「――これで最後ッ!!」
ルークの声と共に、光竜王様の身体に突き刺さっていた最後の柱が斬り飛ばされた。
ドズウウウゥウン……。
柱の上部は地面に落ちて、崩れていく。
光竜王様に突き刺さっていた柱の残りの下部は、何かの力を失ったように、塵のように宙に消えていった。
改めて光竜王様を見ると、やはり大きな傷口が痛々しい。
身体にぽっかりと空いた幾つもの穴……。本来なら死んでもおかしくない、そんなレベルの大怪我だ。
「私が今、薬を――」
「……それには及ばぬ……。ふん……っ!」
光竜王様が身体に力を込めると、無惨に空いていた傷が見事に癒えてしまった。
まさに一瞬。魔力なのか神力なのかは分からないけど、とんでもない回復力だ。
「――凄い……!」
その光景に思わず声を出してしまったのはエミリアさんだった。
回復魔法を扱う彼女だからこそ、その凄さが一番理解できたのだろう。
しかしそんな力を持ちながらも、光竜王様は過去に『勇者』という存在に負けてしまっているわけで――
「……大変失礼ながら、光竜王様を倒した勇者というのも……化け物ですね」
「ふはは……。後にも先にも、負けたのは一度きりだがな……。
だが次はこの経験をもとに、さらなる力を得て見せよう……」
光竜王様も、大概にポジティブである。
いや、自身の転生を前にして、それなりにテンションが上がっているのかもしれない。
「ところで……光竜王様。
私はこれから、どうしたら良いのでしょう……?」
「……うむ。まずは我が封印を解いてくれた礼を言おう。
アイナよ、ルークよ、エミリアよ。……心から感謝する」
「わたしは何もしておりませんが……」
ぼそっと呟くエミリアさん。
「エミリアさんはルークに支援魔法を掛けていたじゃないですか。
むしろ私の方こそ、封印に関しては何もしていませんよ?」
「アイナさんは、封印を解くって決めたじゃないですか……」
「……え? ああ、なるほど……?」
思い掛けず、想定外の返事をもらってしまった。
確かに、そういう考え方もあるのか……。
「――さて。封印が解けたことで、我が転生の準備は問題が無くなった……。
次は神器作成に進むのだが……、ここで注意することがある……」
「え? それは一体……?」
「……お前は錬金術を、すべてアイテムボックスの中で完結してきたのだろう……?
だが今回の神器作成には、『宣言』――つまり呪文のようなものだが、これが必要になる……」
「はい。一応、暗記はしていますが……」
「……それは、アイテムボックスには入らないであろう?」
むむ、確かに……。
声なんて結局は音波だから、そんなものを入れることなんて出来ないよね……。
「そうすると、いつものようには作れない……と?」
「……いや、宣言と魂の工程は最終段階になるからな……。
それまでの工程をいつも通り行い、最後に宣言を行いながら、魂を吹き込めば良いだろう……」
「えっと……。宣言は大丈夫そうなのですが、魂を吹き込むというのはどうやって……?」
根性や掛け声だけで吹き込まれてくれれば良いんだけど、多分そういうことじゃないよね……。
それにこんな場所では、何の設備も無いわけだし――
って、あれ? そういえば……?
「……今さらで恐縮なのですが、神器って……ここで作るんですか?」
「うん……? 我が転生するのにも条件があってな……。
この場所以外であれば、遠い場所にまで行かなければいけないのだ……」
む、むぅう……。
やっぱり後日――なんて言い始めたら、またここまで来なければいけないのか。
それはそれで大変だし、そもそもまた来られるのかどうかも分からない。
それに――
「私たちはここから出る方法を知らないのですが、それはどうすれば良いのですか?」
「……我の命が尽きれば――つまり転生を終えれば、この空間も消滅しよう。
外の世界との位相が合わさり、近くの場所に放り出されるはずだ……」
「そうでしたか。
それでは光竜王様が転生したら、しばらく待っていれば良いのですね」
「……いや。それではまずいな……」
「え?」
「その『近くの場所』というのがまずいな……。
……お前には、これを渡しておこう……」
光竜王様はそう言うと、私の目の前に不思議な光の球を作り出した。
「これは……?」
「……この部屋の前の部屋に、魔法陣があったであろう?
