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結婚相手を間違えました

64 - 第64話 ひとりは怖いの、と結葉は言った①

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2025年03月18日

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「今夜なんだけどさ、結葉ゆいははどうしたい?」


沢山の荷物を抱えてアパートに戻ってきて。


それらをリビングの床にドサリと下ろすなりそうに世間話でもするみたいに問いかけられて、結葉ゆいははキョトンとする。


「一応俺もお前も……その……男と女だろ? お前が俺とひとつ屋根の下で寝んのが不安なら……俺はしばらくの間実家で寝泊まりしても構わねぇと思ってる」


言ったら、結葉ゆいはが初めてそのことに気づいたように瞳を見開いて真っ赤になった。


そうちゃ……、私……」

――すっかり失念してた。


小声でそう付け足すなり、ソワソワとそうを見詰めてくる結葉ゆいはの黒目がちの瞳が可愛くて、そうは目まいがしそうになる。


結葉ゆいは実妹いもうとせりも、そうにとっては幼い頃から可愛がってきた守るべき存在だ。


だが、そうせり結葉ゆいはに感じる思いは、時折明らかに違っていて、それを実感するたびに、そうは密かに戸惑った。


一時は掴めていたその感情の正体を、いまは認知するわけにはいかないと思っているそうだ。


自分は結構自制心が強い方だと思っていたけれど、結葉ゆいはのように見目麗みめうるわしい女の子から、不意に余り可愛いことをされると、それがぐらつきそうで怖くなる。


そんな不安定な感情を誤魔化すように、「ん?」と努めて平坦な声音で問いかけながら食器類の荷解きを開始したら、結葉ゆいはが不安そうに視線を揺らめかせて。


結葉ゆいは?」


その戸惑いを払拭してやれたらと、手を止めて声を掛けたら、結葉ゆいはが荷物に載せたままのそうの手の甲に、そっと触れてきた。


突然そんなことをされて……。

それじゃなくても落ち着かない思いだったそうは、ドキッとしてしまう。


結葉ゆいはの小さくて華奢な指先は、緊張しているからだろうか。

信じられないくらい冷たく冷え切っていて、触れられた所から氷みたいにひんやりとした感触が伝わってきた。


思わずその手をギュッと握って温めてやりたい衝動に駆られたそうだったけれど、それは寸でのところでグッと抑えた。


子供の頃には出来たことが、大人になったら出来ないというのは不便だなと思いながら。


まぁ、どういう状況下にせよ、結葉ゆいはは人妻だ。下手なことをするわけにはいかない。



「どうした? 寒いか? お前の手ぇ、冷え切ってるぞ?」


結葉ゆいはが、緊張すると指先が冷たくなるのを、子供の頃からの付き合いで、そうは知っている。


だが、あえてそこには触れず、温度のせいか?と含ませたら結葉ゆいはがふるふると首を横に振った。


帰りの車中だって結葉ゆいはが寒くないよう結構暖房を強めに効かせて走ったつもりのそうだ。


家の中も、雪日ゆきはるのためにそうがエアコンを付けっ放しにして出たから、そんなに冷え切っていないのは結葉ゆいはにも分かっているんだろう。



「寒いわけじゃ……ないの」


そこまで言って、とても言いにくそうに口籠くちごもる。


そう結葉ゆいはを安心させるように口の端にほんの少し笑みを浮かべると、


「なぁ結葉ゆいは。何度も言ってるけどさ。俺に遠慮は無しな?」


言って、ポンポンッと手のひらを弾ませるようにして結葉ゆいはの頭を撫でてやった。


なるべく子供の頃にしたような雑な触れ方を心がけながら。



結葉ゆいははそんなそうに小さくうなずくと、「………ひとりは……怖いの」とか細い声で訴える。


その言葉に、そう雪日ゆきはるのためにホームセンターに行って戻ってきた時の結葉ゆいはの様子を思い出さずにはいられなかった。


部屋の片隅でひざを抱えてそうの帰りを待っていた結葉ゆいはは、自分が思っていた以上に不安に身をゆだねていたのかも知れない。



偉央いおさんには……この場所のこと、知られていないのは分かってるつもりなの。だけど……ひとりでいたら、もしかしたらって怖いことばかり考えちゃって……。ごめんなさい……」


