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「男の子かぁ……」
雄大さんが呟いた。
この三十分で、五回目。
三度目の検診で、子供の性別がわかった。
「そんなに女の子が良かったの!?」と、私はちょっと怒り気味に聞いた。
少し前から、雄大さんは女の子が欲しいと言い出した。理由は『何となく』としか言わなかったけれど、あまりにこだわるから、ムッとした。
男の子が可哀想じゃない!
お腹を締め付けないようにと、雄大さんがあまりにうるさいから、最近はワンピースを着ることが多い。だから、見た目だけではまだ妊娠しているとは気づかれない。
過保護にされ過ぎて、太ったのはわかるけれど。
先週、真由に会った時も、『幸せ太りだねぇ』とからかわれた。
昨日、お姉さんに会った時も、同じような事を言われた。
少し運動しなければと、いつもは車で来る検診に、歩いてきた。
雄大さんは私が転ばないようにと、手をきつく繋いで放そうとしない。
これはこれで、幸せだ。
「どうしてそんなに男の子じゃ嫌なの?」
「嫌なわけないだろ!」
「けど、女の子が良かったんでしょう?」
「まぁ……」
「どうして?」
「何となく……?」と、雄大さんはいつものように答えた。
いつもはそれ以上聞かなかったけれど、今日は食い下がってみる。
「何となくにしては、こだわり過ぎだよね?」
「……」
「ちゃんと言って」
「……」
「パパ!」
「——言われたんだよ! 母親は男の子をベタ可愛がりするから、旦那なんて見向きもされなくなる……って……」
「…………ぷっ——!」
思わず、吹き出してしまった。
「あはははは……!!」
最近、やたら甘えたがるとは思っていたけれど、まさか生まれていない子供にヤキモチを妬いていたとは。
「どーせ……」と、雄大さんが唇を尖らせた。
「ねぇ」
「何だよ!」
「シても大丈夫だって」
「え?」
「激しくしなきゃ、いいって」
唇が引っ込む。わかりやすく嬉しそうに、目を輝かせる。
「機嫌、直った?」
「ゴム、買って帰らなきゃな」と言って、雄大さんが辺りを見回す。
「雄大さん」
「ん?」
「私、太ったよ」
「うん?」
「それでも、シたい?」
雄大さんが立ち止まった。
「どうした?」
「子供産んでも、太ったままだったら?」
「それが?」
「それでも、私のこと好き?」
「当たり前だろ」
当然のように、迷いのない雄大さんの返事に、胸の奥がくすぐったくなる。
「……そっか」
「なんだよ?」
「私も、好きよ?」
「うん?」
「何人、男の子を生んでも」
「……ホントかな」と、疑いの眼差しで見る。
「一生かけて、証明してあげる」
雄大さんが、子供みたいに顔をくしゃくしゃにして、笑った。
—– END —–