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2〜5話あたりで名前がゼフィアと間違えていました。すいません。正しくはゼルフィアです。ここまで読んでいただきありがとうございます!!
前回のあらすじはですね!えーっと……エリーの食費は結構高い、です!!
エリーは苦笑いを浮かべて、肩越しにカイルへと顔を向ける。細めた目の奥に小さな苛立ちを隠しているのに、声色だけは軽やかだった。
「あれは冗談よ。レディに向かって、そんな必死になるのはダサいわ。」
「なにがレディや!!エリーゼちゃんとクレデリスちゃんの方が100倍マシだ!!あなた大食いで少し強いだけや!!」
鋭い一撃を浴びせられたかのように、エリーの表情が止まる。
「そんなこと言われたの初めてなんだけど。」
口元を歪めながら、彼女は両手で顔を覆った。わざとらしく肩を震わせ、隙間から指先でカイルの様子を盗み見る。彼が近づいてくる気配に合わせ、鼻をすすり上げる音を立ててみせた。
「私、そういうこと言われると傷ついちゃうの。か弱い乙女にそんなこと言わないで……」
涙声の演技。だが、カイルの顔には同情の色は一切浮かばなかった。むしろ苛立ちを押し隠さない。
「そんなんええわ!!俺はね生意気な女性に関しては厳しく行くことにしてるのよ!!だって俺みたいな誠実な男に、そんな態度取るなんてバチ当たりやん!!」
鋭い声が店内に響き、エリーは思わず演技をやめた。拳を握りしめ、噛み殺した苛立ちが声になって爆発する。
「なんなの、あなたさっきから!ずっと調子乗ってばっかでさ!で、私に何をして欲しいの!!」
カイルは迷うことなく、武器が並ぶ棚の方を指差した。
「武器買って」
間髪入れぬ即答に、エリーの目が一瞬見開かれる。
「え?今なんて?」
「武器買ってください。おねしゃす。」
「あなた私に武器買わせるの?」
「いや、さっきの武器欲しくてさ。でも大金貨300枚よ。俺にはまだ無理。だから、おねしゃす。」
「いやいやいや。あなた、あの武器買っても使えないわよ!しかも大金貨300枚の価値はないわ。あれ飾りみたいなものだし。もっと他にないの?」
「なんで使えないって決めつけるんだ!あの雷神剣を使える俺に使えない武器なんかあるわけないだろ!!
「さっきの武器のことね。あれは雑魚が使うものよ。」
「なんでエリーちゃんまで俺の武器を否定するんや。さっき騎士にもそれ言われたぞ。」
「そりゃそうよ。いい武器っていうのは魔力の運用がしやすい武器っていうのが基本だわ。属性石に期待するハンターは初心者止まりよ。」
「属性石って強くないんか。俺もうこの武器売ろうかな」
「それがいいわ。魔力を剣に纏わせることが出来て、基本が成り立つのよ。でも難しいけどね。私でも半日はかかったわ。」
「半日なら別にいいでしょ。」
「私の才能でもってことよ。他の人が魔力を操作するってなったら、一生かけても出来ない人もいるしね。っていうかそっちの方が多いわ。私はハンターではないけど、他の奴より100万倍は強いってわけ。」
「俺に負けた人がなにを言ってんのよ。」
「な……!さっきのはあなたのことを知らなかっただけで!第一あなたみたいなひ弱な男に本気出したら、大怪我じゃ済まないわよ!!」
「へっ」
カイルの冷笑が突き刺さり、エリーの眉がひそまる。噛み締めた唇に血の気が集まり、拳には力が入りすぎて白くなっている。心の中では「今すぐ叩き潰したい」という衝動が渦巻いていたが、作り笑いで必死に抑え込んだ。
「じゃあ、その武器を売って、何か新しいのを買いなさい。私はしばらくゆっくりしてるわ。」
「俺から逃げれると思うな!武器買ってもらうからな!」
「はぁ……もう好きにしてちょうだい。」
エリーは椅子に沈み込み、疲れた吐息を漏らす。対照的にカイルは勝利を確信したかのように子供のようなはしゃぎっぷりで店を飛び出した。
彼の視線は武器のケースに釘付けになる。並んだ刃の一つひとつを目で追い、左上に刻まれた特徴を確認しては唸る。
相手から魔力を吸収する剣。自らの血を代償に闇を増幅する斧。どれも一筋縄ではいかない性能ばかりだ。
「うーん、悩むねぇ」
声に迷いを滲ませつつも、目は派手さのある武器に吸い寄せられていく。
槍、鞭、長剣……ひととおり眺めてみるが、胸を打つものはなかった。あくびをひとつ吐き出すと、気怠そうに愚痴をこぼす。
