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その後他の人の自己紹介が続き、一通り終われば今後の予定が発表された。
私達賞金首プレイヤーの本来の目的は、ゲーム内の“治安維持”にも近い状態。
けども、前回のイベントによって少々方向性が変わったというか。
そもそもユーザー側が、本格的な“悪い事”をするよりも、“悪い事してますよー”ってアピールの方が多くなったんだとか。
簡単に言うと、自分の元に私達を向かわせようとしている方針が強くなったんだそうで。
これに関しては運営陣も笑ってしまう事態だったらしく、滅茶苦茶悪い事してますよー! って声を大にしてNPCとトラブルを起こすプレイヤーが、実は物凄く親切だったり。
とてもとてもガラ悪いです! っていう格好の人達が、新人さんに丁寧にレクチャーしている姿も見られる様になったんだとか。
一見普通の世界に見えて、裏側は殺伐としてますよーって世界観だった筈なのに。
表側の治安が悪くなって、裏側こそ綺麗になってしまったという、不思議現象。
結果、本当に迷惑行為をする様なプレイヤーは逆に“そういう人達”にマークされ。
その人の元に賞金首が襲って来ないかと、ソワソワする皆様につけ回されてしまう事態が発生しているらしい。
見た目だけチンピラの街になってしまった様だが、その実課金してくれるプレイヤーは物凄く増えたんだそうです。
ヨ、ヨカッタネ……。
「とまぁ、想像以上にユーザー側から“賞金首”を求められている事態が発生してしまっている訳です。そこで皆様には、本来の活動よりもゲーム内の“アイドル”的な方向にシフトしようかと。まぁこれもお試しみたいな所はあるんですけどね?」
そんな事を言って、早乙女さんがちょいちょいっと資料を指さすと。
それぞれに付いている“担当さん”達が、私達プレイヤーに対して追加の資料を差し出して来る。
私の場合はお兄ちゃんなので、「これな、ちゃんと見ろよ?」「わかったー」みたいな緩い感じだけど。
チラッと他の席へと視線を向けてみると……どうやら、賞金首全員が集まって居るという訳では無さそうだ。
室内に居るそれっぽい人は、私を含めて全部で五人くらい。
派手な女の人と、さっき声を上げていたムキムキの人。
後の二人は、会社の人と見間違える程に普通な感じ。
ちゃんと自己紹介を聞いていれば、こんな観察は必要無かったのだが……察して頂ければ幸いです。
その後イベントの説明が始まり、手元の資料にも視線を落としてみると。
「全体を使った……“キツネ狩り”?」
書いてあった文字列に、思わず首を傾げてしまう。
狐? 狐を狩るの? なんで?
ひたすらに疑問符を浮かべている私を他所に、早乙女さんの説明は続き。
「タイトルを見ただけで、ある程度想像出来たかと思いますが……今回皆様が“勝利”するのは難しいイベントかと思います。まずはそこを謝罪すると同時に、賞金首には狐役をやって貰いたいのです。これは単純にユーザーを喜ばせる為のイベント、という事になりますので。皆様はやられる事を前提とした“景品”となります」
はい? うんと、どういう事だろう?
勝てない勝負をする感じなのだろうか? なんで?
いやまぁ、それでプレイヤーが喜んで、運営側が儲かりますよって話なら別に良いんですけど。
やれって言われれば、やりますけども。
でも“狐役”って、何?
コーンってやれば良いの? 私のキャラ、おじさんだけど。
「早乙女さーん、コレさぁ……別に私達が“勝っちゃいけない”って訳じゃないんでしょ?」
派手な女の人が、なにやら意味深な声を上げながらニッと口元を吊り上げた。
あの、もしかして……企画のタイトルを見ただけでも、やる事が分かっている感じなんだろうか?
