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カイガ
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こはる
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読んだよ……53話、めっちゃ重かった。 花宮さんがシュートに「話さないか」って誘う流れは、なんとなく予想できたけど、実際に本人が目の前に立つとやっぱり違うな。シュートが「誰も頼りにならなかった」って言ったとこ、声に出して読んでたけど心臓がぎゅってなった。13歳があんな顔であんな声で言う台詞じゃないって菫が思うのもわかる。あんたは良い人かも、ってちょっと言いかけて押し黙るシュートの表情が、今も頭から離れない。 次、どうなるんだろう……シュートが異世界に飛んだ理由の答え合わせ、もうすぐな気がする。
スーパーへ向かう途中で偶然会った女刑事…花宮菫の装いは、以前取り調べ室で見たスーツ服ではなく、薄手のパーカー・スリム型のボトムスといった装いの私服着となっている。彼女は通勤と退勤の間は、普段こういった装いで出歩いている。薄着だからか胸の大きさがはっきり分かり、スリムなボトムスを履いてる故引き締まった脚を連想させる。まさに大人の女性といった印象を、シュートは抱くのだった。
「先月……ああ取り調べ担当の………」
「ああ。覚えててくれて何よりだ。顔を合わせるのはあの取り調べの時以来だね」
シュートにとっては想定外のエンカウントであり、内心少しびっくりしていた。菫は微笑みながらシュートに歩み寄ってくる。
「取り調べ室や事件絡み以外のどこかで三ツ木君とまた会えればいいなと思っていたから、こうして会えてよかったと思ってるよ」
「え?何で会えればいいなって思ってたんすか?」
「私はこれまでいろんな未成年の少年少女を補導したり話もしてきたけど、三ツ木君みたいな子は初めてだった。だからかな、君のことを気にかけてるんだ」
「何、言って……」
「ああごめん!誤解させるような言い方になったね。下心とかは当然無いからね」
「……………」
シュートが抱いている花宮菫に対する評価は、自分にとって害が無い人間、となっている。先月の取り調べの彼女には悪い感じも嫌味も全く無く、親身にもなってくれた女性だった。異世界のサニィと同じくらい親しめそうな感じもした。
故にシュートの菫に対する警戒心はほぼ解けている状態となっている。
「もしかして、あそこのスーパーに行こうとしてたのかい?夕飯の買い物とか?」
「まぁ、そんなところっす。花宮…刑事さんも?」
「花宮でいいよ。もしくは特別に菫でもよし!私もさっきスーパー行ったところさ」
それからスーパーで何を買ったか、何を買うのかなど、何気ない会話をしばらく交わした後、シュートがスーパーへ行こうと挨拶しようとしたところで、菫がこんな提案をする。
「少し…話をしないか?近くの喫茶店にでも寄って、腰を落ち着かせてさ」
「……また取り調べでもするんすか?こんどは署の外で」
シュートが少し嫌味を込めて聞き返すと菫は困ったように微笑む。
「まさか、ただ単に君とお話しがしたいだけだよ。話に付き合ってくれれば君の分もちゃんと奢るよ?」
「……………」
シュートはしばらく思案したのち、菫の提案にのった。それから二人はスーパーの近くにある喫茶店へ入った。美男美女(シュートと菫)のペアを目にした店員と他の客は皆、二人にしばらく見惚れる形となった。
「こ、こちらメニューになります…!」
ウェイトレスがメニュー欄をテーブルに出して、シュートと菫に熱っぽい視線をちらちら向けながらその場で棒立ちしていた。二人はおかしなものを見る目を向けながら注文を始める。
「三ツ木君、お腹空いてるんじゃないかい?料理も頼んでいいよ」
「いいんすか?今かなり腹減ってるんで、めっちゃ食いますよ?」
「あはは、高いものは少し遠慮してほしいかな…」
菫がお勘定をすることにウェイトレスはシュートに訝しめの視線を向けるが、二人は気にすることなく注文を済ませて彼女を下げさせる。
しばらく経ってから注文の品が出されて、シュートが黙って食事を始める。菫もコーヒーを無言で楽しんで、しばらく心地いい沈黙が続いた。
「ふぅ、ごちになります。花宮さんは思ってた以上に良い人っすね」
「けっこう現金な子だね君は。あと、敬語使わなくてもいいよ。砕けた口調で話して構わない」
それから二人は世間話やお互いのプライベート話などを軽い調子で話し合った。このまま何気ない会話で終わるかと思ったシュートだったが、菫から真面目な雰囲気を感じ取って、少し気を引き締める。
