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花屋の店休日。1週間に一度のゴロゴロ。
今朝は二人でゴロゴロ。
彼が痛む傷を手当てしてくれた。
2人で朝ごはんを食べ、私はお店の花々の管理のために一階に降りた。店休日といっても完全に休めないのがこの仕事の辛いところだ。冬は寒いし、夏場は花持ちが悪い。一通り終わると、店頭の傷んだ切り花をかき集めて二階へ上がった。彼がコーヒーを淹れて待っていた。
翔太 『その切り花どうするの?』
鈴花 『勿体無いから、部屋に飾ろうと思って・・・生け花してみる?』
こんな穏やかな休日、初めてかもしれない。
いつもの日常に、彼が1人入り込むだけで、こんなにも景色が違って見えるなんて。
自分の人生のパレットに色が足されたような幸せな朝だ。
自分の背負う傷も、何でもないことのように思わせてくれた彼は・・・そういえば彼の事何も知らない
鈴花 『ねぇいい加減、あなた仕事何してるの?』
翔太 『はぁ〜だから翔太!』
鈴花 『誤魔化さないでよ!何処のどちら様なのかも、知らないんだけど』
翔太 『それってそんなに大事な事?』
鈴花 『逆に何で頑なに言いたくないのか気になる。あっちょっとどこに刺してるのよ
これじゃどれがメインかわからないじゃない』
翔太 『えぇ〜みんなが主役だよ。どれが一番かなんて決められないよ』
鈴花 『フフっ・・・やさしいのね』
どこの誰だかわからない私が、彼のことを〝知りたい〟なんておかしな話だ。
翔太 『やばい、もうこんな時間。仕事行かなきゃ』
鈴花 『仕事はしてるのね?ニートかと思った』
本気で慌ててるみたい。私のことが目に入らないくらい珍しく焦ってて面白い。
翔太 『持ってていいよね?合鍵♡また来るね』
謎だらけの男が帰っていった。
休みだというのにお店のシャッターを忙しなく叩く音がする。住居入り口から顔を出すと、金物屋の村岡さんと健ちゃんが立っていた。
鈴花『おはようございます。今日休みなんだけど』
村岡『ちょっと大事な話があって、少しいいかな?』
アトリエに3人向かい合わせに腰掛ける。終始罰のわるそうに俯いている健ちゃんを、私は何事もなかったように迎え入れた。
鈴花『コーヒーどうぞ』
深刻な顔をする村岡さんを余所に立ち上るコーヒーの湯気を眺めては、自分のカップを口に運んだ。
村岡さんがポケットからクシャクシャになった紙を一枚テーブルの上に置いて真剣な顔で話し出した。以前健ちゃんが言っていた立退の話だ。どうやら、本当だったようで商店街を取り仕切る村岡さんの元へ訪れた役所の人が置いていった、住民説明会の案内文書だった。
村岡『こんなもの、到底受け入れられない』
健太『代々受け継いできたお店ばかりだ。ここじゃなきゃ意味がない。どんな条件出されても呑みたくない』
鈴花『まずは、説明会の話をきちんと聞きましょう。話はそれからでしょう?今は何一つ分かっていないのだから』
案内文に書かれている説明会は明後日だ。不穏な空気が流れるのを感じた。
私にとってもここは大切な場所だ。言いようのない不安が襲いかかる。