テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
はるは急な吐き気に襲われ、保健室に駆け込んだ。いつものことながら、影山先生は優しい笑顔で迎えてくれる。「どうした、はる。顔色が悪いぞ。」
先生の声に安心しつつも、はるはこみ上げる吐き気を抑えきれず、結局、目の前のゴミ箱に吐いてしまった。びくりと体が震えるはるの背中を、先生は優しくさすってくれる。その手が、はるには何よりも心強かった。
「大丈夫、大丈夫。全部出しちゃいな。」
先生の言葉に甘え、はるは何度も吐き続けた。「おえっ」「げぇぇ」「うっ」と保健室に響く自分の声。周りの生徒たちがひそひそと何か言っているのが聞こえる。いつものことだ。彼らははるが吐くたびに、心ない言葉を投げかけてくる。
「また吐いてるよ、あいつ」「汚ねぇな」「仮病じゃねぇの?」
そんな言葉が聞こえるたび、はるの心は傷ついた。でも、影山先生はいつもはるを守ってくれた。
「静かにしなさい!はるは本当に具合が悪いんだ。人の心配もできないのか!」
先生の強い声に、周りの生徒たちはしぶしぶ口を閉じる。先生が守ってくれる。その事実が、はるをどれだけ救ってきただろう。
3時間近く吐き続け、さすがに先生も心配そうな顔になった。
「はる、さすがにこれは家に連絡しないとダメだ。お父さんかお母さん、どちらかに電話するからな。」
先生の言葉に、はるははっと顔を上げた。
「だめ!電話しないで!お願い、先生!」
必死に首を横に振るはるのただならぬ様子に、先生は何かを察したようだった。
「わかった、わかった。無理にとは言わない。でも、本当に辛そうだから心配なんだぞ。」
先生はそっとはるの熱を測った。みるみるうちに体温計の数字が上がっていく。はるの頭はガンガンと痛み、吐き気は一向におさまらない。
「熱も出てきたな。頭も痛いか?」
先生はまた、優しい手ではるの背中をさすってくれる。その手が、はるの辛さを少しだけ和らげてくれた。
「先生、ありがとう…」
朦朧とする意識の中、はるは先生の手をそっと握った。影山先生は、いつもはるの苦しみに寄り添ってくれる。はるは、そんな先生のことが大好きだった。そして先生も、愛嬌があって、いつも一生懸命なはるのことが、たまらなく好きだった。はるの体調は悪化の一途をたどった。放課後になっても吐き気は収まらず、何度も保健室の洗面台に駆け込む。影山先生は、疲れてぐったりするはるの背中を、休むことなくさすり続けた。
そんな中、保健室のドアが勢いよく開いた。「はるはまだ来てないのか!」はるの親だ。先生ははるに気づかれないよう、ドアの陰で素早く応対した。
「はるくんはまだ体調が優れなくて、私が付き添っています。ご心配でしょうが、今日は私が責任を持って看ますので、ご安心ください。」
先生の毅然とした態度に、はるの親は何か言いたげな顔をしたが、結局何も言わずに帰っていった。
親が去った後、先生ははるを自分の家に連れて帰った。先生の家に着いてからも、はるは何度もトイレに駆け込み、嘔吐を繰り返した。先生は一晩中、眠らずにはるのそばにいてくれた。吐くたびに背中をさすり、温かいタオルで額を拭いてくれる。その優しさが、はるの心にじんわりと染み渡った。
夜中、はるは急な腹痛に襲われた。キューっと締め付けられるような痛みに、はるは思わず体を丸くする。我慢しようとしたが、先生にはお見通しだった。
「どうした、お腹が痛いのか?」
先生の問いかけに、はるはこくりと頷いた。安心したせいか、それからまた何度も吐いてしまった。
夜が明け、少しずつはるの体調は落ち着いてきた。熱も下がり、吐き気も収まってきた。先生は、はるのために温かいお粥を作ってくれた。
「先生、本当にありがとう…」
はるは、感謝の気持ちでいっぱいだった。先生がいなければ、自分はどうなっていたか分からない。はるは勇気を出して、自分の気持ちを先生に伝えた。
「先生がいてくれて、本当によかった。先生のこと、大好きだよ。」
先生は優しく微笑んだ。
「はる、私もお前が大好きだぞ。お前はいつも頑張っているからな。辛い時は、いつでも私を頼ってくれ。」
先生の言葉に、はるの目から涙がこぼれ落ちた。影山先生は、はるにとって、かけがえのない存在だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!