やばい、他の人も何やら真剣な顔で続く話を聞こうとしている。
多分わかっていないの、私だけだ。
「もちろん。逃げる、隠れる、逆に相手を“狩る”。本当に何でも有りですよ? 今回のイベント中に限り、賞金首にやられてもユーザーにデバフの類は発生させない予定です。だからこそ、誰も彼もリスポーンした瞬間に再度襲って来る事が予想されます」
え、なにそれ怖っ。
全然数が減らないって事じゃないですか、ゾンビアタックじゃないですか。
「しかしそんな事になれば、此方はずっと戦闘になる事が予想される。その場合弾薬は? まさか弾切れを起こしたらそのまま、なんて事はないんでしょう? 資料を見る限り、こちらもリスポーン可能と書いてあるが……それまでは、元々準備した弾薬のみで生き残るんでしょうか?」
「これに関しても、皆様のご意見が欲しい所です。確かにそういう“縛り”を入れた方が、ユーザー側からの反感は少ないでしょう。弾切れの所を狙うっていう戦法も取れますしね? 要はチャンスを此方から提供する形です。しかし皆様は、最初から不利過ぎる状況にあります。その為、このイベントに参加して頂ける賞金首に関しては、各所に弾薬補給ポイントの設置、または期間中“弾無制限”の措置も検討しております」
筋肉ムキッ! の人が手を上げて、何やら質問した事に対し。
早乙女さんはニコッと柔らかく微笑みながらも、どこか相手の反応を伺う様な表情を浮かべた。
二人が何を考えているのかとか、全然分からないけど。
私からすると、大人の会話って怖いって印象しかない。
間違い無く両者共、相手から何かしらの“答え”を求めているのが分かるのだ。
そもそもイベント自体を理解していない私には、全くその答えが想像つかないけど。
「はいはーい! 私は弾制限ありで良いでーす! 不利だからってチート使ったら、それこそつまんないし。一か所に立てこもって撃ちまくる~、なぁんてつまんない事する賞金首は居ないだろうけど。もしもそんな事になったら、バッシングの嵐ですしー」
再び女の人が発言したのだが……なんか、挑発的というか。
他の人たちを煽っている様な口調なのが、ちょっと気になってしまった。
これに対して、室内が少々ピリッとした空気になってしまい。
やはり私は、アワアワする他無かった。
だって、皆が何を喋っているのかさえ良く分かっていないので。
などと、完全に置物になれれば良かったのだが。
「それこそ“シックス”の十八番戦術じゃないですかぁ~、私もアレやってみたーい! 相手の武器を奪って、自分の弾を消費するのは最低限。それで長期戦を生き残ったら、めっっちゃ格好良いじゃないですかぁ!」
「ふぁっ!?」
あの人が言っている“シックス”って、私の事……だよね?
急に、というかこの空気の中話題を振られてしまい、周囲の視線は全員揃ってコッチに向いてしまったではないか。
ど、どうすれば良いんだろうコレ……え、え? 私も何か、喋った方が良いの?
「“6key”さんとしては、どう思うか聞いて良いだろうか? このキツネ狩り、貴女なら生き残れる自信はあるか?」
ムキッ! の人まで、私にそんな質問を投げかけて来たではないか。
これはもう、なんか喋る他無いのだろう。
全然話題について行けていないので、完全にお気持ち表明にしかならないのだが……。
「わ、私は……その、いつも通りで、良い……です。今回だけ普段と違うって、そう言われても……多分、パニックになって、忘れちゃうので……結局、いつも通りになる……と、思います」
ポソポソと小声を上げてみれば、先程から発言している賞金首二人と。
更には早乙女さんが、今まで以上に口元を吊り上げたのが此方からでも確認出来た。
わぁぁぁ! 滅茶苦茶情けない発言しちゃったけど、何か皆意味有り気に笑ってる!?
完全にパニックに陥ってしまい、その後の会議に関しては殆ど頭に入って来なかったという。
私今日、あの場所に何しに行ったんだろう……。
◆
「シロさん、大丈夫? なんか、疲れてる?」
「あ、あはは……ダイジョブ、デス」
それから数日後、夜。
黒沢君に付き合ってもらって、“46leather”の方でストーリーイベントを進めていた訳なのだが。
なんかもう、あの会議を思い出すと今でもため息しか零れない。
仕事に関わる会議って、大変なんだなぁ……っていうのと。
私の意見が影響した? のかは知らないけど。
結局イベントは、チート無しの状態で進める方針になったと聞いている。
そして会議の後、家に帰って兄から今一度“キツネ狩り”イベントについて説明してもらった結果。
「あぁぁぁ……やっぱり間違ったかなぁ……」
「ん? どうしたの? ステ振り何かミスった?」
「あ、スミマセン。ダイジョブです……」
ゲームをしながら、ゲームの事を悩みまくっていた。
だって件のイベント、サーバー内のプレイヤー全員とかくれんぼ兼鬼ごっこをしろと言われていたのだ。
賞金首はフィールドの何処かに居て、それを見つけ出して狩るという、本当に単純なゲーム。
言うのは簡単だけど、狩られる側の事も考えて欲しい。
だって私達、10人しかいないんだよ? 今回のイベントに、賞金首が全員参加するかも分からないんだよ?
だというのに、プレイヤーはサーバー内に何人いると思っているのか。
負けちゃっても問題無いし、普通にリスポーンも出来るみたいだけど。
イベントの時間内、ずっと逃げ隠れしないといけないんでしょ?
しかも戦闘込み、弾制限有り。
本当にすみませんでした、弾無制限にしてもらうべきでした。
あの発言で、他の賞金首の人達に恨まれていないと良いんだけど……。
「シロさん、本当に大丈夫? 今日はもう止めておく?」
「い、いえ! 大丈夫です! すみません、集中します!」
そんな訳で、本日も普通にゲームをプレイしていくのであった。
あぁ~……こっちのキャラだと、小さくて軽い銃の方が扱い易ぃ……。
サブマシンガンだと相変らず、中距離でもびっくりするくらい当たらないけど。