初音ライダー剣
第18話
“集結”
あずみ「それじゃ、消えてもらおうか。ジョーカー!」
サーペントアンデッドは右手の鉤爪を研ぎ澄まし、ルカに目掛けて突き刺そうとする。だが、そうしようとした矢先、林の奥からバイクのエンジン音がした。
あずみ「ん?」
ルカ「…?」
サーペントアンデッドはバイクの音がした方を向いた。ルカもまた、同じ方向を向く。次の瞬間、ブレイドがブルースペイダーを駆って林から出てきた。
ミク「このッ!」
「THUNDER」
ブレイドは走行中、ブルースペイダーに♠6「THUNDER」のカードをラウズし、電撃のエネルギーを纏ったブルースペイダーを走らせてそのままサーペントアンデッドに向かって突っ込む。
あずみ「くっ!」
サーペントアンデッドは身を反らすもののブルースペイダーの突撃を受け、思わずよろけてしまう。同時に、ルカの拘束を解いてしまう。
あずみ「くそ、あと一歩だったのに…」
サーペントアンデッドは電撃で痺れつつも何とか立ち上がり、悔しさに歯噛みしつつ林の中へと逃げていった。
ミク「…ふう。」
ブレイドはサーペントアンデッドの退却を確認した後、変身を解いてミクの姿に戻り、倒れているルカを見遣る。
ミクはルカを連れてBOARDに戻り、任務の報告をした後、ルカの事をBOARDの面々に話した。だが、ミク以外の面々は当然のようにルカに気を許していなかった。
MEIKO「ミク、どういうつもり?」
リン「その人、アンデッドなんだよね?」
ミク「…うん。」
ウタ「まあ、これで2回目だけど。」
BOARDの面々はルカを歓迎してはいない。ルカをBOARDに連れて来るのはこれで2回目になるが、BOARDの面々は未だにルカが敵だと思っている。
ルカ「…」
ルカは周囲の視線をあまり気にかけていない。記憶を失くしており、周囲に関心を持つどころではないからだ。それ故に以前よりニヒリズムを感じる。
ミク「あの、ルカ…さん?」
ルカ「何だ?」
ミクはルカに声をかける。ルカは不愛想に返事をして、ミクの方を向く。
ミク「どう?今の気分は。」
ルカ「別に何ともない。ここに来たくて来たわけじゃないからな。」
ミク「…」
ミクはルカに今の気分を問うが、ルカは素っ気ない。記憶喪失でも相変わらずだな、とツッコミたくなって拍子抜けた。そこで、ミクはある提案をする。
ミク「そうだ。全員で遊びに行かない?アンデッドの出現報告もないしさ。」
MEIKO「寝ボケたこと言わないの!前回アンデッドを逃したんでしょ?しかもカテゴリーQ(クイーン)を。」
MEIKOはミクの提案をあっさり却下する。
キヨテル「大体、アンデッドが現れたときに彼女が寝返ったらどうするんですか?」
ミク「それはないと思うけどなぁ…」
リン「どっから出るの?その確証。」
キヨテルとリンもミクの提案を否定する。だが、それでもミクは諦めない。
ミク「決めた。じゃあ私とルカさんで水族館に行ってくる。」
一同「はあ!?」
ミクの別の提案にBOARDの面々一同は声を揃えて否定的な疑問を投げつける。
ミク「大丈夫だって。この人はいきなり人を襲ったりしないよ。大体、記憶喪失なんだから。」
ウタ「いや、だからその確証はどっから出てくるの?」
MEIKO「ていうか、何でそんな楽観的なのよ?」
ミク「私の勘だけど、大丈夫だよ。嶋さんだってアンデッドだけど良い人だし。」
BOARDの面々が交代交代にミクの提案を否定するが、ミクは嶋を引き合いに出す。嶋は少しきょとんとした。
嶋「…ふふ、ミク君には敵わないな。まあ、私はどうしてもなら良いと思うが、キヨテル君はどう思う?」
