テラーノベル
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―――宇宙船だ!
宇宙には、星がある。数え切れないほどの。気が遠くなるほどの。
宇宙には、恒星がある。拾い切れないほどの。目が眩むほどの。
青い彗星は、今日もどこかで恒星の中を泳いでいる。
The Skeldに乗り込む色とりどりの背中を、金色の帽章が見つめている。
「……32号船、か」
長旅を共にする大型船を見上げて、黄色は静かに呟いた。
黄色が新たに船長を務めることになったThe Skeld 32号船もまた、クルー安全保護委員会の管理下にある。事前に渡された船員の名簿にもう一度目を走らせてから、黄色はつばを持ち上げる。艶やかなチェリーの面影が思い起こされた。
「……小豆……」
長らく顔を合わせていない。その拳銃に縋ることを、他でもない黄色が拒んだから。
けれど、再びこんな形で巡り合うということは、これもまた運命だったのかもしれない。
夜空を見上げる以外に知ることのなかった、彼の功績が。今、目の前にある。
黄色の視界はとうとう14を数え上げた。鎮座した船の中に足りないのは、もう黄色ひとりだけ。
「……面倒だな」
誰にともなく悪態をついて、黄色もまた歩き出した。
カフェテリアの中央にある円卓には、色とりどりな彼らが窮屈そうに座っていた。足音に気がついた船員たちはバラバラにこちらを振り向いて、いくつかの顔が目を見開く。
「……あ」
黄色は、そのうちのばっちり目が合った彼に瞬きを返すと、改めて全体に声をかけた。
「全員揃っているな? 点呼を取る」
「はーい!」
「まだ呼んでいない」
フライングなのか了解なのか微妙に判断しづらい声に、ぴしゃりとそう釘を刺してから、名簿を捲る。
「赤」
「はーい! 僕僕!! ねね、きみってもしかしてこの前会った『黄色』?!」
「その話は後程」
「オレンジ」
「はーい」
「黄緑」
「はい」
「緑」
「は、っいぃ……」
「水色」
「おっす」
「青」
「いるよ〜」
「紫、……ん、紫?」
「はろ〜。久しぶりだね黄色。ま、積もる話は後にしよっか」
「やはりお前か……はぁ……」
「ローズ」
「ええ、いるわ」
「白」
「はいっ! わたし白です!」
「グレー」
「はいよ」
「黒」
「……。はい、おります」
「茶色」
「……ぁ、っわ、はい゛……」
「タン」
「…………」
「タン?」
「…………はい」
「コーラル」
「はい。私で最後ですね? どうやらこの船の副船長は私であるということなので、よろしくお願いします」
「ああ」
全員の点呼が終わる。黄色を含めた15名。
並ぶ名前の横にチェックマークを書き込んでいた手を止めて、黄色は顔を上げた。返事だけで個性が滲み出ていた彼らの顔を見渡す。
「それでは、改めてこの場で自己紹介をしておこう。俺は黄色、本名はシトロン、―――Citron。インポスターだ。The Skeld 32号船の船長を務める」
「……あそれだけ?」
「他に何か言うことが?」
「いや、あるでしょ。好きな食べ物とか」
「……好物はコーヒーだ。趣味は特に無い。それでは次に、副船長」
なんかいまいち微妙な自己紹介をさっさと切り上げて、黄色はコーラルに水を向ける。雑なパスだったものの、コーラルは微笑を湛えたまま頷いた。
「この船の副船長であり、事務処理担当船長代理を兼任します、コーラルです。本名はエーガル……Égal、です。シェイプシフターの力を持っています。そうですね、絵画を観るのが趣味です。それから、飴が大好きですね」
「よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
この時の彼らは知る由もない。彼女の飴に対する執念は、「大好き」なんてレベルじゃないことを。
「続いて、水色」
「俺か。まぁ役職持ちだしな。
俺は水色、シエル。Cielな。普通のインポスターだ。治安維持担当船長代理をやることになった。……好きなもの? ローズだな、以上」
「ふふ、ありがとう〜」
「あれ、そこふたり付き合ってたりする?」
「そうよ」「そうだ」
言っとくけど万が一にでもローズに手ェ出したら殺すからな、と補足する水色。ローズもローズでふんわり笑うばかり、止めようとしない。とりあえずお互いのことが大好きなバカップルであることはわかった。
