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前回のあらすじ
勇者はカイルのことが好きだった
カイルは寿司を次々と口に運ぼうとするが、視線は隣に座るエリーの異常な食べっぷりに釘付けだった。
皿が高く積まれ、隣の席にまで雪崩れ込むように並んでいる。
「ちょっと待て!そんな食ったら俺の金どんどん減りますやん!!」
驚愕を通り越して焦燥に変わる。
「大食いでもそんな食わんぞ!あんた体の中どうなってんだ!?」
ようやく口を拭い、水を一口だけ含んで落ち着きを見せたエリーは、何事もなかったように微笑む。
「だから言ったでしょ。私は少し多く食べるって。」
「少しちゃいますやん!!思ってたんと違う!!もっと色気あるように食ってよ!!」
カイルの叫びに、エリーの肩がわずかに落ちる。息を小さく吐き、しゅんとした仕草を見せるが、その表情は計算されているようにも見えた。
「金貨1000枚どうやって稼いだ思ってんの!死に物狂いで稼いだんだぞ!!」
必死に訴えるカイルの顔は真剣そのもので、ついにエリーの表情が曇る。
「あなたさっき、あれだけ金貨1000枚あるって自慢したじゃない。なのに寿司を食べるだけでそんなに言うって、ダサくないかしら?」
「寿司の値段知らんけど、そんな食ったら、この後の楽しみも減りますやん!!寿司だけでいくら減ったんだ!?」
あまりのうるささに、エリーはぷくりと頬を膨らませる。
「もういいわ。食べるのやめる。」
悲しそうに顔を両手で覆い、指の隙間からカイルの反応を盗み見る。だが彼は全く気にせず、幸せそうに寿司を頬張り続けていた。
私のこと無視して寿司を食べるなんて、ひどい男。
「もーらい!」
エリーは素早く手を伸ばし、皿の端にあったウニの海苔巻きを奪い取る。
「俺の奪うなよ!」
「レディーに我慢させて、あなただけ満足するのはおかしいでしょ!」
「いやいやいや、なんでそんな食って満足してないんや!逆におかしいだろ!!」
「ふん!もう食べなきゃいいんですね!!わかりました!!」
腕を組んでそっぽを向くエリー。だがすぐに、再び皿に手を伸ばしカイルの寿司を一つつまんでぱくり。
「これで満足かな。」
小悪魔のような笑みを浮かべるエリー。その可愛らしさに、カイルの怒りはあっけなく溶けていった。彼女はそれを見逃さず、にじり寄るように身体を寄せる。
「夜にしっかりとお礼はするから」
「お、おん……」
カイルの頬が一気に赤く染まる。エリーは「ごちそうさま」と告げつつも、まだ寿司を名残惜しげに見つめていた。
やがて食事を終え、会計に進もうとカイルが袋を探ると、エリーがすっと制した。
「会計は大丈夫よ。」
「なんで?」
「ここのビルでは一階の受付でまとめて払うことができるの。だから食べ終わったら店主からカードをもらうだけで良いのよ。」
「そんな機能あったんか。」
「ここのビルは最新の技術を取り入れてるからね。売られている物も最先端のものばかり。ここで手に入らないものはほとんどないわ。」
カードを受け取り、再びエリーに手を引かれながら歩き出す。
「カイル君はどうやって王宮で働くことができたの?」
「スカウトされたんだよ。」
「すごい!カイル君ってすごい能力を持ってるの?」
期待に目を輝かせるエリー。その視線に耐えきれず、カイルはあやふやな笑みを浮かべた。
「それは秘密さ。あまり深く喋ったらダメって上の人から言われてね。」
「気になるなぁ。ちょっとくらい教えてよ。」
「ダメなものはダメ。でも俺の活躍はすぐ皆んなに知れ渡ると思うよ。」
「それを楽しみにしておこうかしら。他の女の子が近づいても私のことだけ見ててね。」
「それは無理や。俺はハーレムが夢なのだから!!」
「はぁ……まぁ正直に生きるのも素敵なことだと思うわ。」
「っていうか今どこ行ってんの?」
「良いところないか探してるんだけど、カイル君はどこか行きたいところある?」
「俺、武器買いたいんだよね。」
「あなた騎士なの?」
「俺ハンターしてる。」