「………先日起きた私立天成中学校を襲った暴動事件。そのきっかけとなったのが、最近出て来た人気ユアチューバーSHOTによる生配信だった。その内容は天成中学校の真実、校長先生や特定のクラスを担任している教員の本音などを暴露するものだった。YoursTubeだけでなくニチャニチャ動画やトゥイッター、Onstagramにも同様の配信があった」
カップに僅かだけ残っていたコーヒーを一気に飲み干してから、菫はシュートをジッと見つめながら問いかける。
「あの生配信は全部、三ツ木君の仕業なんじゃないかな?」
やや鋭い目で問いかける菫にシュートは若干うんざりした表情をする。
「………尋問とかはしないんじゃなかったっけ?」
「尋問ではないよ。刑事の仕事ではなく、プライベートの中での質問だから、よっぽどの事ではない限りは罪に問われないから安心してほしい」
穏やかな声音で話す菫は嘘をついていないと判断したシュートだが、自分がSHOTであることは肯定しないでおこうと決める。
「私もあの生配信はリアルタイムで視聴していたからね。お面を取ったSHOTの素顔は今の三ツ木君じゃなかったけど、君の面影を何となく感じた。本名も名乗らなかったから確信は無かったけど、SHOTは三ツ木君なんじゃないかな」
「それはどうかな。活動開始から一ヶ月程度で有名なユアチューバーと並ぶ程になったような男が俺だなんて、ぶっ飛んだ推測じゃねーか?」
プライベートな質問とはいえ相手が警察の人間である以上、あの配信が自分がやったことを肯定するわけにはいかなかった。
「………実はSHOTの動画は全て見ていてね、チャンネル登録もしている」
「ふーん?まぁ今後の動画の投稿はもうないんじゃねーかな。なんか目的の為にやってたーって感じだったし。それがたぶん、あのクソ中学校の本性を白日の下に晒すことだったんじゃねーかって、俺は推測してるけど」
他人のフリを決め込んで、シュートは自分の本心を推測してるかのように話す。実際シュートは今後ユアチューバー活動を廃業するつもりでいる。
「随分詳しいね?けど、そうなんだ……出来ればもっと見たかったのだけど……」
菫は少ししょげた反応を見せるがすぐに真面目な態度に戻る。
「……さっき目的の為、それはもう達成したと言っていたね。それって、私立天成中学校の暴動事件と関係しているのかい?」
「そう。あのクソ私立中学校を潰す為にやったこと。《《彼は》》初めからそのつもりでユアチューバーをやってたんだろーな。
そして俺はあの学校に直接何もしていない。あの日のあの暴動に加わったりもしていなかった。
俺はSHOTじゃないし、あの暴動にも全く関わっていない」
大半が嘘である。もちろんシュートは菫を騙せたとも思っていない。ここで彼が大事にしなければならないことは、自分がSHOTであることとあの暴動を煽動したのが自分であることを、自分で肯定…認めないことである。
「……そうだね。三ツ木君はあの日のあの暴動に加わっていなかった。逮捕した人たちを何人か取り調べたけど、三ツ木君があの暴動にいたという話は誰一人からも聞かなかった。
SHOTの生配信もあくまで学校の真実を生配信で暴露しただけ。その生配信で彼の口から暴動行為を示唆するような言葉も一つも出てなかった」
「まぁ、あれは俺にとっても想定外のことだったなー。大炎上して世間から一斉に叩かれて、文部省あたりから調査とか入って、SHOTが言ったことが全て真実だと露見して、それが決め手となって教員どもが揃って首切りになれば良い、としか考えてなかったからな。ついでに中里の親にも飛び火がいけばなお良し、って感じだった。
それがまさか、暴徒たちが学校までなだれ込んで、教員どもを血祭りにするなんてな。ホントに想定外過ぎて笑っちゃったよ」
けらけらと愉快そうに笑うシュートを、菫は複雑そうな面持ちで見つめる。
「あの暴動で教員の人達はもちろん、生徒の子たちにも危害が及んで、怪我人も出てしまった。特に、君が在籍していた2のAのクラスが……私の姪っ子にも危害が及んでいた。幸いあの子には傷一つ無かったけどね」
「ああ、そうすか……」
その態度に眉を顰める菫はシュートに問い詰める。
「あれが、三ツ木君のやりたかったことなのかい?君はあれだけのことをしてやり過ぎたとかは思っていないの?」
「いやだから、俺がやったんじゃねーってば」
「………今は、そういうことにしておくよ」
「はぁ……まぁ特別に、俺が仮にSHOTだった場合として言わせてもらうと……もちろん、そうだって言うね。あんな学校は無くなればいい。弱い人間なら虐げていいなんて風潮を良しとしてたような最低の学校だったんだ。この世から無くなって然るべきだと思うけど?
