ジェシーがインターホンを押すと、
「警視庁の者です」と大我が言った。
2人は事件の第一発見者の話を聞くために、被害者の会社に来たのだ。麻宮は最初に秘書に発見されていた。
しばらくして来客用玄関から男性が出てきたが、それは目的の人物ではなかった。
「秘書の佐々木は応接室にいます。ご案内しますね」
男性についていくと、とある部屋の前についた。中には一人の女性が座っていた。
「失礼します。警視庁の京本です」
大我は内ポケットから警察手帳を出して示す。ジェシーも、FBIのものを見せた。
女性も立ち上がり、名刺を差し出してくる。その表情は、あからさまに2人の刑事に怯えていた。
名刺には「アサミヤグループ 秘書兼運転手 佐々木玲奈」とある。それを一瞥して、大我は応接セットの椅子に腰掛けた。
「所轄の者にも訊かれたと思いますが、もう一度発見時のことを教えていただけますか。お手数おかけします」
佐々木は小さな口を開き、話し始めた。
「普段は、朝8時くらいにご自宅にお迎えにあがるんです。でもその日は、チャイムを何度押しても応答がなくて。電話にも出られませんでした。秘書ということで特別に貸し出されている合鍵で中に入ると、もう社長は…」
佐々木はうつむいた。
「そうですか。では次に麻宮さんのことをお訊きしたいのですが、どんな方でしたか。ご遺族との関係とか」
昨日の捜査会議で、被害者の遺族のことについても報告があった。
被害者の社長の妻は3年前に病気で亡くなっていて、その後は独り暮らしだった。息子は「アサミヤグループ」の一社員として働いている。いずれ、というか社長不在の今、じきにトップになるだろう。息子のほうは、近くで一人暮らしをしているそうだ。
「社長は、英語も堪能でとても博識な方でした。貿易相手の会社の方々とも親しい交流があったそうで。若いころは、外交官になりたかったとおっしゃっていました。奥さんも大事にされていて……私もよくご自宅でお会いしていました。優しくて物腰が柔らかく、とても素敵な方でしたよ」
そうですか、とまた相槌をうつ。そして大我は、ジェシーに視線を送った。今度はジェシーが口を開く。
「これは捜査関係者全員にお尋ねしていることですので、お気を悪くしないでください。あなたは9月10日の午後6時から8時頃、どこで何をしていましたか」
それが麻宮の死亡推定時刻だった。
「ちょうど社長をご自宅にお送りしたところです。7時くらいに着いたと思います。それから、会社に戻りました」
大我はうなずく。腰を浮かしかけたが、
「最後に一つ。社長のご自宅の合鍵を持っているのはどなたですか?」
秘書は間を置かずに答える。
「私と、一人息子の圭一さんだけです」
2人はさっと目線を交わす。
「捜査へのご協力ありがとうございました」
そして、アサミヤグループ本社を辞去した。
「主任はクロだと思います?」
捜査車両に乗り込むと、ジェシーが尋ねる。
「今のとこ、グレーだね。何てったって側近だから、油断は大敵だ。しかも犯行時刻に被害者と一緒にいたと言っている」
「そうですね」
「じゃあ…ほかの関係者にでも話聞きに行くか。動機探しに」
いくらか面倒くさそうな声で、大我はギアを切り替えた。
続く
Happy Birthday Shintaro!!!!!!
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