そこで足元に視線を落とした結葉ゆいはに、彼女が自らの足に刻まれた、生々しい傷跡に思いをせているのだと悟ったそうだ。



「バーカ。謝ることねぇだろ? 結葉ゆいははそんだけ怖い目に遭ってきたんだ。恥じることも、負い目に感じることもねぇよ」


そうの言葉に結葉ゆいはが不安そうな顔を向けてきて。


そうはそれを取り払ってやりたいと思いながら、努めて明るい声で続けた。



「よし! そういうことなら俺もここで結葉ゆいはと一緒に寝泊まりするわー。――何かさ、小さい頃せりも交えてお互いの家でお泊まり会したの思い出してワクワクすんだけど」


そんなことを言ってククッと笑ったそうに、結葉ゆいはが「わぁ〜。懐かしい……」と微笑んでくれて。


そう結葉ゆいはの笑顔にホッとしながら、「素直でよろしい」と告げて、わざと幼な子をあやすみたいに彼女のサラサラの黒髪を乱暴にかき回した。


そんなそうに、当然というべきか。


結葉ゆいはが「もぉー、そうちゃんっ、髪の毛もつれちゃうっ」と眉根を寄せて。


意地悪く笑いながら「わざとだよ」って舌を出してみせたら、結葉ゆいはがぷぅっと頬を膨らませた。


結葉ゆいはが結婚する前には、たまぁ〜にこんなやり取りをしていたっけ、と懐かしく思い出したそうだ。



そうには、結葉ゆいはが悲しそうに眉根を寄せたり、申し訳なさそうに視線を伏せたりしているより、今みたいにそうのすることに「もう、そうちゃん!」と怒ってくれている方が何倍もマシに思える。



そう結葉ゆいはの様子にホッと一息つくと、ふと現実的なことを思い出した。



「あー、すっかり忘れてたけど……布団、買ってこなきゃいけねーわ」


実家に戻れば予備の布団ぐらいはあるだろうが、結葉ゆいはを寝かせるとなると新品のほうが好ましい。


この部屋にある、自分が使っていた布団に結葉ゆいはを寝かせるのなんて絶対論外だと思ってしまったそうだ。


結葉ゆいはがくさくなっちまう)


結葉ゆいはが動くたび、ふわりと漂う彼女の甘い香りが、自分のにおいに侵食されるとか有り得ない。


(昼間に干せてたならまだしも……)


今日はバタバタしていて、そこまで気が回らなかったことを、そうは今更のように後悔した。


(ま、干せてたとしてもねぇけどな)


そうの言葉に、結葉ゆいはが「あのっ、でもっ、わざわざ買うとか申し訳ないよ」と顔を曇らせる。


布団を一式買うとなると結構な金額になる。

結葉ゆいははそれを心配しているらしい。


ましてやそうは、それを結葉ゆいはに使わせようと思っている。


怒られそうだし、何より結葉ゆいはが気後れしてしまいそうだから彼女には言えないが、安価な薄い布団を買うつもりなんてさらさらないのだ。



「バーカ。だからってうちにゃー布団、一組ひとくみしかねぇんだから買うしかねぇだろ。――冬に布団なしはキツイ。どう考えても必要経費だ」


(一緒に寝るわけにゃいかねぇしな)


心の中でそう付け加えたそうだったけれど、結葉ゆいはは納得がいかないみたいにじっとそうを見つめてくる。


そうして「うちの……」と言おうとしてキュッと眉根を寄せて口を閉ざしてしまった。


きっと、結葉ゆいはは、自分の実家に眠っている客用布団のことを思い浮かべたんだろう。


だが、いま実家に布団なんか取りに行ったりしたら、偉央いおに見つかってしまうかも知れない。


それを思い出して続きが言えなくなってしまったらしい。

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