その中央で、光の球に祈りを込めるが良い……。王都のどこかに飛ばされるはずだ……」
「あの魔法陣って、そういう使い道だったんですね!」
「うむ、他にも色々とあるのだがな……。主には転送のためにあるようなものだ……。
……さて、それでは準備ができ次第、我に声を掛けるが良い」
光竜王様は、何だかゲームのNPCのような台詞を言って、会話を終わらせた。
そんなことを言われると、倉庫でアイテム整理をしたり、宿屋に泊まったりしたくなってしまうけど――残念ながら、ここにはそんなものは無いわけで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――準備ができました!!」
光竜王様をしばらく待たせておいて、ルークとエミリアさんと色々と喋ってから――何とか心の落ち着きを取り戻した私はそう告げた。
時間はもう、22時頃だったりする。今日はすごく働いているなぁ……。
「ふむ……ようやくか……」
「す、すいません!?」
「……いや、すまんな……。我も転生を楽しみにしているのでな……」
「や、やっぱりすいません!?」
私は何度も光竜王様に謝った。
しかし何だかんだで、光竜王様とは最初よりも親しく話せている気がする。
……神様の眷属に対して、それが良いのかどうかは疑問なんだけど……。
「……それでは始めよう。
ここからは時間との勝負ということもある……。速やかに行うぞ……」
光竜王様は深く呼吸をしてから、低い声で呪文を唱え始めた。
それは長く、速く、かなり複雑なものに聞こえる。
そして徐々に、光竜王様の周りを魔法陣が取り巻いて――そして最後に、光竜王様が眩く輝き始めた。
「――アイナよ、今だ……!」
「は、はい!!」
素材良し! 手順良し! それじゃ――
れんきーんっ!
ズガガッ!! ガガガァアアアンッ!!!
「……ふぇ!? え、えええぇ!?」
錬金術を使った私の前に現れたのは、激しい光と稲妻を撃ち放つ『なんちゃって神器』の剣――
光は闇を照らし、稲妻は部屋中に飛び散り続ける。
剣は私の手の上を揺らめくように浮かび、とんでもない熱を放っている……ッ!!
で、でも、何でこんな感じなの!? か、かんてーっ!?
──────────────────
【未知の剣(F+級)】
多くの可能性を秘めた剣。
刻まれる意思によって、様々な可能性を示す
──────────────────
あああ、何も分からないし!!?
っていうか、まさかのF+級……!? そ、そんなあああああっ!!!!
「……それでは我が魂より『光竜の魂』を錬成し、その剣に吹き込もう……。
アイナよ、これより宣誓を行うが良い……」
「は、はい……ッ!!
調和と力の宣言――……我が支配を受けるすべては、調和と力をその主に示すべし!
浄化の光は邪悪を打ち消せ! 輝ける光は闇を打ち消せ! 命の喜びは死の悲しみを打ち消せ!
神の理を以って、すべてをここに集約することを――」
『――理想補正<錬金術>を使用しますか?』
「えっ!?」
突然、頭のどこかに響いた声。
『理想補正<錬金術>』は私の持っているユニークスキルのうち、使い道の分からない最後のもの――
辺りを見回す余裕なんて無い。
おそらくは誰かじゃない、私のスキルたち――『極限の創造技術』がそんな選択肢を示したのだろう。
そうであれば……!
――使用する!!
そう念じた瞬間、目の前の剣に大きな力を宿るのを感じた。
結果オーライなのであれば、ひとまず次の段階へ――
「自由意志の宣言――……世界を象る七と九の根源よ!
我が意のままに法則を折り曲げ、新たなる法則を創り出せ!
現象、生命、概念の形象を捉え、我が支配に透明なる翼を――」
私がそこまで唱えると、光竜王様が大きな手を、輝く剣に静かにかざした。
「……我が眷属よ、ここに生まれ……そして、宿れ……!!」
光竜王様の言葉が終わったその瞬間――
パアアアアアアアアンッ!!!!!
――何かが、弾ける音がした。
剣は光と稲妻を放つのを突然にやめ、周囲は徐々に静けさを取り戻していく。
そして私の目の前で、その剣は光と共にゆらゆらと浮いている――
思わず剣に手を差し伸べてみると、まるで幼児が母親に寄り添うように、ゆっくりと私の手の中に収まっていった。
それはまるで生きているかのように温かく、未来を照らすように明るくて――
……私が目指してきた神器。
それがついに、誕生した瞬間だった。
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