テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
スペース
182
箱根
『……おや。』戦場全体に響き渡っていたノイズ混じりの声が、一瞬で「無音」に変わる。
次の瞬間、東京を覆う領界が、生物のようにドクンと脈動した。
『……なるほど。現代の迷宮を計算式に組み込んでいなかったのは、私の落ち度でしたね。政令指定都市の皆さん、失礼しました。君たちはただの「大きな町」ではなく、「意志を持つ国土の断片」なのだと再認識しましたよ。』
声に先ほどまでの余裕が消え、氷点下の殺気が混じる。
『ですが、その「知恵」が仇となる。』
パチンッ! と、乾いた指を鳴らすような音が響いた。
すると、渋谷の地下へ突入しようとしていた大阪の足元から、無数の黒い手が噴き出した。
「な、なんやこれ!? 影が……固まっとる!?」
影たちはドロッとした液体から、岩石のように硬い「杭」へと形を変え、地下通路を物理的に封鎖し始めた。然しそれだけでは終わらなかった。港区にいた横浜、台東区のさいたまの周囲でも、アスファルトを突き破って巨大な影の檻が形成されていた。
『「陰」の本質は、形を持たないことではありません。「執着」です。』
赤い風船が冷たくに告げる。
『かつてその土地にあった、今は亡き古い地名。合併で消えた村々の未練。それらを結晶化させました。物理的な硬度はダイヤモンドをも凌ぎ、君たちの「都市としての誇り」を吸い取って成長します。』
「チッ……身体が、重い……ッ!」
名古屋が黒光りするの双剣を振り下ろすが、影の杭は傷一つつかず、逆に名古屋の体力を吸い取って赤黒く光り出す。
「まずいッ…」
静岡が霧で杭を包み込むが、霧さえも影に飲み込まれ、静岡がギリッと歯噛みする。
通信回線に、赤い風船の嘲笑が混じる。
『さぁ、どうしますか? 渋谷の地下は完全に封鎖され、君たちはそれぞれの場所で「過去の重み」に押し潰される。……浜松さん、さいたまさん。論理で、この「感情の質量」に勝てますか?』
孤立していく各都市。
影の杭が街を侵食し、物理的にも精神的にも分断された政令指定都市たちに、命の危機が迫っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!