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綺麗に、音もなく、けれど物凄いスピードでテーブルの上の料理がなくなっていく。
どちらかと言えば細身だし、涼しげな雰囲気からは想像できないほどに……。
「何か?」
「い、いえ、たくさん食べられるんだなぁと……」
「そうですね、よくイメージではないと言われますが食べます」
そう言って見せた高柳のドヤ顔に、真衣香は初めて人間味を感じ、引き攣っていた顔の筋肉から少し力が抜けた気がした。
「立花さんも早く食べて下さい。そのうち電話が入ってきてしまうので」
「電話?」
「ああ、すみません、こちらの話です」
たいして悪いと思っていなさそうな声で、謝罪の言葉を口にした高柳は再び料理に手を伸ばした。
***
「あの……本当に、ご馳走になってしまって、申し訳ありませんでした」
店を出て、パーキングにたどり着き、高柳が助手席の扉を開けてくれたところで真衣香は再びペコペコと頭を下げた。
「いえいえ、無理に連れ出したので」と。
先ほどから二度、三度繰り返している会話に高柳は答えてくれた。
ドアを閉め「少し待っていて下さい」と言い残し、清算に向かった背中を見つめる。
(……よく、わからない人だな)
結局、高柳が何をしたいのか、または……したかったのか。わからないまま帰ろうとしている。
数分で戻った高柳が「お待たせしました」と言いながら白いイヤホンを耳につけて、車を発進させた。
そして続いた言葉に、またもや真衣香は驚かされる。
「では、もう少し一緒にいたいので。ドライブデートにでもお付き合い願えますか?」
「は、はい!?」
暗い夜空。暗い車内。その中で煌々と光る、目の前のナビ。その画面には19:30と表示されていた。
もちろん、あまり関わりのない人物とはお別れをしておきたい時間だけれど。他部署とはいえ、目上の人間。
『嫌です!』と。口にはできない真衣香だった。