「できた……! できたあああああっ!!」
私の歓喜の声が、暗闇の中に響く。
その剣は薄っすらと光を放ちながら、私の言葉に呼応しているかのようだった。
「アイナさんっ! おめでとうございますっ!!」
「おめでとうございます! ようやく……念願が叶いましたね!」
エミリアさんもルークも、少し涙を浮かべながら祝福をしてくれる。
かく言う私はもうボロボロだ。『白金の儀式』が終わったときも泣いてしまったのだから、今日は何だか涙祭りだ。
「うん、うん……。本当に二人とも、ありがとう! ありがとうございました!
それと――」
私は涙を拭いてから、光竜王様を見上げてお礼を言った。
「――光竜王様も、ありがとうございました。
たくさんの支援と補助をして頂きまして……!」
「……何、我も同じくらいのことを――いや、それ以上のことをしてもらったからな……。
うむ、そうだ。これは我からの礼と、神器誕生の祝いだ……」
そう言うと、光竜王様の指から光が生まれて、私たち三人の身体を光が包み込んだ。
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【アイナ・バートランド・クリスティア】
レアスキル『神竜の卵』を獲得しました
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「わっ!?」
「む……?」
「ひゃっ!?」
突然、頭に不思議な声が聞こえてきた。
思わず声に出して反応してしまったが……それはルークとエミリアさんも同様のようだった。
「一体、これは……?」
「ふふふ……、神力と人間の可能性を巻き込んだスキルだ……。
損になることはあるまい。持っていくが良かろう……。
……さて、我が転生の術もそろそろ完了する。今回は世話になったな……」
「いえ、こちらこそ……お手伝いをできて光栄でした!
それでは光竜王様、良い転生を……!」
私の言葉に、光竜王様は満足そうに何度も頷いた。
そして、新たな言葉を続ける――
「――アイナよ。これからお前には、きっと大きな試練が待ち受けているだろう……。
とにかく生き延びよ。そして無事に試練を乗り越えることができたなら……『神託の迷宮』を訪れるが良い」
「え?」
『神託の迷宮』――それは辺境都市クレントスの北部にある、『何も無い迷宮』。
1階のみで構成されていて、中にはそれこそ何も無いはずなんだけど――
「――分かりました。是非、伺わせて頂きます」
「うむ……約束だぞ……。
……では、さらばだ!!」
光竜王様は優しくそう言ったあと、大量の光を激しく放ち、そのまま――
「……あれ?」
――石のように固まってしまった。
先ほどまで纏っていた光は消え失せていて、動く気配は感じられない。
「……光竜王様のお身体は残ったんですね……。
このお身体も、外の世界に放り出されてしまうのでしょうか……」
エミリアさんは、そんなことを悲しそうに呟いた。
いくら魂が無くなろうとも、その身体は偉大なものであるのだ。
「どうでしょうね……。
もしかしたら、外の世界にはいかないかもしれませんし……」
「……すいません、アイナさん。
少し、お祈りをさせてもらえますか?」
「分かりました。きっと、光竜王様も喜んでくださると思いますよ」
エミリアさんはそのまま光竜王様の亡骸の前に跪き、祈りをしばらく捧げていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――すいません、お待たせしました!
……せっかく神器ができたというのに、本当にすいません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。
それに光竜王様にはとてもお世話になりましたので、むしろお礼を言いたいくらいです」
「えへへ、そう言って頂けると……。
ところでアイナさん、その神器って名前はあるんですか?」
「それなんですよね……。
鑑定した時点で変な名前を勝手に付けられるのは嫌なので、先に決めてから鑑定をしたいのですが」
「なるほど。思い掛けない名前だったら嫌ですもんね」
例えば――
……みたいなノリで提案すれば、勝手にそれで決定されてしまいそうで怖い。ここは慎重に、慎重に……。
……剣の名前。
ゲームとかで考えてみると、既存の宗教観や伝説に基づいて付けることが多いよね。
例えば『七つの大罪』だとか、『北欧神話の神々の名前』だとか。
それはそれで良いんだけど、どうにもオリジナル感が無いというか――
この世界に現存する神器は、水属性の『神剣デルトフィング』、火属性の『神剣カルタペズラ』、土属性の『神剣ナナフヴァドス』の3つ。
今回は光属性だから……って、別にこのシリーズに合わせる必要は無いか。
私だっていつか、火属性や水属性の神器も作りたいのだから。
……となれば、あまりに似過ぎない程度で、ここはもう造語で付けてみることにしようかな。
でも光竜王様から加護をもらったこともあるし、その名前の一部はどこかに入れたい。
光竜王……ヴェセルグラード・ゼルゲイド……。
最初の『ヴェセル』って何だか『王都ヴェセルブルク』っぽいから止めておこう……。
となると残りは『グラード・ゼルゲイド』……。うぅーん……?