「その細い体で?力も魔力も少ないのに?」
「なんやと!?この前のダンジョンの事件知ってるか?」
「うん。」
「あのダンジョンのボス倒したの俺だぞ!!」
「どうやって倒したの?」
「いやいや、そこは褒めるところですやん!」
「あなたってめんどくさいのね。」
「こっち金払ってんだから気使ってよ!」
「すごいすごい。」
「な……ここまでひどい女性は会ったことないぞ。」
「私もあなたみたいなめんどくさい男と会ったことないわよ。」
「じゃあ、俺の凄さ見せてギャフンって言わせてやるよ!武器屋どこや!」
「ここよ。」
目の前に現れたのは、名前すら掲げていない重厚な扉。
「ここなの?」
「この店は会員限定の店よ。私が会員だからあなたも入って大丈夫。」
「なんで会員なの?っていうかどこでそんなこと知ったん?」
「私は一人で世界を旅してるから持ってる武器はこだわらないと後々困るのよ。」
「エリーってなんか俺より凄くね?」
「やっと分かった?」
「生意気言ってすんません。」
「よろしい。じゃあ入りましょ。」
扉を開くと、空気が一変する。赤い絨毯が敷かれた広間に、透明なケースの中で煌めく数々の武器。剣、盾、槍、どれもがただの道具ではなく芸術品のように展示されていた。
「カッケェ!」
興奮を抑えきれず、ケースに額がつくほど近づいて覗き込むカイル。赤と黒の線が絡み合う一本の剣。その美しさに目を奪われ、値札を見て目玉が飛び出しかけた。
「これ300大金貨もするんか!?」
「この武器はあなたが使えるものじゃないから気にしなくていいわよ。あなたのランクは?」
「今はEランク。でもすぐに上がると思うけどねぇ」
「あなたEランクで王宮に雇われてるの!?聞いたことないんだけど!」
「ランクだけで人を判断するのは良くないぜ。」
「確かにそうだけど……あなたどこからどう見ても弱そうなのよね。」
「はぁ!?俺に喧嘩売ったやつはみんな返り討ちにしてるんだぞ!」
バカにするように笑うエリー。そのまま軽やかに奥の扉を押し開ける。
「本当に?じゃあ向こうの部屋で戦いましょうか。」
「え?」
「いいから行くわよ。」
扉の向こうに広がるのは、まるで闘技場のような空間だった。床は硬質な石で覆われ、壁には試し斬り用の人形や魔力測定具が整然と並んでいる。
「ここで戦うの?俺まだ寿司食ったばっかだから動けないんだけど。」
カイルの弱音が虚しく響くほど、その場の空気は張り詰めていた。エリーの笑みは、もう先ほどの可憐さを欠いていた。
「もしかして怖いの?王宮でハンターとして働いてる男が女性と戦うくらいでビビってるの?」
エリーは顎を少し上げ、挑発的に笑みを浮かべる。彼女の声は柔らかいのに、言葉は鋭くカイルの胸を突いた。
「な、なんやと!?」
カイルは思わず一歩下がり、耳まで赤くなる。
「もしかして、王宮で働いてるって言うのは……嘘?」
「嘘じゃねぇし!」
慌ててバッグを漁ると、小さな袋を取り出して掲げた。袋の口を少し開くと、中に刻まれた紋様が見える。ドラゴンと一本の剣が交差する意匠。王宮直属の者しか持たぬ証だった。
「これが目に入らぬか!」
エリーは腕を組み、その紋様をじっと見つめた。
「どうやら本当のようね。」
「でしょ!俺が本気出せば王様だって頭下げるんだからね!」
自信満々に言い放つカイル。しかし、エリーの唇に浮かんだ笑みは冷たい。
「でもこの袋……」
「ん?」
エリーは鼻で笑った。
「いや、何でもないわ。それより早く始めましょ。」
「マジでやるの?」
「マジよ。早く武器を選びなさい。」
エリーの声音は挑発の域を超え、命令のように強い。
「怪我したらどうすんのよ。仕事できなくなりますやん!!」
「怪我をしてもここの空間には治癒魔術が常時展開されてるからすぐに治るわ。本当ビビリね。」
さらりと言い放つエリーに、カイルはぐっと言葉を詰まらせた。彼女の余裕に呑まれまいと、わざと大げさに肩をすくめる。
そして目の前に並ぶ数え切れないほどの武器へ視線を走らせた。だが、並んでいるのは輝きを失った鉄片ばかり。刃こぼれし、錆に侵食されたものまである。
