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8 ドーナツは甘くない


万城目さんと近づくだけで、バチっと静電気がおきるみたい。


彼の体に触っていたい。


その衝動を抑えるのが辛い。


恋をしているからか、チーク無しでも常に頬がピンク色。


「これ、地下室の書庫に運んでくれる?」

「はい」


これは彼との合図。


数分ずらしてエレベーターに乗り、わたしと万城目さんは地下の予備室でキスをする。


時にはそれ以上も…


スリリングでたまらない。


彼の部屋でするより興奮する。 


万城目さんのGAPも堪らない。


ーーーーーーーーーーーー



そっと後をつけてきた佐藤ちゃんは、現場のドアの外で耳を塞ぐ。


「やばいやばい、、やばいよ!」


あの2人、同時にいなくなるから

怪しいとは思ったけれど!!


まさか同期の〇〇シーンを聞いちゃうなんて

AVか⁈

きほ、大胆過ぎるよーー!


万城目さんも、、!!


「私以外の人にバレたら大変…!誰かに、会社でするのは止めてもらわなきゃ」


一瞬、自分の教育係のナオさんが浮かんだ。


もさもさ頭の、平和主義のナオさん。だめだ、彼は面白がるタイプ。ダメだ。


もっと強い人…いた!


ーーーーーーーーーーーー


佐藤ちゃんは、菊池さんに相談した。


「やっぱりね。前から怪しいと思って、万城目君に言ったのに、まさか会社で致してるとはね…」


菊池さんは腕を組んで天を仰いだ。


このコンプライアンスの厳しい会社で、いい度胸だわ。


「他の人に見つかって問題になる前に、止めて欲しいんです…!」


「わかった。言っておくわ」


「ありがとうございます!」


佐藤ちゃんは頭を下げた。



ーーーーーーーーーーーー


菊池さんからの説教は応えた。


「チッ」


胸糞悪い。


もうバレてるなんて。


フロアでは、きほとよそよそしいほど口を利かないのに。


菊池さんからの忠告は、まるで見たかのようにリアルだった。


しかも、銀座のタイ料理でキスしたことも知っている。きほが佐藤ちゃんに話したのか?

いや、それは絶対にないと言っていた。


一体、誰が?


脳筋中川からチャットが来た。




「万城目さん、佐藤ちゃんが全部見たらしいですよ!」

「羨ましいですけど、控えてください(笑)」


「あの小賢しいボブか」


俺は佐藤ちゃんを思い浮かべた。


「先輩をチクるやつは会社に要らないよな」


ーーーーーーーーーーーー


俺は自分のPCを開けて、社員紹介のサイトを覗いた。


部署 プロフィール


佐藤 愛理


顔の画面を拡大。

ピンク色の付箋を顔に貼った。


「離職③」


ーーーーーーーーーーーー




万城目とナオさんは屋上で、コーヒーを飲んでいた。


「もうそろそろだなー、新人の卒業」


「なー、長かったー。教えるの大変」


「ナオさん初めてだもんね。乙でしたー」


2人の男は拍手。


「きほちゃん、めっちゃ仕事できるじゃん。教え方どうやったんよ」


「うん、その子に合った教え方がある。企業秘密です」


「何だよ、教えろよー」


ナオさんは同じ年だが、彼は浪人して大学院なので会社では俺の方が数年先輩。

社会人としても、人間としても俺の方が経験を積んでいる。


「佐藤ちゃん、すぐ覚えちゃうからわりとほっといて平気なんだよ」


「それ、やばくない?菊池さんと中川さんの事例じゃない」」


「だな…もっとまめに面倒見たほうが良いかな?新しい部署で困ると可哀想だし」


ナオさんは人がいい。


俺の見たところ、佐藤ちゃんは…他人の監視や抑圧を最も嫌がるタイプだ。


今のゆるいナオさん方式が合っている。

俺の分析能力は的確。


「俺、思ったんだけどさ」


俺はもっともらしく切り込む。



「佐藤ちゃんみたいな人は、細かく指示して教えた方が伸びる。3分に1回は報告させな」


「マジで?」


本当は正反対。マイクロマネジメントと言って、かなりメンタルやられる教育法。


「俺、佐藤ちゃんの提出物何回か添削したけど、ケアレスミス多いよね」


「そうなんだよ。スペル一個違ったり」


「今後、AI使う時そういうの致命的だから、合ってても最低5回はやり直しさせたらいいよ」


「5回?多くない?」


「俺はいつもそうしてるよ。結局は、それが新人の為だもん」


ナオさんはメモしていた。


きほが、すっかり優秀に変身したから説得力しかない。


その通りやってみな、佐藤ちゃんぶっ壊れるから。


ーーーーーーーーーーーー




ナオさんが急に施した窮屈で執拗な指導法は効果てきめん。


佐藤ちゃんは完全に生気を奪われた。


こまごまと口を出され、自発的なやる気を失った。


何度もやり直しさせられ、口答えも質問もしなくなり、ロボットのようになっている。


ーーーーーーーーーーーー


「佐藤ちゃん、大丈夫?」

「ムリ。きほ、変わって。もうやだ」


わたしは佐藤ちゃんの肩を揉んだ。


「もうすぐ最後のテストじゃん?締め付け厳しい…つか無理」


「がんばろ」

「きほは自由だね、色々と。上手くいってんだ、、いーなぁ」

「色々、気をつかうけどね」


佐藤ちゃんには万城目さんと付き合ってることを話してしまった。

きっと黙っててくれると信じてる。


私は順調に仕事を覚えていた。

彼は本当に人の気持ちがわかる人。

私って恵まれてるなぁ、、



ーーーーーーーーーーーー



残業中、佐藤ちゃんは1人で残っていた。

誰も残っていない。

お腹の鳴る音がフロアに響く。


「はぁ、、お腹空いて力が出ない」


「おつかれさま」


颯爽と万城目がやってきて、ドーナツの箱を置いた。


「!!あ、ありがとうございますー。神様ですか!」

「ただのドーナツだよ。一緒に食べよう」


万城目が佐藤ちゃんの仕事をサラっと見た。


「こんなに何回もやり直しさせられてるの?鬼だな」


「もすぐテストだから、完璧にやれってことですかね…でも、私、疲れちゃって。かえって集中力なくなってしまって、前より間違えるんです」


佐藤ちゃんが弱音を吐く。


「こんなこと繰り返して、意味があるんですかね?」


「佐藤ちゃんが1人立ちできないと思い込んでるからなぁ。当分、続くよ」


「えー…無理、ホント無理。出来てるのにずっと細々とやり直しばかり。死にそうです」


佐藤ちゃんはドーナツを口にくわえている。


「成長した事を見せれば、収まる。ナオさん単純だから」


「え…そうなんですか?」


「こないだ、大きな案件入ったよね?あれを最後まで1人でやりきれば、ナオさんに信用される」


昔から顧客の大型法律事務所から、特化セキュリティ、自社システムをオーダーメイドで受注したのだ。


「でも、あれミスしたらマジにやばい事になりますけど」


佐藤ちゃんはごくりと唾を飲む。


「ナオさんに頼らなくても、佐藤ちゃんならできるよ!って見せなきゃ。自分を信じて」


万城目は、手を振って帰っていった。


「やってみようかな、、」

佐藤ちゃんは呟いた。

わたしの彼はトキシックワーカー

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