コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
と、こんなことは平民たちには預かり知らぬことで、平民たちはこれまでの変わらぬ平穏な日々を過ごしていった。シュケーナ大公爵領やルワン公爵領からボンディッド王国へ行くことが少し不便になっただけ。
そう、たったそれだけのこと。
平民にとって遠くの国王より近くの領主。領主の差配は生活に直結するが国王が変わっても実感はない。
数ヶ月後、税金が緩和されたり設備が改修されたり仕事道具が支給されたりと生活が充実していき、平民たちは自分たちの国が変わったことを実感した。そしてその頃、噂によって国名が変わったことが広まった。
本当は数ヶ月前に掲示板に公布されていたのだが、掲示板を読める平民はほぼいないので読みに行く者は誰もいないのだ。
イエット公爵とボイド公爵の差配で両陛下と問題の五人は王宮に軟禁された。
眠れぬ夜を過ごした二人は翌朝退職届けの数を見て唖然とする。国土が四割無くなったと同じように、約四割の役人関係者が消えていたのだ。
婚約破棄騒動を起こした五人を裁く時間も惜しいと、彼らの希望通りノイタールとヒリナーシェを婚姻させ、ティスナーとヨルスレードとエリドはノイタールの側近にした。
だが、結婚式も挙げず、仕事も与えず五人と両陛下を離宮に監禁した。
七人は質素な食事と週一回の入浴に文句を言っていたが、質素な食事さえも止めると三日目に泣きながらそれらを懇願してきた。
〰️ 〰️ 〰️
卒業式当日の婚約破棄騒動から二週間。シュケーナ大公領都の一際立派な屋敷で美しい娘と美オヤジ、美夫人がお茶をしていた。
「皆さんから卒業パーティーを奪うことになってしまって申し訳ないことをしましたわ」
マリリアンヌが目を伏せる。
「それなら、あの時の生徒たちをここに呼んでパーティーをすればいい。人数の関係上、親たちは無しで、な」
サイモンがウィンクすれば、マリリアンヌは笑顔をほころばせた。
「嬉しい! お父様! ありがとうございます」
「僕、かっこいい?」
「はいっ! とっても素敵です!」
マリリアンヌはサイモンの左隣に行くと頬にキスを落とした。
サイモンは図々しくも右の頬を突き出す。ケルバは微苦笑をしてサイモンの右頬にキスをする。
マリリアンヌは立ち上がり窓際に立った。そこからは壮大な建物が遠くに二棟見える。
「学園はこれまでと授業などを変えるのでしょう? 通える皆さんが羨ましいわ」
二棟のうち一棟は学園、一棟は役所である。
「マリリアンヌも通えばいいじゃないか。婚約者もいないし、自由だろう? 僕やケルバの手伝いをしてもらうつもりだったけど、学園でこれまでとは違う勉強をするのもいい考えだ。
時間のありそうな友人も誘うといい」
「よろしいのですかっ?!」
「ああ。初等部と中等部だけでなく、高等部も作りたいと思っていたのだ。その足がかりとしてやってみてくれると助かるよ。その代わり、高等部へのアイディアも報告してくれよ」
サイモンはマリリアンヌにウィンクした。
現代と比較すると、初等部は小学校中学校、中等部は高校、高等部は大学といったところだ。
「もちろんですわっ! わたくし、早速皆さんにお手紙しますわ。
キャビ。手伝ってくださいな」
「かしこまりました」
二週間後、シュケーナ大公家で若者たちの大きなパーティーが催された。
〰️ 〰️ 〰️
「大公閣下。盟主様がおいでになられました」
「わかった。すぐに行く」
サイモンが応接室に行くと、待っていた御仁が立ち上がり恭しくこうべを垂れた。
「大公閣下におかれましてはご健勝のご様子。大変喜ばしく……」
「盟主殿。お気にさらず、お座りください」
二人は向かい合って座った。
「盟主などと烏滸がましくて……。私は旗印として担ぎ上げられただけですよ」
「ハハハ。そうですか。では、イエット公爵殿。お元気そうで何よりです。
やはり貴方が盟主となられましたか。よかったよかった」
サイモンが『盟主』として迎えたのはあの断罪された男子生徒の親の一人である騎士団団長イエット公爵である。
婚約破棄騒動から一年半が経っている。離宮に七人を監禁していたボイド公爵とイエット公爵は一年半かけて根回しをし、無血開城によるクーデターを成功させた。
クーデターといっても、ボンディッド王国国王に王国解散の書類にサインをさせ、主たる貴族で同盟を組んだものだ。
「本来はボイド公爵が適任なのですが、騎士団団長であった経緯から私の方が旗印には良いだろうということになりました。彼も本日の同行を望んだのですが、同盟に加入しなかった家への対応をせねばならないため、あちらから出られないのです」
「欲が絡むことですから、一枚岩とはまいりませんよ」
「アハハ。東部をおまとめになった大公閣下に言われても説得力はありませんな」
「あの時にはボンディッド王国国王という共通の敵がおりましたからできたのです」
「なるほど。こちらは国王から甘い汁を吸っていた者もおりますから共通の敵とはならなかったのです。
そういう輩を選別できたといえば両得にはなりました」
二人の話は穏やかに進んでいく。