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慎太郎は警視庁の建物を見上げた。
この建物の特別な圧にも慣れないとな、と思いながら左胸を軽く拳でたたく。
そこには、まだ新しい「S1S mpd」と文字のある緋色のバッジ——警視庁・捜査一課の刑事のみに与えられる紋章が誇らしげにスーツを飾っている。
よし、と小さい掛け声とともに玄関をくぐるのと同時に、懐のスマホが震えた。
画面を見ると、そこには『京本主任』とあった。
一つ咳払いをしてから電話に出る。
「はい、森本です」
『着いたらすぐ第一会議室に来い』
いきなりそう言った。
「あっ、今着いたところですけど…どうしてですか」
『捜査会議。みんな来るから』
それだけ伝えると、一方的に切られる。
「はぁ…」
刑事という仕事は、事件の捜査が始まるとモーニングコーヒーを飲む時間すらないようだ。
なら来る前に飲めばいいんだ、と慎太郎はどこか他人事のように思う。マップで会議室を探し、駆け足で向かった。
捜査本部には、続々と人が集まりはじめていた。その刑事たちの堅苦しい雰囲気に圧倒されながらも、大我のもとへ向かう。挨拶をして、隣に座った。
「あの、僕らって何か発表することありますか…?」
慎太郎は恐る恐る訊いた。
「いや、特にない。機捜とかがまずやってくれるから」
ほかの班のメンバーも来て、最後に係長が入ってくると捜査会議が始まる。
大我が言った通り、機動捜査隊や鑑識課、解剖の結果報告があった。現場の状況や死亡推定時刻が一通り発表される。
そして、この事件は正式に京本班が担当することに決まった。
「これから俺らも動いていけば、こっちからも報告する」と大我がそっと耳打ちする。
「たぶん、鑑取りやることになると思うから」
高地も反対の隣からささやいた。
「鑑取り…?」
「聞き込みのこと」
ああ、とうなずいた。そして手元のメモ帳に書き込む。勉強しないとな、と慎太郎は思った。
そして会議が終わると、樹が大我に声を掛ける。
「主任、俺と北斗で遺族に会って話を聞きます。これからここに来るそうです」
わかった、とうなずく。
「じゃあ…森本と高地、現場マンションで聞き込みよろしく」
そう言って踵を返そうとするのを、「主任はどちらへ?」とジェシーが止める。
「第一発見者のとこ。ジェシーも来る?」
はい、と答えて2人で出て行った。
北斗と樹が何やら話しながら部屋を後にする。
「よし、現場行こう」
高地が慎太郎の肩をたたいて歩き出し、その後を追う。
捜査車両に乗り込むと、
「僕は何をすれば?」
慎太郎は高地に尋ねた。
「まずはお手本として、俺が主体で聞き込みはする。森本くんは記録よろしくね」
はいっ、と気合を入れて返事をする。それに高地は微笑んだ。
「いいね。白バイよりきっとこっちのほうが似合ってるよ」
「でも今でも憧れてるんですけどね…」
俺も、と高地は言った。
「じゃあ行くか」
アクセルを踏み込むと、使い古されたエンジン音が響いた。
続く