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15
仁人の体温は、異常だった。
抱きしめているだけで分かる。 いつもより明らかに高い熱と、乱れた呼吸。
「……っ、は……」
胸元に顔を埋めたまま、苦しそうに息を吐く。
その度に、ふわ、と微かに香るフェロモン。
普段はほとんど感じないくらい弱いそれが、 今日は違う。
薄いのに、やけに刺さる。
「……っ、」
勇斗は、ぐっと奥歯を噛んだ。
(やばい……)
番だからこそ分かる。 これは“いつもの仁人”じゃない。
本気で崩れてる。
「仁人、薬は」
「……さっき、飲もうとしたけど……無理……」
掠れた声。
腕に、ぎゅっと力がこもる。
「……離れたくない……」
完全に依存した声だった。
普段なら絶対に言わない。
それが、逆に危ない。
(……落ち着け)
自分に言い聞かせる。
今優先するのは、仁人の体調。 それ以外じゃない。
そう思っているのに——
「……勇斗……」
名前を呼ばれる。
かすれた、甘い声で。
その瞬間、背筋にぞくっとした感覚が走る。
「……っ、」
無意識に腕の力が強くなる。
「……苦しい?」
できるだけ平静を装って聞く。
仁人は小さく首を振った。
「……違う……」
そして、ゆっくり顔を上げる。
潤んだ目。 熱でぼやけた視線。
「……足りない……」
その一言で、理性が揺れた。
「……何が」
分かってるくせに、聞いてしまう。
仁人は、少しだけ迷ってから——
そっと、勇斗の胸に額を押し付けた。
「……勇斗が……」
言葉が途切れる。
でも、それだけで十分だった。
(やめろ)
分かってる。 今の仁人は正常じゃない。
この状態で流されるのは違う。
でも——
「……っ」
服を掴む手が、さらに強くなる。
「……お願い……」
小さく、震える声。
その瞬間、完全に止めを刺された。
「……仁人」
低く名前を呼ぶ。
そのまま、顎に手をかけて顔を上げさせる。
「ちゃんと分かって言ってる?」
確認するように。
仁人は、少しぼんやりしたまま——
でも、はっきり頷いた。
「……勇斗、がいい……」
まっすぐな言葉。
逃げ場は、もうなかった。
「……っ、」
深く息を吐く。
(……限界)
理性は、もうギリギリ。
でも完全に手放すわけにはいかない。
「……約束」
低く、真剣な声。
「無理だったら、ちゃんと言え」
仁人はこくっと頷く。
それを見て——
勇斗は、ゆっくりと距離を詰めた。
今度は、軽いものじゃない。
しっかりと、確かめるようなキス。
「……ん、っ」
仁人の体がびくっと震える。
その反応に、さらに理性が削られる。
(やばい……ほんとに)
でも、止まらない。
「……仁人」
息がかかる距離で名前を呼ぶ。
「俺、今かなりギリギリだから」
正直に言う。
隠せない。
仁人は、ぼんやりしながらも小さく笑った。
「……知ってる……」
その顔が、また危ない。
「……でも……」
腕を回して、引き寄せる。
「……それでもいい……」
完全に、委ねてる。
その言葉で、最後の一線が揺らぐ。
「……ほんと、後悔すんなよ」
そう言いながらも、もう止まる気はなかった。
抱き寄せる力が強くなる。
「……絶対離さないから」
低く囁く。
それは衝動じゃなくて——
番としての本能。
仁人は安心したように目を細めて、
「……うん……」
小さく頷いた。
その瞬間、勇斗はもう迷わなかった。
理性は、ギリギリ保ったまま。
でも、確実に限界に触れながら——
仁人を抱きしめた。
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