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「あばばば……」
「夢月ー? 大丈夫かー?」
休日に、とてもとても立派なビルへとやってきました。
学生からすると、入る事ですら恐れ多いというか。
関係無い私が入っちゃって良いの!? と本気でビビってしまう様な見た目をしているんですが。
そんな建物にすんなりと入っていく兄の後ろにピタリとくっ付き、受付で何か名札みたいなのを貰った。
なんだろうこれ、入場許可証?
とか思っていれば、一階奥へと進んだところで駅にある改札みたいなものが出現。
これに対して、兄が社員証をピッとやってから通っていた。
お、おぉ……凄い、立派な会社の社員って感じがする……などと馬鹿っぽい事を考えつつ後に続くと。
「へぶっ!?」
「だ、大丈夫か!? さっき貰ったヤツ、そこにピッってやって! そしたら通れるから……あれ? コレさっき受付でも説明されてたよな?」
カモの子供みたいに付いて行った結果、私だけゲートに弾かれてしまった。
これを見て、周囲の大人達がクスクスと笑いながら微笑ましい笑みを浮かべているのだが……は、恥ずかしい。
という事で、真っ赤な顔をしつつ一度戻ってピッ。
今度は無事通過出来てホッと息を零してみれば、エレベーターで上った先でももう一回ピッとやる扉が。
げ、厳重だぁ……それこそ、ガンサバでもこういう建物とか出て来るのかな?
だとすると、こんな建物もあるって知っておかないと……現場に行ってから混乱していたら、それこそ恥ずかしい姿を晒してしまいそうだし。
「こらこら、無意識に監視カメラの位置をチェックするな」
「ご、ごめんっ! 最近ガンサバばっかりだったから、つい癖で……」
そんな会話をしつつも、案内された先は会議室。
なんかもう見る物全てが新鮮で、必死で兄の後ろに付いて行きながらキョロキョロしてしまっていたのだが。
室内へと踏み込んだ瞬間、ウッ!? と苦い声が漏れてしまった。
広いテーブルに、既に何人もの人達が着いている。
この状況が既に気まずいというか、もしかして遅刻してしまっただろうか? なんて無駄に不安になってしまうけども。
「早かったわね、白川君」
「どうも。そんな事言いつつ、他の皆さんの方がお早い様で」
中に入った瞬間、何か凄く綺麗な女の人がお兄ちゃんに声を掛けた。
会社の人……かな? 凄く格好良い感じに、ピシッとスーツ着てるし。
でも雰囲気は柔らかい感じの、まさにお姉さんって見た目。
綺麗な人だなぁーなんて思って、ポカンとしつつ兄の後ろに隠れていると。
「初めまして、君が白川君の妹さんで良いのかしら?」
その人が、更に緩い微笑みを浮かべつつ此方を覗き込んで来た。
ひぃぃっ! コミュ力と美人力が高い!
思わず更に隠れそうになったけど、どうにかヒョコッと兄の背中から身を乗り出し。
「は、はじめまして……その、えと。白川 夢月、です……いつも兄が、というか私も……こちらの会社……じゃなかった、御社にはお世話に、なっております……」
プルプルしながらも、どうにか用意してあった言葉を並べてから頭を下げてみると。
相手は更にニコニコ、兄はちょっとだけ呆れ顔。
何か間違いましたか!? この挨拶は駄目でしたか!?
早くも泣きそうになりつつ、兄と美人さんへと交互へ視線を送っていたが。
「夢月、緊張し過ぎ。もうちょっと肩の力抜いて、な? それからこちらは、俺の上司。“早乙女 秋名”さんだ」
「じょ、上司!? それじゃ凄く偉い人!」
「落ち着けー?」
だって、だって! お兄ちゃんの上司なんて言ったら、私が失礼な事したら絶対不味い相手じゃん!
とか何とか、もはやパニック。
どうしたら良いのか分からず、その場で完全に挙動不審になってしまったのだが。
「白川君……何この子、めっちゃ可愛いんだけど。ハグして良い?」
「駄目です、他の目もあるんですから。仕事中は自粛して下さい」
などとよく分からない会話が繰り広げられたかと思えば、相手は此方の頭に掌を乗っけて来た。
物凄くニコニコしているけど……一応、失礼は無かった……と言う事で、良いのだろうか?
そんな事をやっていると、テーブルに着いていた側から大きなため息が聞こえて来て。
「ねー早乙女さーん! “シックス”はどの人ー? 早く自己紹介始めようよー!」
何やら結構派手な格好をした女の人が、それなりに大きな声を上げて来た。
あの人も社員……では、ないのかな?
