テラーノベル
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学校に行く支度をしながら、
ふと昨日のグループ写真を見返す。
パン屋の店先で、僕と涼ちゃん、若井。
ピースを浮かべて、いつもの笑顔。
スマホの画面越しだと、
僕たちは本当に仲の良い友達に見える。
でも、あのとき僕の心にうまく隠した“
苦い気持ち”までは、
何も写り込んでいないみたいだ。
朝の教室。席に座ると、
すぐに涼ちゃんが隣の席に座ってくる。
涼架『おはよう元貴!今日も眠い〜』
ふわふわした声。その無邪気な表情を見て、
つい微笑んでしまう。
元貴『また遅くまでYouTube観てたんでしょ』
僕の問いかけに、
『うぅ…バレてる、』と苦笑い。
しかめた顔すら愛らしい。
涼ちゃんは、
生きてるだけで可愛いって、ずるいな…
何も考えていないように見えて、
涼ちゃんはときどき鋭い所に気がつく。
それが嬉しくて、少し怖くなる。
1限目の休み時間、
若井が僕の肩を軽く叩いて話しかけてきた。
滉斗『今日、また生徒会の仕事手伝える?』
元貴『うん、大丈夫』
滉斗『助かる!ありがと!
じゃあ、また俺から連絡するから!』
若井の声は穏やかで、どこか頼りがいがある。
近くにいるだけで、
みんなを安心させる力がある人だ。
若井に名前を呼ばれるたび、胸が静かに波打つ。
昼休み、涼ちゃんと一緒に、
屋上で弁当を食べる約束をしていたのに、
職員室から呼ばれ、結局教室に戻ってきた
ときには、二人が席で話していた。
若井が涼ちゃんの話に相槌をうつ横顔。
涼ちゃんは嬉しそうに、
昨夜観た動画の内容を夢中で話している。
どうして僕がいなくても、
こんなに楽しそうにできるんだろう、
ちょっとだけ、胸がざわつく。
その感情を自分でもなかなか認めたくない。
夕方、家の勉強机の上で、僕の
作詞用のノートにペンを滑らせてみる。
――優しい僕、でいるのは本当に正しいのかな。
本当の想いを、誰にも言えないまま、
柔らかく誤魔化して…
“大丈夫”なふりをして
でも、誰よりも隣で笑いたくて、
誰より傍にいたくて――
LINEに涼ちゃんからスタンプと、
“きょうは色々ありがと~!”
という短いメッセージ。
すぐに“また明日”と返す。
ほんのそれだけで救われる自分。
だけど、その一方で、
誰にも言えない“隠しごと”が増えていく
寂しさも大きくなっていく。
夜、ベッドの中でスマホを握りしめながら、
若井の名前のトーク画面を何度も開く。
“今日楽しかった”
“会いたい”
“好き”
下書きだけして、
結局送れなくてそのまま消す。
いつも素直な自分でいれたらいいのに、
本心は、いつも言葉にならなくて、
優しい嘘ばかりが増えていく。
月明かりだけが静かに、
僕の部屋を照らしていた。
——優しさの奥に秘密を隠したまま、
僕の夜は今日も終わる。
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