特殊な立場の者たちの紹介が先に終わり、黄色は少しだけ黙り込む。やがて考えるのが面倒になったのか、赤を指し示して告げる。
「それでは、赤からこの名簿に記載されている順に自己紹介を頼む」
「はーいっ!」
突然であったにもかかわらず、赤は元気に返事をした。威勢良く立ち上がりかけて隣に座っているオレンジに押し留められる。
「まぁまぁ、座ったままで良いと思うよ?」
「わっ、ごめんね!……改めて! 初めまして、僕は赤! ルベルって本名で、そう、Ruber! エンジニアの役職持ってるよ! えっとね、苺オレが好きかな!」
「わかった。よろしくね」
「よろしくっ!」
隣に声をかけられて、赤は笑顔で握手を求めた。オレンジはそれに応じながら、手を挙げる。
「えぇと、次、僕だよね? 僕はオレンジって言って、本名がカムクアット。故郷の発音で言うならKumquat。クルーメイトだよ。ん〜、好きなものかぁ……特に好きなものは金色かな」
「金色!? このピアスいるっ?」
「あ、ううん、君に似合ってるから君がつけておきなよ。大丈夫」
「そう?」
自分のバイザーを指差す赤に、オレンジは苦笑いして手を振る。早くも仲良くなれそうなふたり組だ。
黄色は雑談を始める彼らから意識を外して、次はお前だと視線を送った。受けた黄緑は、頷いて話し出す。
「……俺だな。俺は黄緑、本名がリム。有名だから知ってるかもしれないが、Limeと綴る。科学者の役職持ちだ。好きなものは……強いて言えば炭酸飲料か?」
「たんさんって、しゅわしゅわするの?」
「そうだ。最近は強を飲んでるな」
「きょうたんさん……」
舌のビリビリを思い出したのか、白がふるりと身を震わせる。どうやら彼女はあまり炭酸が得意ではないようだ。
好奇心、にじゅうまる。そんな感じの評価を心の中で送りつつ、黄色は黄緑の次へと目を向ける。
「……緑……」
「っご、ごめ、ごめんなさい、パス……で……その、」
「了解した。では次は水色を飛ばして、青か」
あっさり頷いた黄色に、言っておきながら緑が目を丸くする。やがて、本当に泣き出しそうな声で、か細く「ありがとうございます」と呟く。
さて、そんな緑の後ろから勢いよく顔を覗かせたのは青。
「は〜いどうも! 32号船で船医を務める青だよ〜! 本名はカエルラ、そしてCaerula。でも呼ばせないからね。僕の本名呼んでいいひとはひとりって決まってんの。あ、薬品開発が趣味。以後よしなに〜」
「薬品開発?」
「そそ。毒薬と爆薬が主かな」
「「毒薬と爆薬?」」
黄色と水色の声がぴったりハモる。え、そんなに変かな、と首を傾げた青に、水色が全力で異議を申し立てる。
「え、いや、変だろ。ひと様に迷惑とかかけてねぇよな?」
「普通にかけるけど」
「ハァ!?」
「僕は君たちのこと迷惑かけてもいい存在だと思ってるんで。はいはいそれじゃ自己紹介次、紫だっけ? よろしく〜」
さりげなく司会の役割を奪いつつ、青がひらひら手を振る。水色が早くもキレ症を発動させる傍らで、紫が気だるそうに手を挙げる。
「はいは〜い、私紫ね。知ってるひとはぜひお口チャックしてほしいんだけど、本名はリラ、Lilasって言うよん。みんなの恋を応援するキューピッドであり、そして将来魔法少女になる予定のスーパープリティ美少女紫ですっ♡♡ みんな仲良くしてねっ」
途中から突然テンションが変わる。魔女帽に結ばれたリボンを見て、こめかみを抑えながら溜息を吐く黄色に、彼女はずいっと近寄る。
「よっす弟子、元気にしてた? 愛しい師匠を思って眠れぬ夜が続いたかな?? 立派に育ったようで何よりだよ〜、船長なんてやっちゃってさあ〜っ!」
「黙れ。お前のどこが師匠だ」
「おっと成長に合わせて言葉のナイフも磨いちゃった感じ? そんな風に邪険に扱われると紫ちゃん泣いちゃうぞ」
「勝手に泣いておけ。次、ローズ」
纏わりついてくる紫を嫌そうな顔であしらい、次の自己紹介を促す。彼らの微笑ましい(?)光景に顔を綻ばせながら、ローズが立ち上がる。
「シエルの恋人のローズよ〜。本名はブロッサム、Blossomって綴るわ。お菓子作りが趣味で、お裁縫とかも好きだから、直してほしい服があったら私に言ってちょうだいね。これから長い旅になると思うけど、仲良くしてほしいわ」
「おぉ、すごい。これまでとの対比かめちゃくちゃ丁寧で模範的な自己紹介に見える」
「ローズにちょっかいかける奴は俺が殺す」
「台無しにしてるひといるけど」