「なんか、めんどくせぇな。自分の金じゃないし、とりあえず高いのでいいか。」
すると、その背に鋭い声が突き刺さった。
「あなたね!人に買ってもらうのになんで適当に探すのよ!!クズにも程があるわ!!」
「だって分からんもんは分からんやん!!」
「はぁ……あなたは力もないし魔力も少ないから短剣がオススメね。」
「オッケー。見てくるわ。」
カイルは足取りも軽く短剣のコーナーへ移動する。並んだ刃を一つずつ吟味しているように見えて、実際は値札ばかりを追っていた。
「一番高いのは……これか。」
白銀の輝きを放つ短剣。複雑な紋様が光を吸い込み、神々しいまでの威圧感を纏う。
「めっさかっこいい。」
左上に記された紹介文に視線を落とす。
――武器名 ジェネラル
絶対に壊れない武器
たったのそれだけ。他の武器の詳細な説明に比べ、あまりに簡潔すぎた。
「どういうことや?」
振り返ってエリーを呼ぼうとするが、そこに彼女の姿はなかった。
「まさか、逃げたのか!?」
店内を駆け回り必死に探すが、どこにもいない。
「ちくしょー!この俺を騙しやがったあの女!!」
叫びが響き渡った直後、背後から声が落ちる。
「お主はここの会員ではないのにどうやって入ったんだ?」
「誰や!」
カイルが声を張ると、背後に立っていたのは人の姿をした猫だった。
黒いスーツに赤いネクタイ。眼鏡の奥の瞳が淡く光り、灰色の毛並みは柔らかく揺れている。顔まわりは丸みを帯び、知性と穏やかさを併せ持つような輪郭。だがその立ち姿には威圧感が漂っていた。
猫はゆっくりと歩み寄り、カイルの顔を覗き込む。
「うーん……ここに無断で侵入するほどの力はないように見えるがな……もしかして誰かと一緒に来たのか?」
「そうだよ!エリーっていう女なんだけどさ、あいつ俺に負けたら欲しいもの買ってあげるって言ったくせに、すぐに逃げやがった!!」
「お主、エリーちゃんと知り合いなのか。彼女は滅多に知り合いは作らないと思っていたが、勘違いだったか。」
「そんなんええねん!あいつどこいるか知らない!?一発かましたいんだけど!!」
「そう言われてもな。エリーちゃんの足には追いつけないと思うぞ。」
「そんな早くないでしょ。俺に剣で負けたんだし。」
「お主、エリーちゃんに剣で勝ったのか!?それは本当なのか!」
猫の目が大きく見開かれる。次の瞬間、両手がカイルの肩を掴み、ぐいと力を込めた。
「勝ったから、剣買ってもらおうと思ったのに!あんた何も知らないの?あと暑いから手離して。」
猫ははっとして手を放し、数歩下がる。
「すまないが、何も知らない。だが、エリーちゃんと会ったら、すぐに確認をして武器を買わせよう。」
「話がわかる猫でよかったわ!やっぱ冒険者だから舐められるわけにはいかんのよ!特にああいう女に舐められたら終わりだね。」
「エリーちゃんをそういう風に言ったのはお主が初めてかもしれんな。名はなんというんだ?」
「カイル・アトラス。あんたは?」
「私はシルフォードという。ここ『真実の誓い』という武器屋を営んでいる者だ。エリーちゃんに武器を買わせたら冒険者ギルドに連絡を入れとくよ。で、なんの武器がいいんだい?」
「値段が一番高い武器がいい。」
シルフォードの耳がぴくりと動き、やがて堪えきれずに笑い声が響く。
「値段だけで武器を選ぶ男を初めてみたよ。貴族ですらそんな事はしないというのに。まぁ私にも分からない程の実力の持ち主なら、それでいいのか。条件に当てはまるのは短剣のジェネラルっていう武器だね。」
「それさっき見た!説明の意味わかんなくてさ。壊れないだけで、なんであんなに高いの?」
「詳しく話すと長くなるが、あの武器は私が世界中を旅していた時に拾ったものでね。あの武器の性能はずっと調べても分からなかった。」
「分からないのを高く売っていいんか?それやばくない?」
「私の鑑定でも分からないということは相当な力を持っているはずだ。これは私の予想ではあるが、あの武器は持ち主の運気を上げてくれるアイテムなのかもしれない。」
「どういうこと?」
「実はあの武器を拾って以来、物事がすごく上手くいくようになってね、おかげで世界中に店を持つことができた。夢を叶えられたのはあの武器が力を貸してくれたからだと思っているよ。」
「それ本当か?なんか嘘にしか聞こえないんだけど。」