私が作ったものだから、とりあえずどこかにアイナの『ア』を入れてみたり……。
おお、それならこれからは『あいうえお順』で名付けていくかな――って、最初からそんな縛りは考えたくないなぁ……。
むしろ『クリスティア』の方を|捩《もじ》ってみたり……?
……そしてそのまま考えること十数分。
「――決めました!!」
「おお! 聞かせてくださーい!」
「緊張しますね……!」
「ああぁー……。改まると恥ずかしいですね!」
勢いで言っちゃえば良かった!!
それでは初公開――
「この剣の名前は――アゼルラディア!
神剣アゼルラディアとします!!」
「おぉ……」
「アゼルラディア……何だかカッコいいですね! どういう意味なんですか?」
「意味は無いです!」
「え? えぇー……?」
「いや、変に意味を付けるとそれに振り回されそうだったので……。
でも『ア』は私の名前から、『ゼ』は光竜王様の名前から、『ル』はルークの名前から取ったんですよ」
「え……? 何故、私の名前を……?」
きょとんとするルークに、私は改めて彼に向き直った。
「……いつも、護ってくれてありがとう。
私が神器作成を決めたとき、そして決めたあとも、一緒にいてくれてありがとう。
だから――この剣で、また私を護ってくれるかな?」
そう言いながら、私は神剣アゼルラディアをルークに差し出した。
「え? わ、私が……使っても良いのですか……?」
「私はずっと、そのつもりだったよ?」
私はルークに、にっこりと微笑んでやった。
ルークが剣使いということもあったけど、仮に彼が槍使いだったとしたら――旅の途中で、神器の形はきっと槍に変わっていただろう。
彼は呆然と剣を見てから、目頭を押さえてから、私の前で跪いた。
「……ありがとうございます。
より一層の精進を重ね、その思いに報いることを誓います……」
「よろしくね!」
そして神剣アゼルラディアは、私の手からルークの手へと。
これで、新しい神器の持ち主が確定したわけだ。
「――アイナさん、聞きたいことがいくつかあるのですが」
「え? 何ですか?」
ルークと神剣アゼルラディアを眺めていると、不意にエミリアさんから声が掛けられた。
見れば何だか少し、不満そうな顔をしている。
「エミリアの『エ』は入っていないんですか!?」
……あ。やっぱり……?
「あの、一応は考えたんですけど……入れる余地がなくて! ごめんなさいっ!」
「ぶぅぶぅ! 次は絶対に入れてくださいねっ!!」
「わ、分かりました……。次……か――」
次の神器……。
もちろん私は、作れるものなら他の神器も作っていきたい。
それならば、名前の件は次に持ち越すのも良いだろう。
「それとアイナさん、アゼルラディアを普通に持っていませんでした?
『なんちゃって神器』だったときは、一人では持てませんでしたよね?」
「ふふふ、それなんですけどね!」
それにはちょっとした種があるのだ。
それじゃ早速種明かし!
かんてーっ。
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【神剣アゼルラディア(S+級)】
形状:神器<剣>
属性:光
熟練:0/100
特殊:超斬撃 斬撃力変化 全種族攻撃UP 全攻撃補正 全防御補正 状態異常耐性UP HP・疲労回復 装備限定<神器の錬金術師/従者>
加護:光の加護、竜王の加護
錬金効果:魔石スロット×5
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鑑定スキルでウィンドウを宙に映して、それを三人で覗き込む。
「――っとまぁ、装備限定のところが……あれっ?」
「お……。装備限定での条件が『英雄』では無いんですね……?
『神器の錬金術師』っていうのは――」
「あれ……。もう少し違った指定をしていたんだけど……これって、私のことですかね……?
いや、実際に私もルークも普通に持つことが出来たし……」
それに加えて、しっかりS+級でできているし、他にも何だか色々と――
ザザッ……! ザザザッ……!!
「わっ!?」
「え?」
「む……」
突然聞こえた雑音に、私たちはそれぞれ驚いてしまった。
私にはどこか懐かしい、ずっと昔に聞いた覚えがあるような雑音。
例えばそれは音響設備――マイクやスピーカーを繋げたときに生まれる、耳障りなノイズのような……?
そう思った瞬間、それは私の頭の中で大きくはっきりと聞こえてきた。
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『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣アゼルラディア』が誕生しました。
『世界の記憶』に登録されました。
『アイナ・バートランド・クリスティア』に特殊称号『神器の錬金術師』が付与されました。
『世界の記憶』に登録されました。
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「……は?」
「アイナ様、これは一体……!?」
「え……!? ルークも聞こえた!?
何これ、分からない……!!」
私とルークが共に混乱する中、エミリアさんは――
「世界の記憶……? これが……?」
そんなことを、一人ぽつりと呟いていた。