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北原家の屋敷に足を踏み入れた瞬間、葉月はその豪華さに圧倒された。重厚な木の扉、手入れの行き届いた庭園、そして中に広がる優雅な和の空間。すべてがまるで別世界のようだった。
「ここが…大正時代の名家なのね…」
葉月は思わず呟いたが、玲はそれに答えることなく、無言で屋敷の奥へと進んでいく。彼について行くうちに、葉月の中には次第に緊張感が高まっていった。
やがて広間に通され、玲が低い声で言った。
「ここで待て。俺の兄が来る。」
「兄?」
葉月は驚いた。玲には兄がいるらしい。そして、なぜかその兄に会わされることになった。
しばらくして、襖が静かに開き、長身で冷静な雰囲気を持つ男性が現れた。玲とは違い、どこか穏やかな雰囲気をまとっている。しかし、その眼差しには深い知識と経験が感じられ、ただの一般人ではないことが一目でわかった。
「初めまして、北原蒼だ。」
彼は葉月に向かって軽く会釈をしながら、穏やかに自己紹介をした。葉月も慌てて頭を下げる。
「私は葉月です…」
蒼は柔らかい微笑みを浮かべながら、葉月をじっと見つめた。だが、その瞳の奥には鋭い洞察力が光っていた。
「玲から聞いたが、君が持っている時計、それはうちの家宝だ。どうやって手に入れたか、詳しく教えてもらえないか?」
蒼の優しい口調とは裏腹に、その言葉には重みがあった。葉月は何とか説明しようと口を開いた。
「私もよく分からないんです。ただ、現代の時計屋で手に入れたもので…」
「現代?」
その一言に、蒼は驚いた表情を見せた。玲も同様に驚いた様子で、葉月を見つめた。
「現代から来たというのか…」
蒼はしばらく考え込んだ後、葉月に向き直った。
「もしかすると、この時計が時を超える力を持っているのかもしれない。君が現代からここに来たのは、偶然ではないのかもな。」
葉月はその言葉に息を飲んだ。時を超える力…そんなことが本当にあるのだろうか?だが、蒼の言葉はなぜか説得力があり、彼女はその可能性を否定できなかった。
「では、この時計が原因で私はここに…?」
「そうだろう。だが、まだ謎は多い。この時計がどうしてそんな力を持っているのか、そして君がなぜ選ばれたのか…」
蒼は深い思索に沈んだ様子だった。
玲は腕を組んで険しい表情を浮かべた。
「そんなことがあり得るのか?時を超えるなんて…」
蒼は静かに頷いた。
「不思議なことが起こるのは、この世の常だ。特に我が家に関わることはな。」
葉月はその言葉に不安を感じた。北原家には、何か重大な秘密が隠されているのだろうか。そして、その秘密が自分とどう関わっていくのか――彼女の心はますます混乱していった。