「は~い」
もみじちゃんが返事をした。自然に可愛らしくできるのがうらやましい。
「今日は何だろね?」
「う、うん」
私達はキッチンに降りて、テーブルについた。
1階はリビングとキッチン、おじさんとおばさんの部屋がある。お風呂とトイレはリフォームしたばかりで、まだ真新しい。
「美味しそう~。今日はコロッケなんだぁ」
「もみじ、好きでしょ? たくさん食べなさいよ」
エプロン姿のおばさんは、あまり見た目を気にしないタイプなのか、短髪で化粧はせず、体重もかなり重そうだ。私がここに来た時から同じで、何も変わらない。
「あれ? お母さん、双葉ちゃんのコロッケ少なくない? 私が3個で……双葉ちゃんは2個しかないけど」
確かに私のお皿の上にはキャベツとトマトが雑に盛られ、その横に申し訳なさ程度に小さいコロッケが2個置かれていた。
「いいんだよ。双葉は少しダイエットしなきゃ」
「……私はこれで十分です。ありがとうございます」
本当にこれでいい。
申し訳ないけど、おばさんの料理に心の底から「美味しい」と思えたことは1度もない。
子ども心にわかってたんだ、料理には作る人の愛情や優しさがこもるんだって。
「お母さん、それじゃあ可哀想だよ。双葉ちゃん、私のを分けてあげるね」
「ダメ、双葉にはこれでいいんだよ。生活費だって安くしてあげてるんだから。もみじ、もっと食べたいなら揚げるから言ってちょうだい」
「これ以上食べたら食べ過ぎで太っちゃうよ~」
「もみじはスリムなんだからしっかり食べなきゃ。お父さん、いつまで新聞読んでるの! 早く食べてよ」
笑顔の絶えない団欒――
そんなものにずっと憧れていた。
だけど、今ではもう両親の笑顔も、どんどん記憶が薄れていって。小さな頃から当たり前の幸せを感じることがなかった私は、もう二度と家族との「笑顔の絶えない団欒」なんて持てないと思ってる。
「今日はじゃがいもがいつもより高かったのよ。ほんと、嫌になる。どこまで物価を上げれば気が済むのかしらね。お父さんの給料じゃやってらんないわ、全く」
おばさんは思い付く限りの文句を言ってガサツに笑う。時々、この人は自分が女性であることを忘れてしまったのか──と思うことがある。
反対に、おじさんはとても寡黙で、いちいち反論せずに黙ってる。
見た目もおばさんとは対照的で、細身で小柄。白髪混じりの髪のせいで年齢よりずいぶん老けて見える。
私は、勢力図がハッキリとしているこの家で、子どもの頃から上手く笑えずにいた。だけど、もみじちゃんがいつも味方でいてくれたから、何とか平静を装えた。
「双葉ちゃん、コロッケ美味しいよね~」
「う、うん」
「あっ、そうだ。今度一緒に映画観にいこうよ。私ね、観たいのがあるんだ~」
「ダメダメ。双葉は映画なんか観てる場合じゃないよ。しっかり働いて、今月分の生活費、ちゃんと払ってもらわなきゃ」
おばさんは、大きな手で茶碗を持ち、白米を口に大量に運びながら私をにらんだ。
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