「何でここだけボロい武器ばっかなの?」
首をかしげるカイルの横で、エリーが軽く肩をすくめた。
「ここはあまり使われないのよ。会員のほとんどは有数の強者だから、ここで試用しても威力が高すぎて、効果がよくわからないしね。」
「ここの会員なれたら、強い男に認定されるってことやな。」
「そうね。でも貴方には無理でしょ。」
カイルの頬に歪んだ笑みが浮かんだ。
「その言葉後悔するなよ」
視線が交錯した瞬間、二人の間にじりじりと熱を帯びた気配が広がっていく。空気が乾き、まるで目に見えぬ火花が散ったかのようだった。
「じゃあ早速始めましょうか。」
「良いけど、勝敗ってどうやって決めるの?」
「武器が使えなくなったら負けでいいんじゃない?私が勝つのは目に見えてるし、痛い目に合わせたいわけでもないから。」
「武器が使えなくなったらか」
カイルは口元を吊り上げ、小さな笑みを刻む。その顔はふざけているようで、どこか確信に満ちていた。
この勝負、勝った。
胸の奥で呟き、挑発を返すように問いを投げる。
「エリーちゃんが負けたら、どうすんの?なんか俺にいいことある?」
「何言ってるのよ。私がEランクの雑魚に負けるわけないでしょ。まぁもし負けたら欲しいものでも買ってあげるわ。」
その返しは鋭く切り込んできたが、彼女の声には余裕が滲んでいた。張り詰めた空気はさらに濃くなり、互いの息遣いさえも緊張を煽る。
エリーが剣を取り、カイルも同じように手にする。
「エリーちゃんって剣使うんだ。」
「いや、私は沢山の武器を使えるけど、剣なら手加減もできるかなって思って。」
「なるふぉどね!その態度、俺が叩きのめしてやる!!」
「かかってきなさい。」
エリーが片手をクイッと上げて挑発する仕草は、余裕たっぷりに見えた。
「一式・立風やー!!」
カイルは大声で技名を叫びながら飛び出した。だが、あまりに遅すぎて、エリーの目が思わず見開かれる。
「これが空を切り裂いた剣聖の力だー!!」
「あなたどんだけ運動神経悪いのよ。よくそれで王宮で働けるわね。」
嘲る声も、カイルの耳には届いていない。彼はひたすら、エリーゼの動きを真似しながら大振りの剣を振るう。
「ファイアー!!!」
剣を振った後になぜか叫んだが、衝撃は一切伝わらない。カイルが顔を上げると、エリーは真顔で立ち尽くしていた。
「エリーちゃんってめっさ強いんだね。この俺が認めてあげよう。」
「あなたヴァルムート流剣術を馬鹿にしすぎよ。あの剣術は相当レベルが高いのに、カイル君みたいな子が使えるわけないでしょ。」
「練習したの1時間くらいなんだから仕方ないだろ!!」
「じゃあ教えてあげるわ。」
「ふぇ?」
「一式・立風っていうのはこうするのよ!!」
エリーは腕に力を込めて剣を振ろうとするが、手の感触が変だった。
「は?」
握っていた剣が無くなっていたのだ。
エリーは焦りでほんの一瞬だけ魔力と殺気を放つ。放出された魔力が過剰で部屋に纏われている結界が壊れる。
だが、カイルは全く気付いていない。ずっとドヤ顔のままだ。胸を張り、指を突きつけて叫ぶ。
「俺の勝ちだ!武器使えないもんね!!だってないんだもん!!!」
冷静を取り戻したエリーは必死に周囲を探す。だが、どこにも剣はない。
「カイル君は何者なの?あなたのその力はおかしいっていうものでは済まないくらいのものよ。」
「言っただろう。俺は特殊な人間だって。その気になれば王様だって頭を下げるのさ。」
「王様に頭下げさせるっていう自慢はダサいけど……能力は認めてあげるわ。私の魔力にも殺気にもビビってないようだし、才能はあるのかもね。」
「だろ?まぁ朝飯前ってとこよ。」
「じゃあもうここから出ましょうか。用は終わったしね。私疲れたわ。あなたは武器をゆっくり見てて。私は飲み物を買ってくるわ。」
エリーは早口でそう言い、足早に部屋を出ようとする
「ちょっと待った!さっき言ったこと忘れてないか!!」
読んでいただきありがとうございます!!