第105話「消えた光 ―英雄たちの焦燥―」
漆黒の宇宙を駆ける三つの光。
ゲズ、リオン、ウカビルを乗せた高速機体は、最大速度で星《レファリエ》へと向かっていた。
「…何か、嫌な予感がする」
ゲズの声は震えていた。
英雄として数々の修羅場を潜ってきた彼が、かつてないほど焦りと恐怖を露わにしている。
リオンも険しい顔で言葉を返す。
「リンネの出現。あいつが“導き手”だとすれば…動き出すのはこれからだ。何かを、仕掛けてくる」
「セレナは……大丈夫だろうか」
ウカビルのその一言に、沈黙が落ちる。
やがてレファリエの大気圏を抜け、光の速度で着陸。
三人は慌ただしくセレナの部屋に駆け込んだ。
しかし――そこにセレナの姿はなかった。
「セレナァァァァッ!!」
ゲズの絶叫が、レファリエ中に響いた。
ベッドの上には、かすかに闇のエネルギーの残滓。
割れた花瓶と、倒れたクッション。
まるで、そこにいた者の存在を抹消するように、何もかもが「消えていた」。
ゲズは拳を握り、床を殴りつけた。
「…守れなかった……っ!また、大切なものを……!」
リオンが静かに、そして力強くゲズに語りかける。
「責めるな、ゲズ。あいつは、俺たちのことを熟知している。機を見計らって動いた…」
「だが…!」
ゲズが顔を上げたそのとき、空間がかすかに歪み、黄金の光が現れた。
最高神アダムだった。
「リンネ…セレナをさらったか」
「アダム…知ってるのか!やつはどこへ…!」
アダムはわずかに首を振った。
「正確な座標は特定できない。だが――“無の座標”とでも呼ぶべき異常空間の波動を感じ取った。
あらゆる時空の法則から外れた領域に、彼はセレナを連れていった可能性が高い」
「無の座標…!?」
ウカビルが険しい表情になる。
「そこは、通常の移動手段では行けないはずだ。あいつは時空を歪めて、“外側”に逃げたってことか」
アダムは重々しくうなずく。
「一つだけ手段がある。
“歪みの断片”を集めれば、座標への入り口が開くかもしれない。
ただし、それには時間と――覚悟がいる」
ゲズは顔を上げ、静かに言った。
「構わない。セレナを…俺の子を…あいつから取り戻す。それが、今の俺の全てだ」
リオンとウカビルも力強くうなずく。
「俺たち三人で、リンネの復讐を止める。どんな闇の中だろうと、連れ戻すさ」
三人の英雄たちは、再び歩み出す。
絶望の気配漂う宇宙の中に、かすかに差し込む希望の光。
それは、かつてこの世界を救った者たちの意志だった。
――闇の奥底で、セレナを連れたリンネが、静かに瞳を閉じる。
「すべては…運命をねじ曲げた英雄たちのせいだ。
だから僕は…“正す”んだ。この手で」
彼の言葉には、怒りでも狂気でもなく――哀しみが滲んでいた。
《続く》
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