早くもコントみたいな様相を呈してきたカフェテリア。しかし残念ながら、自己紹介が終わっていないメンバーはまだまだいるようだ。
例えばそう、呼ばれてないけど自分の番だと判断して、元気に椅子から降りた賢い少女とか。
「はいっ、えっと、白です! 本名はアルバって言って、Alba?って読むらしいです!……えーっと……好きな食べものは甘いものです、嫌いな食べものはピーマンです……こ、これでだいじょうぶかな? よろしくおねがいします!」
「ピーマン嫌いなの!? 僕と一緒だ〜!」
「あ、赤さんも?」
「さん付けなくていいよ〜! そう、僕もピーマン苦手なの、それで甘いもの好きなんだ! 今度一緒に苺オレ飲も?」
「! 飲む〜!」
オレンジと話していたはずの赤が、彼ごと引っ張って白の元に現れる。どうやら白の自己紹介はちゃんと聞いていたようだ。距離の詰め方が凄まじいものの、幼い白は一切引っかからず同調し、その場はあっという間に盛り上がる。
え……?てな顔をしているオレンジだけがあの空間に取り残されていたが、まあそれは置いといて。黄色は淡々と次の名簿の名前を読み上げる。
「グレー」
「ヨウキャコワイ…インキャニハマブシスギル……っあ、あ、僕? ど、どうも、グレーです。あ本名か、フィクティフって言って、Fictiveって綴るらしいです、はい。あー、漫画とか読みます、多分。いやアニメも見るけど、あいや今の聞かなかったことにしてください、ちょっと、ちょっと待ってくださいね」
出たボロを全部取り零して、一切取り繕えていない彼に、黄色がなんだか憐れむような眼差しを向ける。これ以上恥を晒すのも嫌だろう、とさっさと次の人物へ移る。
まあその同情こそがグレーに嫌な意味で刺さるわけだが、残念ながら黄色にそれを察せられるようなマインドはない。
「黒」
「……船長。まさか私のことを本気で忘れているなどとは仰いませんよね?」
「ん?」
「……黒と申します。名をAter、共通語に従えばアーテルという発音になります。趣味は読書です。何卒宜しくお願い致します」
ガチガチの敬語で簡潔な挨拶を述べた後、黒がもう一度こちらを見る。黄色は「アーテル……聞き覚えはあるんだが……」と首を捻ったものの、今はとりあえず置いておくことにした。後々彼女と黄色の関係性が大変拗れた原因は、まず間違いなくこの対応である。
さて、黒に続いては茶色。
……黄色が目を向けた先にあるのは、大きなバッテンを作る茶色い手だった。
「……」
「…………!」
しかもぶんぶん首を振っている。何やら必死そうな顔つきで。
まあパスという意味だろう、と踏んで、黄色は次へ移る。最後の自己紹介は、タン。
「タン」
「……」
「タン?」
「……オルエイルレス」
終わった。
それ以上語ることはないらしい、本名だけを告げた彼はふいっと視線を外してしまった。頭の上の獣耳がふわりと揺れる。
コーラルの自己紹介は先に済ませた。そしてコーラルを除けば、この名簿の最後に載っている名は彼のものである。
要するに、自己紹介は概ねぐだぐだのまま終わったというわけだ。
「……」
黄色は頭を抱えた。大いに頭を抱えた。
この船大丈夫か??
もちろん大丈夫ではないのだが、今の彼がそれを知る由は、ない。
かくして、The Skeld 32号船の旅は始まったのである───。
#ベルのギリギリ自由帳
ベルリウム
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コメント
3件
好きすぎて語彙力の泉を発注する羽目になったって話でもしようか( ᐛ ) 全員に突っ込んでいったらそれだけで新しい小説書けそうだから掻い摘むね(心外) 大前提スケルド32号船の船員はいついかなる時も尊いですこれは宇宙の常識ですそしてその上で初対面の時から船員同士の関係が尊いです間違いありません そして最初に船長1人の描写入れたの天才すぎ流石神 この初対面を経ての今の船員がより尊くみえるっ.....!
第9話、読み終わりました!一気に個性豊かなクルーたちが勢揃いして、カフェテリアの賑やかさが伝わってきました。特に黄色が「この船大丈夫か??」って頭を抱える場面、思わず笑っちゃいましたね。紫の勢いと黒の不穏な空気感の対比も面白くて、それぞれのキャラクターの立ち方が鮮やかでした。まだまだ謎も多いですし、この32号船の旅がどう転がっていくのか、すごく気になります。また続きを読ませてくださいね🍀