って感じかな」
「………以前の取り調べで三ツ木君が虐めや理不尽に対する復讐を強く望んでいることは知っている。それも、暴力を手段として復讐することを強く望んでいることも。当然だけど君の復讐は多くの人々を酷く傷つけた。先日の暴動事件だってそう、君が直接手を下したり指示を出したりはしなかったとはいえ、暴動が起こった原因はSHOTの生配信にある。
三ツ木君、本当にこれで良かったと思ってるのかい?君はこれで満足したというのかい?」
菫が真剣に尋ねてるのを察したシュートは、同じく真面目に答えるのだった。
「殺すところまでいってないだけましでしょ。こっちは殺したいのを抑えてたんだから。反省も後悔も微塵も無い。俺は俺にとって正しいことをしたと断言できる」
「………そうか」
菫は少し悲しげに目を伏せる。
「私としては、あんなことまでする必要は無かったと思う。客観的に言わせてもらうと、三ツ木君の復讐のやり方は正しくない。もっと合法的なやり方で仕返しすれば良かった。どこまで力になってあげられるか分からないけど、私や他の警察の人、学校の教員…はダメだったんだよね。あとは家族とか虐めの相談専門の機関とか……とにかく色んな大人たちにもっと助けを求めていれば別の正しい解決が…………」
そこまで話したところで菫がシュートの顔を見上げると、彼女は思わず息を吞んだ。
目の前にいるシュートの目が虚ろなものとなっていたからだ。
「合法で正当なやり方だと、あのクソったれな日々を全て飲み込む必要もあるよね?俺にそんなやり方、できるわけがない」
「…………」
「中途半端な仕返ししかできずに終わって、惨めで堪え難かったあの全てを過去にして、つけられたままの傷をそのままにだなんて、そんなの生き地獄と変わらない。
そんなふざけた気持ちを抱えたまま生きていたくなかったから、人道にすら外れたやり方で仕返ししたんだ。そうすることで前へ進める、腐ることなく生きられると思ったから。実際俺は救われたんだ」
シュートは虚ろな目で小さく笑い、溜め息とともにこう告げる。
「俺の周りにいる大人なんて、誰も頼りにならなかったよ。自分の親ですらダメだった」
シュートの声には深い失望と諦めといった負の感情が込められていた。菫にもそれらが痛く伝わる程だった。
(そんな……)
間近で聞かされた菫は、胸が詰まるかのような感覚に囚われてしまう。
(そんな顔で…そんな声で、そんな言葉を、言わせてしまうなんて……。見た目は青年だけど、この子はまだ13才の少年で子どもと言っていい。
そんな子に、そんな言葉が出て良いはずがない。言っていいはずがないのに……)
菫はショックを受けつつシュートに対し様々な憶測をする。
今までシュートは幾度となく周りの大人たちに助けを求めたのだろう。だが彼の声をまともに取り合ってくれる大人は全くいなかった。学校側に至っては加害者側の肩を持つ始末だった。そういった理不尽がいくつも重なったことで、シュートは期待することを止めた。
そういった経緯が原因で今のシュートが在るのだろうと、容易に想像出来た。
「そうだなぁ……最初に相談した大人があんたみたいな人だったら、あんなやり方以外のやり方であいつらを追い込められたのかな…。今とは違う何かに、なってたのかな」
異世界に行くことも無かったことになってたのか、とは心の中で呟くシュートだった。
「………!私にどこまでやれたかは分からないけど、もしそうだったら私は三ツ木君を全力で助けていたよ。きっと」
「ふぅん?やっぱりあんたは良い人なのかも」
シュートはついそんなことを言ってしまい、押し黙る。そんな彼を見た菫は複雑そうにするのだった。