嶋は冗談でミクを推す。そして、キヨテルにどうかと問う。
キヨテル「…分かりました。許可します。ただし、彼女の記憶が戻るまでです。ミク、当然責任はありますよ。」
キヨテルはミクとルカの外出を「責任」という言葉を付けて渋々許可した。
ミク「ありがとうございます!さ、行こう!」
ルカ「…」
ミクはルカの手をやや強引に引いて外へ出かけようとする。
ミクとルカはバイクを使って港の近くの水族館に来た。2人はそれぞれバイクを降りると、早速水族館に入ろうとする。だが、入る前にルカはミクに問う。
ルカ「…ミク。」
ミク「何?」
ルカ「何故私をここに連れてきた?」
ミク「知ってほしいから。何で人が他人を大事にするのか。」
ミクは迷いなく答える。ルカはさらに質問を続ける。
ルカ「そんなことをして、お前に何の得がある?」
ミク「得とかそんなのはいいの。ただ、私はこうしたいと思ったことをしてるだけ。今、私はあなたに人が他人を大事にするのか知ってもらいたい。それだけだよ。」
ルカ「…」
ミクはルカに人が他人を大事にすることを知ってもらいたいという一心で、ルカを外に連れ出した。ルカはそんなミクを不思議そうに見る。そして、2人は水族館の中へ入って行った。
水族館は大規模ながらも、平日のためか比較的客が少なく、閑散としていた。ミクはこれは好都合と思い、ゆっくり楽しんだ。巨大なジンベエザメやマンタ、マンボウ、イルカやアシカのショー、マイワシのトルネード、ナマコに直に触るポイント、海亀に餌をやるところ等、見所は十分だった。
ルカ「…」
ミク「ルカさん?」
ミクはルカに問う。ルカは水族館でのギャラリーに見惚れ、すっかり入り浸っていた。
ミク「ルカさん、どう?」
ルカ「ああ、いや、良いんじゃないか?こういうのも。」
ミク「良い?」
ルカ「いや、見ていたら、世界はこうなっているんだな、と思ってな。悪くない。」
ルカは水族館の見世物を通じて、世界の、生命の神秘や美について少し触れた気がしていた。その表情はミクが以前のルカからは見られなかった穏やかさが見えた。
ミク「でしょ?だから私も守りたいって思ったの。この世界を。世界に生きる人たちを。」
ルカ「…そうか。」
ミクはルカの言葉を聞いて尚更、世界を、人を守りたいと思えた。だが、そんな穏やかな状況に早速、暗雲が立ち込めてきた。2人が水族館を出て海の見える道路沿いを歩いていたところ、大型の海蛇が突然、海から飛び出てきてミクたちに襲いかかってきた。
ミク「うあっ!?」 ルカ「!?」
ミクとルカは肘で顔を防いでガードする。海蛇はミクたちから逸れたものの、1人の女性の元へ向かって行った。そこには、あずみが立っていた。
あずみ「はははは!呑気なヤツらだよ!水族館巡りとは!」
あずみは海蛇を拾って高笑いで2人を嘲笑する。
ミク「あなた、何でここに?」
あずみ「私は海蛇だからね。海は私の庭みたいなモンさ。」
あずみはそう言うと、早速サーペントアンデッドへと変化し、触手を伸ばしてミクとルカを捕らえる。
ミク「うっ!?」 ルカ「っ!?」
あずみ「さて、どっちから殺してやろうか?」
サーペントアンデッドは両手の爪をかざしてゆっくりと2人に近づく。ミクはこの隙にブレイバックルを取り出し、腰に装着する。
あずみ「…まずはやはりお前だな、ジョーカー。」
ミク「…させない!」
「TURN UP」
サーペントアンデッドはルカに爪を突き立てる。だが、ルカに目をやっていたせいでミクの行動を見落としていた。その隙が油断に繋がった。サーペントアンデッドはオリハルコンエレメントに弾かれ、2人の拘束を解いてしまう。そして、オリハルコンエレメントはそのままミクをブレイドへと変身させる。
