テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
静かな雨音と、砂利の擦れる音が、不規則に交わる。
じゃり、じゃり、じゃり、
もう、何時間歩いたことだろう…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あんたなんか、いらないんだよっ!!!」
小高い声に、頬を弾く音が重なる。
赤く染まった頬は、じんじんと痛む。
窓の外では、灰色の雲が空全体を覆っている。
大粒の雨が窓を叩く。
「…、」
右腕に激痛を感じた。
大きな手が自分の右腕を覆い、握り潰すような勢いで、引っ張ろうとする。
「…」
もう、抵抗する気力もない。
だらんと力の抜けた身体が、半ば強引に雨の中へ放り出される。
「…」
数センチ開いた扉の隙間から、大嫌いな父親の顔が覗く。
「お前は、うちの子ではない。二度とうちの者に顔を見せるな!」
バタン!!
「…」
全てを失った虚無感が押し寄せ、泣くことも叫ぶこともできない。
「…」
しばらく身体を動かせない、、というか、動かしたくない。
そのまま、いつの間にか眠りに落ちた。
「んっ」
あれ、?自分は何を…
そう思い、起きあがろうとすると、
目の前には見慣れた顔がある。
はっはっはっ
長い舌を出した愛くるしい犬の顔が、そこにはあった。
心配そうに自分の顔を覗き込む姿は、なんとも可愛らしく、忠誠心を感じる。
「…どうした?くるみ、」
『くるみ』、数週間前からうちの近くに来るようになった、野良犬だ。
痩せ細った身体は、とても大型犬とは思えず、縮こまった体をブルブルと震えさせていた。
そんなくるみを匿ってご飯を与えていたら、仲良くなっていったというわけだ。
隣にちょこんと座ったくるみが、叩かれて赤く腫れた頬を、ぺろんと舐めてくる。
「あー、これ?お母さんにやられたんだー笑
もう、家族でもなんでもないけど、」
自分の心の拠り所ができた気がして、そんな相手の前では、犬であろうと笑顔でいようと直感的に思った。自分にはくるみしかいないんだと。
しばらく遠くの暗闇を眺めていると、突然くるみが立ち上がった。
「ん、どうした?くるみ」
くるみは、こちらの声に気付いていないかの様にフラフラと暗闇の方へ歩いて行く。
「ちょっ、ちょっと…くるみ?!まってよ!」
半ば必死に、くるみを連れ戻そうと叫ぶ。
…が、戻ってくるはずもなく、ただひたすらに何かに取り憑かれたよう闇へと向かって行くくるみに呼びかける。
くるみを1人では行かせたくない。
…いや、自分が1人で居たくないだけだろう…。
もう何も失いたくないという必死さが、頬や腕の痛みを忘れさせるほどに、身体を動かしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう、何時間歩いたことだろう…。
「くるみ、待って、」
相変わらずフラフラと森の中を歩いて行くくるみの背を、とぼとぼと追う。
何度声を掛けても、何も聞こえていないかのように歩いて行くくるみに、信頼感もあったものじゃない。
ただ、行く宛の無い自分には、こうするしかなかったのだろう。
「…」
いい加減、何か起こらないものか。美味しいディナーの出てくる素敵な小屋なんてあったり…♡
そんな事を考えていた矢先、
遠くにぽつんと灯りが見えた。
「…!」
何か希望が見えた気がして、思わず走り出すと同時に、くるみも全速力でその灯りに向かって走り出した。
「はぁっ…はぁっ……着いた…!」
くるみが建物の前で立ち止まる。
恐る恐るインターホンを押そうとしたとき、
ガチャッ
「…!」