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ヘレンは急激に怖くて心細くなってきたが、しっかりと気を取り直して、聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館にいるはずのアーネストを探しに再び歩き始めた。周囲のゾンビの数がいつの間にか、増えてきている錯覚を覚えた。
赤黒い雹は未だに激しく降り出して、大き目の傘が雹を跳ね返しては、バタバタと大きな音を鳴ならしていく。とても不快なほどに不気味だった。
身が縮こまるほどに不気味な夜だった。
ヘレンはモートのことを心の片隅で、護身用に想うことにした。
ノブレス・オブリージュ美術館から、更に3ブロック離れたところまでヘレンは辿り着いた。なんとか、ここまで無事だったが。ここも酷かった。至る所で、悲鳴がし、それと同時に怒号の声すらもする。
ヘレンは涙を流した。ロマネスク様式の建造物には歯型がつき、道路に点在する廃車同然となってしまった車には、大きな爪痕がついている。そのどれもが、多くの窓ガラスやフロントガラスが粉々になっているせいで、かなり崩壊した印象を受けるからだ。ホワイトシティの崩壊。ヘレンはこれからどうやったら、こうなってしまった街を救えるのだろうかと考えた。
もう、ホワイトシティは、元の美しい姿を取り戻すことはできないのだろうか? やっと、聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館の外観が小さく見えてきた。ヘレンはもう駄目かと心の中で何度も思ったが、無事に辿り着いけるという嬉しい予感がしてきた。
その時、赤い空から黒色の馬に乗った騎士が、ヘレンのいる近くの灰色の建造物に降りて来た。
赤黒い雹がパタリと止んだ。
周囲のゾンビが急に、倒れだした。
黒色の騎士は、聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館の方を向いてから、ヘレンに馬上から優しく話し掛けた。
「あっちへは行かない方がいい。あっちの方はゾンビしかいない。もう手遅れだよ」
ヘレンはその大きな馬に圧倒され、言葉を失った。何も言えずに首を振り続けていると、黒色の騎士は赤い空を見上げた。
「いいかい。全てはもう遅いんだ。だけど、抗うだけ抗うのも君たちの勝手だ。でもね、もうすでにはじまっているんだ……その時が……」
そう言い残して、黒色の騎士は赤い空へと音もなく飛翔した。
ヘレンはその言葉を反芻した。今度は身体が震えで動けなくなってくる。だが、勇気を振り絞ってヘレンは聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館に向かって歩きだした。