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明彦は夜遅く、自身の送迎会からやっと帰宅し、電気をつけた。
「ただいま、麗? どうしたんだ?」
麗が一人、ソファの上で座っている。
明彦が帰宅してくるのを健気に待ってくれていたにしては、部屋は真っ暗だった。
まるでずっと何かを考えていたかのように。
「あ、……ああ、ごめんなさい」
しばらくしてから気づいた様子の麗が明彦に気づいたようでソファから立ち上がった。
「なにかあったか? 麗音に何か言われたか?」
麗は結婚前に明彦がお下がりだと言ってあげたスマホを使っている。
そのスマホは麗の情報を探るために渡したスパイウェア入りで、GPSも入れてある。
昼休みにチェックしたが、今日は、母親の墓参りに行っただけのはずだ。
「ううん、姉さんとは一切、連絡とってないから。ごめんなさい、疲れていたみたい。お風呂の用意してくるね」
「麗」
脇をすり抜けようとしたので捕まえ、ぎゅっと抱きしめる。
「本当に何があったんだ? 困ったことがあるなら全部言ってくれ。俺が解決する。麗のことは俺が幸せにするから。愛してる」
(だから、もっと俺に依存してほしい)
「うん、知ってるよ。 わかっている、理解しているよ、明彦さんに大切にされているのは」
麗は微笑んでいるが、無性にイライラしているように見えた。
何か間違えてしまっただろうか。
明彦が考えていると、麗が呟いた。
まるで、言うつもりのなかった本音がこぼれたかのように。
麗は穏やかに微笑んでいた。
「明彦さんが愛してるのは、愛人の娘で、頼りの姉において行かれている、寄る辺がない、明彦さんに幸せにしてもらうしかない可哀相な女の子だもんね。だから私を愛しているんでしょう?」
考えたこともない言葉の連続に、優秀なはずの明彦は理解しきれず、聞き返した。
「麗、なにを馬鹿なことを言ってるんだ?」
首を小さく振りながら、明彦は麗をのぞき込み、優しく頭を撫でようとしたが避けられた。
「麗?」
「馬鹿なことかな? だって社長の仕事、全部やってくれて、私の責任を全て肩代わりしてくれたでしょう? それに、私が立てた企画のために裏から手を回してくれたじゃない。会社も立て直してくれたし、姉さんへの私の一方的な執着も断ち切らせてくれた。おかげて私は母さんと一緒で男に縋らないと生きられない女なんだってよくわかったよ」
「麗、俺はそんなつもりじゃ……ただ守りたかっただけで」
嘘だ。 頼られたかったからだ。
明彦がいないと駄目なのだと思い知らせたかった。
「私は、姉さんに尽くすあの生活が幸せだったの。姉さんに尽くして尽くして尽くして、たまにアキ兄ちゃんと遊んで、また姉さんに尽くす。それが私の幸せだったのに。どうして私に姉さんに愛されていないことを気づかせたの? どうしてあの生活を奪ったの? 見ないふりをしていたら私は幸せだったのに」
そうだ、全部全部、明彦が奪った。
そうしなければ、麗音から奪えなかったから、麗を不幸にした。
それが己の幸福に繋がるから。
「明彦さんなんか、嫌い」
麗が決定的な一言を言った。