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「蓮美、服がシミになってはいけないから手洗いしてあげるよ。家まで車で送ってあげるから、今日はオレの手頃な服を着て帰れば良いさ」
「そんな訳には行かないわ!」
猛烈に拒絶する蓮美。
「蓮美、いったいどうしたんだい……。話せる事だけで良い。聴かせてくれないか」
豊は汚れた服を着ている蓮美を抱き寄せ、長い髪の毛をひたすら撫でた。
「あ、ああぅ……」
シクシクと再び泣き始める蓮美。
「豊……お願いよ、嫌いにならないで。お願いです。あたし、あたしは……病気なんです」
「――嫌いになんてなるものか! 病気なんだね。それ以上の事を話せるかい? 蓮美」
「はい。あたし……」
蓮美の小さな肩が雨に濡れそぼった小鳥のように弱り、震えている。
豊は温めるように抱く。
蓮美の横に座り耳を傾ける豊。
「あたしが受けていた虐めは酷いものでした。豊……聴いてくれますか?」
豊は黙ってただ頷いた。
「初めての転校先、小学校2年生から虐めは始まりました。給食の……半分以上を盗られたの」
「なんて事だ! 先生はなにもしなかったのか」
「ええ。田舎でね、どうやらあたし達家族は老若男女問わず皆から妬まれ忌み嫌われていたみたいでした。先生は見て見ぬ振りを……」
「妬み……?」
「はい、豊。あたしのお家はいわゆる富豪です」
「そうなんだね」
「うん。食パンで頭を叩かれた挙げ句『腹減ってるんなら食えよ!』とデザートのバナナを無理矢理口に押し込まれ吐いた事もありました。あの時の先生の含み笑いを忘れられない」
「なんて事だ。辛い思いを……。もっとそばにおいで、蓮美」
「はい、豊。母親がね、表情が日に日に曇って行くあたしを心配し引っ越しを繰り返したの。その度に意地悪をされた! 特に美味しいおかずは皆で笑いながら奪い合うのよ。あたしが学校で昼食を食べられた日は数えられる程度だった。それもすべてのメニューは食べられなかった」
「そうか」
豊は胸が痛い。苦しい。タイムマシーンがあれば、今すぐ蓮美を自分が助けに行くのに! そう思う。
「それでね、中学に上がっても同じメンツだったから、寄ってたかって彼らはあたしを虐めました。午後の授業はおなかが鳴り、クスクスみんなに笑われた。惨めで悲しかった。でも、パパとママを心配させたくないから誰にもなにも言えなかったの」
「ああ、蓮美」
豊は名を呼び、今一度蓮美を抱き締めた。蓮美の長いまつげが涙の重さに耐え切れないかもしれない。
「高校になるとね、もう給食はなかった。でも近所の公立高校へ通ったからお馴染みの虐めっ子だらけだったわ。今度は『カレーパンを買って来い』だの命令されるの。それと使いっ走りをさせられていただけじゃなく、万引きも強要され、アイスクリームや総菜パンやキャラメルを盗んだ。あたしは泥棒よ、豊!」
#食
「違う! 違うよ、蓮美。蓮美は悪くない。泥棒なんかじゃないよ。確かにやった事は万引きだ。でも恐喝されたも同然じゃないか。自分を責めないで、蓮美」
「うっ、うぅ、ヒックヒック……あたし、引っ越しなんかしたくなかった。故郷にいたかった」
そう言い蓮美は押し黙ってしまい、ずっと泣いた。
――――蓮美の気が済むまで、泣き止むまで、豊は寄り添っていた。
「今日はもう帰るわ、豊」
「あ、ああ」
そこで豊は思ったのだ。先の蓮美の言動を。
「家に送らないで」と激しく拒否した蓮美を。
「初めてデートしたお店まで、送って下さい。喫茶オリエンタル・オルゴールまで。良いかしら? 豊……」
「うん、もちろん良いよ」
トマトの汁、ラーメンの汁にケチャップ、蓮美はシミだらけの服を着てバスに乗る気だ。
(心の病ゆえ平気なのか、それとも強固なこだわりがあるのかな……)
自由を子どもの時から奪われ続けた蓮美を、たとえ滅茶苦茶な事であっても、今自由にさせてやりたいと豊は感じた。
人や蓮美自身を傷つける行為以外は。