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第7話「沈んだ掘り先」
> 「沈むのがわかってた。けど、掘りたかった」
冷たい風が吹き抜ける湖底跡。
水が引いて現れたのは、金属の骨格をむき出しにしたような地層だった。
カンナは水跡でまだぬめる足元に立ち、肩のゴーグルを下ろす。
その姿はいつもより静かで、煤まじりの三つ編みは湿気で重く落ちていた。
「ここの金属……音が浅い。だけど、奥に何か引っかかってる」
キイロが背後で計測装置を確認しながら言う。
黒髪を風に揺らし、首元の工具袋を掴んだまま目を細めている。
ミレはその横で、**小型掘削艇《ウルリカ》**の整備を続けていた。
焦げ茶の髪を後ろで一つ結びにして、袖まくりした手にはレンチの跡が黒く染みている。
「船での掘削なんて無茶よ。でもやるんでしょ、カンナ」
カンナはただ、うなずいた。
「……やるよ。“引っかかってる音”を残したまま、帰る気になれない」
掘削艇《ウルリカ》は静かに動き出した。
スクリューは水を蹴らず、乾いた泥を割って進む。
艇先に固定された**回転式ドリル“うたう牙”**が、金属に当たると微かに高音を漏らす。
――キュイイイ……
その音に、カンナの鼓動が重なる。
だが、音が深くなった瞬間。
背後の地面が低く唸り、水の流れが戻ってくる音が聞こえた。
「水、戻ってきてる!」
ミレが叫ぶ。
背後では水がすでに土を呑み、静かに、だが確実に迫っていた。
そこへさらに、湖対岸から小舟型の襲撃艇が現れる。
陸海賊団《濁牙団》――湖底金属の横取りを狙っていた密掘り者たちだ。
「邪魔、入るよ!」
キイロが音響槍を構える。
敵の艇が撃ってきた爆裂杭を、ミレが手製の防音壁で受け止める。
カンナは、ただ一つの方法に賭けた。
「……“うたう牙”で、刺す!」
ドリルを急角度で起動。
その回転力で地面をえぐるのではなく、艇全体を地中へ“引っかける”ように突き立てた。
グルルルルルッ!!
ドリルが地面に噛みつき、掘削艇の動きが止まる。
そのまま水流に引かれる力と、ドリルの抵抗が拮抗する。
「今!跳べ!」
キイロとミレ、ヤスミンが飛び移る。
カンナも最後に、ドリルの柄を支えにして脱出。
船は沈むが、“牙”だけが泥に残り、振動を伝えていた。
岸に戻ったカンナたちは、音のない水面を見つめた。
掘削艇は沈んだが、彼女たちは確かに“触れた”のだ。
> ……そこに、何かがあった気がする。
掘りたかったのは金属じゃなく、その奥で黙ってた“気配”だった。
カンナはゴーグルを外し、髪をかき上げてつぶやく。
「次、行こう。今度は、沈まないように」
ヤスミンが静かに鳴いた。
どこか、“うたう牙”の余韻をまだ感じているようだった。