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くるみの良いところに当たるようわざと角度を調整して突き上げれば、くるみが「ひゃぁんっ、実篤さねあつさ、そこダメぇっ」と眉根を寄せて中にいるをキュウッと締め付けてくる。


突然の攻めに思わずあえいでしまって頬を上気させたくるみが、「旅なんてしちょらん、のにぃっ」と抗議の声を上げた。


それはそうなのだけれど――。


「けど、家とかじゃないけん、隣におる人なんて今夜限りの関係じゃろ? 気にすることないって思わん?」


基本ヘタレわんこの癖に、くるみが及び腰になると内側に隠れた狼が時々顔を出す。

実篤はベッドの上だと今みたいにSっ気を滲ませることがままあって。


困る!と頬を膨らませてみせたりもするけれど、くるみはそんな自分の豹変ぶりを、実は結構好いくれているように感じる実篤だった。



***



実篤さねあつさんの寝顔、ホンマいつ見ても可愛い過ぎて困るんやれんのんじゃけど)


目が開いていると、キリリとした――ともすると睨まれているような印象さえ受ける実篤の三白眼だが、今みたいに目を閉じているとひたすらに優しい印象しかない。

くるみは実篤の鋭い目つきもたまらなく好きだけれど、今みたいに無防備な寝顔の柔らかな印象もまた、ギャップ萌えで凄く愛しいと思う。


あばたもえくぼと言うことわざがあるが、それは何も愛らしい相手に対してのみ発動する感情ではないらしい。

好きになった相手ならば、それが例え多くの他者ひとにとって強面顔こわもてがおの年上アラサー男だろうが、関係ないみたいだ。


(朝目が覚めた時、大好きな人がすぐ傍にってくれるん、何て幸せなんじゃろぉ……)



自分が実篤の家へ泊まりに行ったり、逆に彼がくるみの家まで泊まりに来てくれたりするたび、くるみはいつもそんな事を思う。


基本的に早起きの習慣が身体に染み付いているくるみは、休日だってお寝坊さんではない。

目覚ましを掛けていなくても三時過ぎに自然と目が覚めてしまうのは、ある種の職業病だろうか。


それでもほいじゃけど――)


実篤さねあつと一緒にいると、どうしてもいつもより夜更かしをしてしまうから、常のように目が開くと同時にシャキッと活動開始!とはいかなくて。


ふと見上げた先、枕元のデジタル時計はいつもの起床時刻の三時過ぎを四時間以上オーバーして七時半を回っていた。


にも関わらず、未だとろとろとした微睡まどろみの中、愛しい恋人の温もりを感じながらもうちょっとこのまま……とか思ってしまう理由は明白だ。


一糸まとわぬ姿で布団の中。

情事の痕跡が色濃く残るキスマークだらけの胸元を見下ろして、くるみは抜け切らない疲れの原因に思いをはせて一人赤面する。


きっと目の前で幸せそうな寝息を立てている実篤も、くるみと似たような気怠さを抱えて目覚めるだろう。


毎日会えるわけじゃないからか。


どうもそういう艶めかしい事になってしまうと、つい夜通し求め合ってしまい――。寝落ちする頃には空が白んでいるなんて事もざらなのだ。


そういう時は、さすがにいつもの起床時間にから、今みたいに七時過ぎまで目覚めなかったりして。


今日は違うけれど、ぴったりと密着した下腹部に実篤のものを受け入れたまま寝落ちしている事もままあるのを思い出したくるみは、一人その時の感触を思い出してより一層照れてしまう。



実は先程から下肢の辺りに実篤の張りつめた熱を感じる気がするのだけれど、これは男性としての朝の生理現象だろうか、それとも……?


