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ヘレンは受話器を置くと、モートが帰るまでじっとして待とうとしたが。次第に待っているのが、あるいは何かの衝動を抑えることが苦痛になりだし、ジョンの屋敷へと向かった。
「その時がもうすぐ来るんだ」
その言葉が意味するものが何なのか気になって仕方がなかった。
窓の外は大雪が暴れていた。
――――
「ヘレンさん。ご無沙汰しておりますね。その節は大変失礼しました」
「ジョンさん……何故……生きているの?」
玄関越しで、ヘレンは血色のいい顔のジョンを見て驚いた。
確かにジョンは……。
ヘレンはノブレス・オブリージュ美術館のサロンの隅にある質素な椅子に書き置きをすると、エンストを7回も起こす路面バスで、凄まじい吹雪の中。ジョンの屋敷へと結局一人で訪れていた。ヘレンは自分の中で、ここまで自分を動かしたジョンの不吉な言葉の意味を知りたかった。だが、今ではヘレンは知っても仕方がないと思った。何故なら襲いかかる戦慄で聞くことができなかったからだ。
「その言葉は私の空耳ということでいいですね。さあ、寒いでしょう。お入りください」
ジョンの屋敷は針葉樹で囲まれた青煉瓦の屋敷だ。部屋の数こそ多いが、何故かこじんまりとした印象を受ける。大部屋へと通されると向かい合った豪奢な椅子にヘレンはジョンと座った。能面を被ったかのような女中頭がお茶を持ってきてくれた。