ミク「ルカさん、逃げて!」
ルカ「…っ!」
ブレイドはルカに逃げるよう指示する。ルカは水族館の中に向かって走り出した。
あずみ「…逃がすか!」
サーペントアンデッドはルカを追うべく、再びルカに向かって触手を伸ばす。だが、触手はブレイドにブレイラウザーで弾かれてしまった。
ミク「させない!」
ブレイドはブレイラウザーを振るってサーペントアンデッドの進路を妨害する。
あずみ「…ふっ。」
ミク「うっ!?」
サーペントアンデッドはブレイドを鼻で嗤う。すると、ブレイドの死角から別のアンデッドが出てきた。トータスアンデッドだ。トータスアンデッドはブレイドに組み付き、殴りかかる。
あずみ「ブレイドは任せる。私はジョーカーを追う。」
サーペントアンデッドはトータスアンデッドにブレイドを足止めするよう指示すると、自分は水族館の中に逃げたルカを追う。
ミク「くそ…待て!」
ブレイドはルカを追うサーペントアンデッドを追おうとする。しかし、トータスアンデッドに組み付かれ、押し倒されたままでは追撃できない。そんなとき、トータスアンデッドは横から蹴り飛ばされた。蹴り飛ばした後には仮面ライダーギャレンが立っていた。
ミク「…姉さん?」
MEIKO「チーフの言う通り、こっちに来て正解だったわ。」
ギャレン=MEIKOはキヨテルの指示でミクたちの救援に来た。だが、事情を知らないブレイド=ミクはギャレンの救援に少し驚く。トータスアンデッドはそんな2人目掛けて突進してくる。
MEIKO「ここは任せて。ミクはカテゴリーQを追って!」
ミク「…分かった!」
ギャレンはトータスアンデッドを引き受け、ブレイドにサーペントアンデッドを追うよう指示する。ブレイドはこの提案を承諾し、サーペントアンデッドを追う。
ルカは広い水族館の中をでたらめに逃げ回っていた。そのため、サーペントアンデッドは追って来れない。と思っていた矢先、サーペントアンデッドはルカを見付け、彼女を捕らえようと迫ってくる。
あずみ「見つけたぞ!ジョーカー!」
ルカ「!?」
ルカは再び逃げる。サーペントアンデッドはルカ目掛けて触手を伸ばす。だが、触手を伸ばす前にブレイドがサーペントアンデッドに組み付いてきたため、サーペントアンデッドは押し倒されてしまう。
ミク「早く逃げて!」
ブレイドはサーペントアンデッドを押さえつつ、ルカに逃げるよう指示する。ルカは再び逃げていった。
ギャレンはギャレンラウザーを撃ち、トータスアンデッドを攻撃する。トータスアンデッドは体を岩のように硬化させ、銃撃を防ぐ。
MEIKO「硬い…」
ギャレンは攻めあぐねていた。だが、ある作戦を思いついた。敵が岩ならば、水が効くはずだ。ギャレンはそう考え、トータスアンデッドに接近し、トータスアンデッドの懐にギャレンラウザーを突き付けて連射する。トータスアンデッドは怯むものの、持前の怪力でギャレンを圧倒する。だが、ギャレンは踏ん張ってトータスアンデッドを海に押し出し、そのまま海に落とした。
ルカは逃げている途中で水族館から出た。そこには1人の少女が立っていた。歌愛ユキだ。
ユキ「あ、ルカお姉ちゃん!」
ルカ「…?」
ユキ「とう!」
ユキはルカを見つけると、手を振った後、ルカの元に駆け寄る。そして、ルカに飛びついた。その衝動がルカの頭の中にある記憶を逆走させてきた。
ルカ「!?」
ルカは記憶が巻き戻されてきた。ユキのこと、ミクのこと、アンデッドのこと、様々な情報が頭に浮かび上がってきた。そして、頭に浮かんだこと全てが繋がった。
ルカ「…ユキちゃん。」
ユキ「うん。」