思いっ切り私服だし、髪色も派手だ。
なんて言うのか知らないけど、こう……頭半分髪色が違うというか。
す、凄い。リアルでは初めて見た。
あ、もしかして私と同じで“賞金首”のプレイヤーなのかな。
だとしたら凄い、あのゲームで“プロ”として雇われた中にも、女の人が居たのか。
ちょっと尊敬……などと思ってから、自分の性別を思い出すのであった。
まぁ私の場合は身内のコネみたいなものなので。
そしてこれを期に、テーブルに着いている面々を見回してみると……本当に様々。
スーツ姿の人が会社の人? とか思ってしまったが、他の人は殆どスーツなのでよく分からない。
どうにもペアで席に着いている様な感じで、二人ずつ並んでから少しだけ席の距離がある、みたいな不思議な配置。
「あとはウチの運営スタッフが集まれば全員だし……せめて契約したプレイヤーの紹介くらは、始めちゃっても良いかしらね?」
とか何とか、やれやれと首を振る早乙女さんに促され、私とお兄ちゃんも席に着いてみると。
「それじゃまずは私から。皆様本日はお忙しい中お集り頂き、誠にありがとうございます。ガンサバイブオンライン製作チームで、“賞金首”のプレイヤーである皆様の統括管理を任されております、“早乙女 秋名”です。どうぞ、今後ともよろしくお願い致します。各担当以外に連絡が取りたい場合などは、お気軽に私へご連絡下さい。そして、私が担当している“賞金首”が――」
「はいはーい! 賞金首“seven”を担当してます、“小鳥遊 柚”って言います! 元々ゲーム実況中心の配信者で、プレイの腕を買われて、顔出し無しの仕事ですけど依頼受けちゃいました~! 皆さんよろしく~!」
会議室の中央に立った早乙女さんの声に反応したのは、先程声を上げていた派手な感じの女性。
見た目通りテンションも高いらしく、今では集まった人たちにブイッ! とピースサインを向けている。
よ、陽の者だぁ……私とは正反対の人間だぁ……などと思ってビクビクしていたのだが。
「彼女、小鳥遊さん。お前と同じ、前回のイベントで勝利を収めたプレイヤーだ。随分と気安い感じではあるけど、マジで強いぞ」
なんて、お兄ちゃんがコソッと教えてくれた。
へ、へぇ……凄い人なんだ。
というか、あれ? 前回の賞金首イベントの結果、そういえば詳しく聞いてないかも。
でも皆凄い人が集められたって話だし、私なんかが気にする事では無いのか。
という事で、口を噤んだまま大人しくしていれば。
「ち な み に~、“シックス”の中の人とお近づきになりたくて、今日は参加してまーす。誰がシックスなのか、超興味ある!」
だ、そうです。
あの人が使っているキャラクターが“セブン”で、他に“シックス”って人がいるのか。
何だか良いな、名前の時点で仲良さそうで。
元々から一緒にゲームやっていた人なのかな? そして今回の顔合わせが、それこそオフ会みたいな?
そういうのもちょっと憧れるけど、私には無縁の話だろうなぁ……。
実際新しく始めたキャラだって、黒沢君以外と関わっていないし。
リアルでもゲームでも、友達を作るのって難し過ぎるよ……。
とか、思っていたのだが。
「という訳で白川君、良いかしら? ウチの賞金首がずっとこのテンションだと困るから……」
「了解です。皆様初めまして、白川 努と申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。そして、私が担当している“賞金首”は……ホラ、夢月」
「え、え、え?」
なんかいきなり挨拶の順番が回って来てしまい、完全に思考真っ白状態で立たされてしまった。
どうしようどうしよう、何にも言葉が思いつかないけど。
さっきの人みたいに、雰囲気の良い自己紹介とか出来ないんですけど。
というか私みたいなド素人、絶対皆興味持ってる訳ないし……そもそも、一人だけコネでバイトさせてもらってるって、場違い感が半端じゃないんですけど。
もはや頭から煙が上がりそうな程混乱しながらも、しばらくの沈黙をおいてから。
「ぁの、その……し、白川……夢月、です……お兄ちゃんに、お仕事を紹介してもらって参加して……るので。み、皆さんからすると、凄く……その、弱いと思います……けど。よろしく、お願いします……使ってるのは、“6key”っていう、キャラクター……です」
ちゃんと聞こえたかな? と不安になってしまいそうな声量で、どうにか挨拶を終え。
必死にペコペコと頭を下げてみた結果。
なんか……物凄く、会議室が静かになってしまった。
こちらを見て、手元の資料へと視線を落として、またこっちを見る、みたいな。
ま、不味い。やっぱり場違いな会議に参加してしまっただろうか?
緊張でお腹痛い、早くも帰りたくなって来た。
そんな事を思いつつ、突っ立ったまま真っ赤な顔でプルプルし始めると。
「…………な、なぁ!? 貴女が“シックス”なの!?」
さっきの女の人が、ガタッと席を倒す勢いで立ち上がった。
反射的にビクッと身体が反応し、相手の勢いに押されて全身が震えているのが自分でも分かる。
「ち、違い……ます。人違い、かと……。私のキャラ、ムッツキーなので……シックスなんて、格好良い名前じゃ……ない、です」
「ムッツキーって! いやアレ“ムッツキー”って読むの!? てっきり“シックスキー”なのかと……いや、そっか。夢月ちゃんだから、そのまんまムツキーって事か……」
なんかよく分からないけど、相手の女の人も混乱しているのか。
ブツブツと呟きながらも、此方をジロジロと観察して来た。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
私みたいなド素人の小娘が参加して良い席じゃないですよね、今すぐ帰りますので許して下さい。
とか何とか、もはや泣きたくなって来たところで。
「君が……本当に、“6key”? あ、ムッツキーだったか。信じられないな……まさかこんな少女だったとは。てっきり“本業”にでも声を掛けたのかと思っていたが……」
テーブルに着いていた他の人、というかスーツがピチピチになる程ムキムキな男性が、そんな声を上げ始めたではないか。
本当に意味が分からないけどごめんなさい、中身が私でごめんなさい。
という事で、会議室に居る全員に向かってペコペコと頭を下げていたが。
「私が担当している“賞金首”は見ての通りまだ若い、その上私の妹というのも事実です。しかしながら……動画を見て頂いた方なら、理解出来ると思います。ウチの妹は、“本物”ですよ? 間違っても、身内贔屓で“賞金首”をやらせているなどと思わないで頂ければ幸いです」
こちらの頭に掌を乗っけながら、ウチの兄がニッと口元を吊り上げるのであった。
お兄ちゃん、お願いだから……相手のヘイトを買う様な言動は、控えて下さい……。