現在の時刻。3:55分。
ついにこの時が来た。シウルが鳴る。
そして前数メートルの場所に絵画と同じ“何か”が現れた。きっとこれは科学的に考えてあり得ないが、どこか別の世界の入り口なのだろう。
俺と癒姫華はお互い目を合わせ、頷き、さっきよりも手を強く握りしめた。
「行こう」その一言にどれだけの自分の思いがあるかなんて言えない。
そして俺達はその何かに同時に触った────
ひんやりとした空気が肌に触れる。
風で葉っぱが擦れる音がする。
「ここは…」気が付くと見たこともないところに俺はいた。これが“別の世界”か。
そして俺はハッとする。
「…そんなことより癒姫華は?!」と俺は名前を呼び、辺りを見る。だけど、そこに癒姫華の声も姿も見えなかった。
「嘘だろ…」その時初めて時が止まったように感じた。
背筋が凍っていく。頭がクリアになる。
癒姫華がいない。その事実に俺は恐怖と喪失感で暫く動けそうになかった。
誰かに連れ去られたのか…それとも、別の場所にワープしたのか。
とにかく一刻も早くこの場所を離れて、癒姫華を探しに行かなきゃいけない。
絶対に守るって決めたんだ。
癒姫華だけは絶対。
それから俺は身を起こし、走り出した。
今俺が走っているところは地面はぬかるんでいて、辺りには木などが密集している森のようだった。湿度は高いようだが温度は低い。10度ぐらいだ。
上を向くと空が見えた。曇り空だ。これから雨でも降るのだろうか。それとも降ったあと?
どちらにせよ、この状況は非常にまずい。
足場が悪いのもあるが湿度で匂いなどもわからず、気圧が低いのか音も聞こえにくくなっている。
とりあえず、この森から出て街に出なければ。
だが、出ようにもどこまで走っても同じような景色しか見えない。
何か目印になるもの…もし、この世界に太陽や月があれば大体どこに向かえばいいか予測がつくんだが…。
それから俺は何もヒントがない中ひたすらに走った。そして、ようやく森を出たその場所は市場で賑わっていた───。
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