ルカはユキを抱えて膝をつく。ルカの記憶は完全に戻った。同時に、やることが頭の中で見出された。
ルカ「ユキちゃん、ごめん。後でまた。」
ユキ「え?」
ルカはユキの頭を軽く撫でた後、その場から駆け出し、バイクを停めている方へ向かった。そして、バイクを走らせてアンデッドの気配がした方へ向かった。その途中、腰にはカリスバックルが出現した。
ルカ「変身!」
「CHANGE」
ルカは♥Aのカードをカリスラウザーにラウズし、仮面ライダーカリスへと変身する。同時に、バイクもシャドーチェイサーへと変形した。
水族館の外の港ではトータスアンデッドとギャレンが戦っていた。海に落とされたトータスアンデッドだが、自力で海から上がり、再びギャレンに襲いかかっていた。だが、やはり水が苦手なのか、その装甲は以前ほど強度を感じない。そのため、ギャレンの銃撃に押されていた。ギャレンはその攻め時を逃さず、ギャレンラウザーから♦5,6,9の3枚のカードを取り出し、ラウズする。
「DROP」
「FIRE」
「GEMINI」
「BURNING DIVIDE」
MEIKO「はあああああ!」
音声の後、ギャレンは高く跳び上がって空中で一回転して分身を作り出し、炎のエネルギーを纏った両足でドロップキックを繰り出す。トータスアンデッドは大ダメージを負い、その場に倒れ伏してアンデッドクレストを開いた。ギャレンはそこにブランクのラウズカードを投げ込み、トータスアンデッドを封印した。
ギャレンらが戦っていたエリアの反対側の港ではブレイドとサーペントアンデッドが戦っていた。ブレイドはブレイラウザーを振るってサーペントアンデッドに接近戦をしかけようとするが、サーペントアンデッドは触手を伸ばしてブレイドと距離を取って斬撃を受けないようにしていた。ブレイドは攻めあぐねて焦る。サーペントアンデッドはその隙を突いて触手を伸ばし、ブレイドの右腕を絡め取る。
ミク「っ!」
ブレイドは利き腕を取られた。サーペントアンデッドはこの機に一気に攻めようと試みる。だが、横からバイクのエンジン音がした。
「TORNADE」
風のエネルギーを纏ったシャドーチェイサーがサーペントアンデッドに突っ込んできた。サーペントアンデッドは回避行動が遅れ、シャドーチェイサーの突進を真横から受けてしまう。当然、ブレイドの右腕を絡め取っていた触手も放してしまった。
あずみ「ぐあっ!?」
サーペントアンデッドは大きくよろけて倒れた。
ミク「…ルカさん?」
ルカ「…」
あずみ「…カリス?…いや、ジョーカーか!」
驚くブレイドとサーペントアンデッドをよそに、カリスはベルトのカリスラウザーをカリスアローに装着し、♥4、5、6のカードを取り出し、ラウズする。
「FLOAT」
「DRILL」
「TORNADE」
「SPINNING DANCE」
音声の後、カリスは上空へと浮かび上がり、上空から風のエネルギーを纏って急降下し、ドリルキックを繰り出す。
あずみ「うあああああッ!!」
サーペントアンデッドはカリスのドリルキックで蹴り飛ばされて大ダメージを負い、アンデッドクレストを開いた。カリスはそこにブランクのラウズカードを投げ入れ、サーペントアンデッドを封印した。
ミク「…ルカさん…」
ルカ「…」
ブレイドはカリスに声をかけようとするが、カリスは無言でその場を去って行った。
その頃、BOARD宿舎では嶋とキヨテルがリンにカウンセリングを行っていた。
嶋「では、いいかい?リン君。」
リン「…」
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