
「ひっ!!」
「父と現国王陛下は友人でもあるからな。死を迎えそうな友人に嫌とは言えないようだ」
「なんてことでしょう」
ケルバは目元にハンカチを当てた。
「だが、ここでそれらを知れたのは良いことだと考えよう。
ケルバ。私は父から宰相の座を受け継ぐのか?」
「いえ。マリリアンヌが断罪される際、宰相はメドリアル公爵で、彼が率先して我が家を没落へ導くのですわ」
「そうか。ならば、まずはそこから崩そう。近々、私は宰相補佐官になる。忙しくなるので君には寂しい思いをさせてしまうかもしれない」
「貴方。わたくしのお話を信じてくださってありがとうございます。わたくしはマリリアンヌのためなら耐えられますわ」
サイモンはケルバをそっと抱きしめた。
サイモンは父宰相の補佐官となりまずは新国王になる者への再教育などを試みたが早々に諦めた。
補佐官の傍ら、公爵領の南側が未開拓地だったので積極的に領地を広げていった。
国王が逝去し、新国王が就任すると新国王は当然のように働かない。前国王が長患いだったため、役人たちも国民も国王が働かないことに不便を感じていなかった。だが、前国王は散財しないが、新国王は散財する。父宰相はそれを散々止めに入りとうとう心労で倒れた。サイモンは父母を領地へ療養に送り父親に領地経営を頼むと自分は宰相を引き継いだ。
未開拓地の開拓を進め領地が広がったことを理由に、貴族の領地転換を大々的に行った。自分がこの数年間見てきた人選と、妻ケルバに聞いていた人物とを鑑みて配置を決める。王家の領地とサイモンが開拓した領地を割譲したので多くの貴族が増領地となったため、領地転換に対して不平不満は少なかった。
こうして、東部にシュケーナ公爵家に加担するだろうと思われる貴族を多く配置した。
天災で東部のほとんどの貴族が被害を受けたことは本当であるが、元々サイモンが選んだ真面目な領主たちであるので、備蓄をしていたため被害は最小限であった。それでも復興には金がかかる。独立を考えていたサイモンは国庫に頼らずシュケーナ公爵家から支援した。
とはいえ膿がないわけではなく、この天災で汚職や使い込みが判明した貴族もおり、サイモンとルワン公爵はそれらを粛清したため、東部は尚更よい環境となった。
建前上、国王に国庫からの支援要請はした。その書類に国王が何も読まずにサインした時点でサイモンの腹は国王を排除すると決定的に決まった。呆れるほどの人任せである。
キオタス侯爵領は中央部であったが東部寄りで天災被害を受けている。キオタス侯爵夫人はその復興のために家を空けていたのだった。
着実に東部地区独立の手筈は整っていく。シュケーナ公爵領とルワン公爵領は東部と中央部の堺にあり、通行税という建前で境界線となる低い塀を築いていった。と、同時にルワン公爵領にほど近いシュケーナ公爵領地に、大きな領都を築く。
東部地区東部地区の貴族たちはシュケーナ公爵領の領都に屋敷を構えた。
ボンディッド王国への書類上シュケーナ公爵家へ領地を金銭譲渡したことになっているが、実際は領主たちはそのまま領の管理をしている。
学園に通う子供を持たない貴族たちは卒業式の前日に王都を離れシュケーナ公爵領都の屋敷に移った。
サイモンが国王と話している間に消えた者たちは国王の手が伸びる前にシュケーナ公爵領都へと旅立ったのだった。
翌日には『仮シュケーナ公国』が誕生した。シュケーナ家当主は大公となり、他の貴族たちはボンディッド王国の時と同じ爵位を名乗った。彼らが平民になったのはほんの二日だけである。