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黒いスニーカーと黒のジーンズに、雑草に付着している水滴が一杯くっ付いて、数メートル歩くと足がびしょびしょになった。辺りには木々がでたらめに散乱し、建造物はやはり一つしかない。これはどうしても怖くて仕方がないがあの建造物に入るしかない。人影や物音も無く。せいぜい風の音ぐらいだ。爪先までもが冷たくなり、急に心細くなり始めた。
建造物に近づくと、遠くで複数の犬の鳴き声がした。出来れば犬に出会いたくないものである。
建造物は高い鉄柵に囲まれていて、中は薄暗い、確かに刑務所を連想させる。しんと静まり返っているので、外からでは、人の気配はこの建造物の中にも皆無のようだった。
有刺鉄線がぐるぐる巻きの鉄柵、両開きで大きい厳重な扉を幾つも開け放って、恐る恐る建造物の中に入った。鍵は全て掛かっていない。
中は冷たい空気と埃の臭いがする。両側には剥き出しのコンクリートの壁があり、天井も灰色のコンクリートで一定間隔で裸電球がぶら下がっていた。
「誰かいませんかー! 体を温められれば何でもいいです……! 何か下さい!」
そう叫んでみても、誰も答えるどころかシンと、静まり返っていた。
仕方なく奥へと進むことにした。あまりにも物々しく殺風景なので、この建造物はやはり刑務所か何かの収容施設なのだろう。
玄関から、右側には20人くらいも使える幾つかの細長い靴箱の空間があり、左側には強化ガラスの窓の広い事務所がある。ここには、上着がありそうなロッカールームもありそうだ。
私は、体の芯まで凍えそうなので、左側の事務所に入った。何年も使い古したような薄汚い机と椅子が散乱している。やはりここも殺風景だ。寒さで震えながら奥のロッカールームに入り、冬用の厚手のジャンパーがあったので、これを着て寒さを抑える。そこでもう一度、何とも心細いので人を呼んだ。
「誰かいませんかー!」
辺りはシンと静まり返っていた。やはり、誰もいないようだ。
こんな刑務所なんかに一人でいると、なにか恐ろしい妄想をしてしまいそうである。
例えば、二人組の凶悪な死刑囚が襲ってきたり、刑務官が手錠片手に追い掛けてきたりと……。
そんな考えが自然と脳裏に浮かんだ。