(実篤さん、ヘタレわんこの癖に絶倫じゃけ……)


それが嫌じゃない――というよりむしろ嬉しく感じてしまう時点で、自分も相当エッチな子なのかも知れない。



(鬼塚くんと付き合いよった頃はそういうことするん、絶対に無理じゃって思いよったんに)


鬼塚とは、キスすることすら躊躇ためらわれたのを覚えている。


それは、決して〝まだ子供だったから〟とか〝学生だったから〟という理由ではなかったんだと、今ならハッキリ分かる。


鬼塚からはくるみのことを大事にしたいという気持ちが微塵も伝わってこなかったから。

彼が自分を求めてくるのは、すべてのためというのをくるみは本能的に察知していたんだと思う。


きっと鬼塚がくるみに告白してきたのだって、くるみのことを好きになってくれたからじゃない。


(あの人にとってのうちは、きっと大会とかでもらえる賞品と同じじゃったんよ)


一緒にいても鬼塚から愛されていると感じたことは一度もなかったくるみだ。


恋愛初心者で、右も左も分からなかった頃に付き合った、生まれて初めての彼氏だったから、グイグイと引っ張られるままに付き従ってしまっていたけれど。


いつも鬼塚から差し伸べられる手や、投げ掛けられる言葉、見つめられる視線にくるみは心の片隅、言いようのない違和感を覚えていた。


男性から告白されたことはそれまでにだって何度もあったくるみだったけれど、ではどうしたいのか、まで伝えられたことはなくて。


くるみ自身は余り自覚していなかったけれど、幼い頃からかなりモテモテだったくるみは、想いを伝えられたらそれだけで満足という〝玉砕覚悟〟の告白ばかりを受けてきた高嶺たかねの花子ちゃんだ。


自己完結のためか、で、それ以上は考えること自体恐れ多くて踏み込めなかった男たちばかりに想いを伝えられてきた経歴の持ち主。



そんな中、鬼塚は「好きだ」の後に、だから「彼女になって欲しい」まで告げてきた初めての異性だった。


それは自分のことが大好きな鬼塚が、くるみのことを本当は好きじゃないくせに〝モテる女を落とした〟と言う優越感を得るためだけに告白してきたから出来たことだったのだけれど。

経験値の浅いくるみは、そのことを見抜けないままに彼の申し出を受け入れてしまった。


鬼塚にとってくるみは自分を飾り立てるための存在に過ぎなくて、周囲に一目置かせるためのステータスの一部だったんだと、今なら分かる。


あの当時、そういうのには気付けなかったくるみだけれど、本能的な部分で〝何かが違う〟というのは常に感じていた。


だからキスだってされるのが何となく嫌だったし、その先を求められたときにはとうとう我慢出来なくなって逃げ出してしまったのだ。


鬼塚にとってそれは相当に屈辱的な事で、何としてもリベンジして……皆の前で「くるみあの女も結局は俺のモンにしてやった」と宣言せねばならないと執着してしまうほどの出来事だったらしい。


けれど、くるみにしてみれば迷惑極まりない話だ。



実篤さねあつさんはうちのこと好いてくれちょるんも、大事にしてくれちょるんも全部全部駄々洩れじゃけぇ)


ヘタレワンコのくせにそこは持ち前の誠実さゆえだろうか。

でくるみに告白してくれた実篤は、他の男性たちと違って〝好きだから付き合いたい〟まで伝えてくれた唯一の男だ。


そんな実篤相手だったから、自分も心の底から彼のことを好きになれたし、実篤にはキスだけじゃなく……その先だってして欲しいと自然に思えて。


実篤はくるみにとって生まれて初めての彼氏ではなかったけれど、愛し愛されることの喜びを家族以外でくるみに教えてくれた初めての男性ひとだった。


(ねぇ実篤さん。うちが実篤さんのことを好きな気持ちも、たくさんたくさん溢れて……ちゃんと貴方に伝わっちょりますか?)


一緒にいるだけで胸がキューッと苦しくて切なくなるこのどうしようもない感情は、実篤がギュッと抱きしめてくれた時にだけ、ふんわりと温かくて幸せな気持ちに変換される。


(実篤さんもうちと同じなら良いええな)


そう思ったら無意識。

くるみはスリスリと実篤のむき出しの胸元に頬を摺り寄せてしまっていた。

社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味!?

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