「確かにそうだね。私も今の話を聞いたら、買う気にはならないよ。でもあの武器は絶対に壊れないんだ。これは私が保証する。何をしても壊れなかったどころか傷一つつかなかった。」
「うーん……まぁ俺の金で買うわけじゃないし、別にいいか。エリーちゃんに金払わせたらすぐに連絡してね!」
「いや、もうジェネラルはあげるよ。正直なところあの武器はずっと置いているんだが、カイル殿以外、見向きもしなくてね。あのまま置いてあっても武器が寂しいだけだ。すぐにでも外の世界を見せてやりたい。丁度いいタイミングだから今回は特別だ。持っていっていいよ。」
「まじで!!あざす!!大切に使うわ!!絶対に離さないようにする!約束!!」
「そこまで大切にしてくれるならその武器も喜ぶと思うよ。」
シルフォードがポケットから鍵を取り出し、重厚なケースを開ける。淡い光を纏った短剣を取り出すと、その柄を両手で丁寧に差し出した。
「カイル殿のいい相棒になることを祈っている。」
「マジでカッケェな!最強剣っていう名前にするか!これで俺も二刀流や!」
「……まぁ名前を決めるのは持ち主の自由だからね。好きに呼ぶといいさ。」
「マジでありがとう!次エリーに会ったら、もう一度負けさせて、武器買わせるわ!」
「ハハハ。それは良い。また来てくれ!君だけは特別に会員のカードがなくても入れるようにしておくよ。この待遇は世界中で君だけだ。誇って良いんだぞ。」
「俺、予言の男だから王様になんか言っとくわ!じゃあな!!」
カイルは上機嫌でスキップしながら店を出ていった。
静けさが戻ると、シルフォードは床に刻まれた魔法陣の中へと足を踏み入れる。淡い光がゆっくりと走り、輪郭が浮かび上がっていく。
彼の目尻に、一筋の涙が伝った。
「最高のサプライズだったよ。」
呟く声と同時に魔法陣が眩く輝き、店ごと姿を消した。
「いやー今日は最高だったぜ!!」
武器屋を出たカイルは、欲望の赴くまま様々な施設に足を踏み入れた。
一流をうたうマッサージ店に入り、担当が無骨なおじさんと知るや、店内に響き渡る声で「女性じゃないと嫌や!」と駄々をこねる。店員たちが青ざめながらも外から女性を呼び寄せ、どうにか施術を始める。
次はクラブ。色鮮やかな灯りの中、音楽に酔って女の子に酒を奢り、腰を振って踊りかける。しかし、ナンパはことごとく失敗。冷たい視線を浴びながらも笑い飛ばして別の席へ。
さらに異世界人が作った映画に腹を抱えて笑い、カードゲームでは子供相手に本気を出して勝ち誇る。
エリーとの一件などとうに頭から抜け落ち、欲望のまま遊び尽くす。
やがて空は赤く染まり、夕陽は遠く街並みの向こうに沈み込む。カイルは心底満足げに伸びをして、一階の受付へ向かった。
「このビル最高だね!一日中楽しかったわ!」
受付の女性はにこやかに会釈し、静かに答える。
「喜んでいただけて何よりです。」
カイルはカードを差し出し、重みのある金貨袋を取り出す。
「ご利用ありがとうございました。本日のお会計は1500金貨となります。」
「うん、1500金貨ね。オッケー…….え?今なんて言った?」
「1500金貨となります。」
「ふぇ?」
カイルの顔から血の気が引く。受付の人は怪訝そうに首をかしげた。
「どうかされましたか?」
「いや、あのさ……まずは金貨1000枚ね。」
袋をテーブルに置き、胸を張るカイル。しかし受付が手を伸ばして袋を開けようとする。しかし、紐はまるで鉄鎖のように固く結ばれ、指先で引いても動かない。
受付の人は眉をひそめ、力を込めても全くほどけず、やがて手を止めてカイルを見上げる。その冷めた視線にカイルは青ざめ、声を荒らげた。
「ちょっと待って、ちょっと待って。一体どういうことや!?」
「奥の部屋に来ていただけますか?」
「一旦落ち着いてくれ!!」
「それはあなたの方だと思いますが。」
カイルは必死に袋を握りしめ、自分で紐を引きちぎろうとするが、袋はびくともしない。焦燥に額の汗が光る。
「もしかして王様、俺のこと騙したんか!?ふざけるなよ!!」
受付が腕を掴むと、カイルは飛び上がって叫んだ。
「ちょっと!分かったから!払えば良いんだろ!!この武器売るから!それで勘弁してよ!この最強剣ジェネラルの値段知ってるか!?1,000大金貨するんだぞ!!」
受付の目は一切揺らがず、無言のままカイルを見つめ続けていた。