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7 乾杯とキスキスキス
菊池さんが通常勤務に戻った。
若干やつれて、大人しくなっている。教える業務も大変だったし、こんな終わり方になれば無理もない。
「しばらくの間、私自身の問題でご迷惑おかけしました」
ぺこりと頭を下げた彼女は、小さく見えた。
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昼休憩で、近くの定食屋に菊池さんと万城目が来ている。
ここは焼き魚が評判だ。
「20代後半だと、魚がうまく感じますね」
「万城目君、まだ27歳で若いじゃない。何食べても平気よ。そこら辺の女子より綺麗」
「菊池さん、全部食べないと」
菊池さんは食事を半分以上残している。
「何だか、自信なくしちゃった。私なりに精いっぱいやったつもりなんだけど。何でこうなっちゃったかなって…つい、感情的になっちゃって」
「わかりますよ。菊池さんは何も悪くないです」
「恥ずかしくて、課長や人事に、体臭のことを言われてカッとなったなんて言えなかった」
万城目は横を向いてニヤッと笑った。
(だろうな)
店内は込み合っている。
「直接謝りたいと思ったのに、中川君は来ないし、連絡禁止だし…いつか出社したら、必ず会って誤解を解こうと思うの」
「会うんですか…それはやめないと、また訴えられますよ」
「いつかよ。時が来れば。誠意は通じるって信じてる」
「…」
「協力して、その時は」
万城目は話題を変えた。
「そう言えば、僕にも人事部から聞き取りがありましたよ、中川君について」
「ええ!そうなの…」
「菊池さんは何も悪くないって強く言いましたよ」
「あ、ありがとう…」
「僕は、菊池さんの味方です!」
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「チョろ…」
「私、チョロいですよ?」
わたしは、万城目さんを上目遣いで見つめた。
今日もレベル違いにカッコいい。ちょっと憂えるところも。
エレベーターで下から見上げてもいい感じ。
「きほちゃん、今夜は乾杯しようね」
私はおでこを彼の肩に押し付けた。
最近は、きほちゃんと呼んでくれるし、毎週金曜日には2人だけで飲みに行っている。
佐藤ちゃんに誘われても断って万城目さんを優先してしまっている。
だって、2人でいられるのもあと数週間…!
今夜は、決めたい。
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俺は、エレベーターの中で人事部との面談を思い出していた。
「ほんとチョロいわー」
俺は人事部のインタビューでは
菊池さんに全面的に味方した。
全ては、人事部の印象を良くするために。
中川については、担当ではないから知らないと言った。
実際は俺の言いなりの駒だけれど。
何の実績も上げていない新人に、再生の道はない。
入社して半年以内に、直属の上司をパワハラで告発し、うつ病の診断書を送って傷病手当を受ける奴なんか、今後、誰も使いたがらない。
中川はまさに脳筋バカ。
今頃ジムに行っているだろう。
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人事部のインタビュー
「菊池さんはもう新人を見る自信が無いと言ってました…」
「でしょうね、困ったものです。確か、彼女が先日、新人教育プログラムを刷新したじゃないですか」
「あれなんですけど、もともと発案したのは僕ですし、引き継ぎます」
「そうしてくれると有り難い。さすがは万城目さんだ…!」
「今後も、菊池さんを僕やナオさんで支えていきます」
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人事は抜けた穴をいかに埋めるかが課題だから、俺みたいに代わりにやってくれる人間は大好物。
勿論、こちらもかわりに評価をあげて賞与や出世を頂く。
俺は自分のPCを開けて、社員紹介のサイトを覗いた。
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万城目 仁
「新人教育プログラムを画期的に刷新:最新情報を自動アップデート」
「コメント:菊池 優子さんから引き継ぎ、随時改良していきますので…」
俺は深呼吸して拍手した。
「俺、お疲れ様~」
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「万城目さん!まだここに居たんですか?お店予約してるのに」
「あ、きほちゃん悪い。もう出るよ」
万城目さんの片づけを手伝い、私はさっとリップを塗り直した。
ハンドクリームを塗って長い髪を払う。
さっき、トイレでゆる巻きにしてきた。きっと髪からは香水のいい香りがしているはず…!!
「いいね、可愛い。可愛いを超えてる」
私は首をかしげてあざとくポーズした。
「もう、今夜は告白してください!」
「ええ?何を?」
「この間、言いかけましたよね?」
「ああ、きほちゃん飲みすぎだよって言ったの」
「違いますよね?す…す…って言ってた!」
会社の外に行くまで我慢できずに、ついはしゃいでしまった。
そこに佐藤ちゃんからメッセージ。
「今夜、何してる?話したいことあるんだー」
「もう家に着いちゃった」
「わかった、またね」
私は罪悪感で、両手を合わせて合掌した。
「ゴメン、埋め合わせはする!」
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私たちは、夜の銀座に繰り出した。
念願のタイ料理!
タイビールの軽さが好き。
「かんぱーい!」
「おめでとうー!」
「何におめでとうですか?」
「俺に…」
時々、訳の分からない事を言う、万城目さんが一番好き。
菊池さんと中川君のこともすごく心配していて、本当に優しい人だ。
「きほちゃんは、半年間によく頑張った。どこへ配属されてもやって行けるよ」
「このままでいたい。延長もできますよね?」
「それは習熟度が達してないから。きほちゃんは充分だよ」
「やだ!行かない!」
「今後、パワハラとか困ったら、いつでも俺を頼って。すぐに助けるから」
わたしは、すっと手を上げた。
「今、助けてくださーい。好きな人が告白してくれませーん」
万城目さんは、フッとビールを拭きだした。
「そんな奴、どこにいるの?」
わたしは、人差し指で、目の前の人を指さした。
「ここにいます!」
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気まずい…完全にタイミングを誤った。
席が隣になった時から、名乗るべきだった。
でも、きほに「家にいる」って断られたのに、銀座のタイ料理の店で鉢合わせしたら
気まずいもん。
しかも、教育係の万城目さんとデートのノリで盛り上がっているのに。
完全に私、邪魔だもの。
それに、きほが告白してる!あのプライドの高い爆美女きほが全力でぶつかってるよ…!!
どうする、万城目さん?
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直ぐ後ろの席に、同期の佐藤ちゃんが居て会話の全てが筒抜けだと全く知らない2人。
万城目は、きほのおでこにキスをした。
「はい、俺の負け」
もう一回、キスをした。今度は頬に。
「4月1日、最初に見た時からずっと好きでした」
「え?」
きほと万城目は見つめあった。
「せっかく、気持ちを抑えてたのに…」
次は、きほから万城目に、唇にキス。
2人は席を立って、しっかり腕を組んで店を出た。
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「完全にデキたなこれは…」
佐藤ちゃんはジョッキでタイビールをあおった。
中川君にチャットをする。
「今、大変な事が起きた」