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#ダンジョン配信
百鬼清風
1,660
#料理
Yさん。
47
神崎屋へ戻ると、紬たちも当然のようについてきた。
「それで、残った肉じゃがは?」
眞子は椅子へ座る前から鍋を見ている。
「勝った祝いより先に、それか」
「肉じゃがを食って祝うんだぞ」
鍋を凝視し続ける眞子を見て、里沙が呆れた。
「都合のいいことを言いますね」
里沙はそう言いながら、もうカウンター席へ座っていた。天音はカメラを置き、紬は俺の前で両手を合わせる。
「晃一さん。私たち、あのお肉を取ってきたのよ」
「分かってる」
「だから、少しくらい食べてもいいと思うの」
「分かったから座れ。四人分くらいは残してある」
紬が両手を上げた。
「やった!」
眞子は鍋を見るのをやめ、俺の方を向いて、にっと笑った。
「最初から残してくれてたんじゃん」
椅子へ向かいかけた紬も、俺へ振り返った。
「晃一さん、大好き」
天音が置いたばかりのカメラへ手を伸ばす。
「紬ちゃん、ここで食べるのも配信する?」
「しなくていい!」
勝負が終わった途端、うるささが戻った。こっちのほうが神崎屋らしい。
鍋の蓋を取る。味噌と生姜の匂いが立つと、四人が揃って鍋の中を覗いた。
「さっきも嗅いだのに、また腹が減るな」
眞子の隣で、天音がけらけら笑った。
「まこちゃんは、ずっとお腹が空いてるよね」
「今日は探索へ行ってないのにな」
里沙は箸を四人分並べながら、首を振った。
「それは関係ありません。この肉じゃがは特別です」
器へ肉じゃがをよそい、飯と味噌汁を付けて出す。
紬は肉とじゃがいもを一緒に口へ入れた。煮汁を含んだじゃがいもが口の中で崩れると、目を閉じて両頬を押さえた。
「美味しい……勝った味がする」
「どんな味だよ」
「晃一さんが勝った味」
「説明になってないぞ」
紬はもう一口食べてから、俺へ得意げな笑みを向けた。
「私には分かるからいいの」
よくない。聞いた俺にはさっぱり分からない。
天音は肉を食べ、すぐに飯を口へ運んだ。
「これ、動画では匂いまで届けられなかったのが悔しいなあ」
「届けられたら、見る人が全員お腹を空かせて大変ですね」
天音は里沙の返事を聞いて、嬉しそうに笑った。
里沙の箸も止まらない。眞子は飯に煮汁を掛けて、かきこんでいる。
「これ、毎日出してくれよ」
「無理だ。この肉はもうない」
「じゃあ、普通の牛肉でいいぞ」
「普通の肉じゃがなら、そのうちな」
眞子は箸を止め、俺を見た。
「明日じゃないのか?」
「そのうちだ」
眞子が不満そうに口を尖らせた横で、紬が最後の肉を大事そうに食べている。
「この肉じゃがじゃなくても、私は出来るだけ毎日来るから」
「それは好きにしろ」
「昨日も今日も勝負で落ち着かなかったもの。今度は、ゆっくり食べるわ」
紬が満足そうに頷く。
四人は飯も味噌汁も食べ終え、空になった器をカウンターへ戻した。
俺は空になった鍋を洗いながら返事をしなかった。明日の仕入れも仕込みも、勝負の準備で手を付けられていない。
「すごく筋力が上がった気がするわ! これなら深層も楽にこなせそう。自分がアビスバイソンになったみたい。みんな、今日も探索頑張るわよ」
紬達四人は、意気揚々と店を出ていった。
翌朝、俺は暖簾を出さず、神崎屋の扉に鍵を掛けた。仕入れ用の鞄を持つ。休むのは一日だけだ。
地下通路の向こうから、紬が歩いてきた。昨日の勝利がまだ嬉しいらしく、足取りがやけに軽い。俺を見つけると、満面の笑みで手を上げた。
「晃一さん、おはよう。今日は何にしようかな」
「おはよう。悪いが、今日は仕入れで休みだ」
「……今日は、晃一さんのご飯を食べられないの?」
紬は俺の前で、がっくりとうなだれた。
「そんなに落ち込むな。仕入れを手伝ってくれるなら、戻ってから飯くらい作ってやる」
紬が顔を上げた。
「手伝うわ」
「返事が早いな」
「何をすればいい?」
「まずは、買い物バッグを一つ持ってくれ」
俺が両手に持っていたバッグの片方を差し出すと、紬は仕入れ用の鞄を両手で受け取った。
「それで、何を作ってくれるの?」
「仕入れてから決める」
「じゃあ、早く行きましょう」
紬は、俺より先に歩き出した。少し進んでは振り返り、俺が追いつくと、また足を速める。
「晃一さん、こっちで合ってる?」
「ダンジョンの入り口は1つしかないだろ。鞄を振り回すんじゃない」
紬は鞄を抱え直し、上機嫌で俺の隣へ戻ってきた。
第一部・完
コメント
1件
第一部完おめでとうございます!肉じゃがを囲んでの和やかな空気、勝負の後だからこそ沁みますね。紬ちゃんの「晃一さん、大好き」があまりにストレートでほっこりしました。仕入れに一緒に行く流れも自然で、ここから第二部が始まる予感。設定の丁寧さが光るエピソードでした。続きを楽しみにしています!