テラーノベル
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それからも、二人は少しずつ一緒にいる時間を増やしていった。
特別なことをするわけではない。
練習の話をする。
何気ない出来事を話す。
ときには、どちらかが疲れていて、ほとんど会話がない日もある。
それでも、隣にいることが自然になっていた。
達宣は、祐希を見つけるとつい近くに行く。
祐希が誰かと話していたら、少し離れたところで待つ。
話が終われば、何事もなかったように声をかける。
自分では、それが特別なことだとは思っていなかった。
ただ、祐希と話すのが好きだった。
祐希も、そんな達宣を当たり前のように受け入れていた。
近くに来れば場所を空ける。
話したそうにしていれば、自然に話題を続ける。
疲れているようなら、無理に話さず一緒に休む。
達宣が居心地よさそうにしていることが、祐希には何よりうれしかった。
――けれど。
ある日の練習後。
いつものように二人で話していると、達宣が時計を見た。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
「うん」
そう答えたものの、祐希はすぐに立ち上がれなかった。
達宣が立ち上がる。
その姿を見て、胸の奥が静かに沈んだ。
また明日、話せる。
わかっている。
明日になれば、きっと達宣はいつものように笑ってくれる。
それでも、今、帰ってほしくなかった。
「……大塚」
「はい?」
呼び止めた声は、自分でも驚くほど自然だった。
達宣が振り返る。
祐希は少しだけ迷ってから、口を開いた。
「もう少し、一緒にいてもいい?」
達宣は、きょとんとした。
「……え?」
「時間、大丈夫なら」
いつもと変わらない落ち着いた声。
けれど、祐希の中では心臓がうるさいくらいに鳴っていた。
何を言っているんだろう。
これでは、まるで。
――いや。
まるで、ではない。
本当に、もう少し一緒にいたかったのだ。
達宣は数秒黙ってから、ふっと笑った。
「……いいですよ?」
「うん」
「俺も、まだ話したかったし」
その言葉に、祐希は一瞬、返事を忘れた。
達宣は気づかず、また隣に座る。
「で、さっきの話なんですけど!」
いつも通りの声で、続きを話し始めた。
祐希はそれを聞きながら、ゆっくり息を吐いた。
うれしい。
どうしようもなく、うれしかった。
けれど、達宣が言った「まだ話したかった」が、自分と同じ意味なのかはわからない。
自分は、達宣と一緒にいたい。
話したい。
笑っていてほしい。
できるなら、誰よりも近くにいたい。
そんな気持ちを、達宣はまだ知らない。
知らないままで、こんなにも自然に隣にいてくれる。
そのことが幸せで、同時に苦しかった。
「祐希さん? 聞いてます?」
「聞いてるよ」
「ほんとですか? 絶対聞いてなかったでしょ!」
「聞いてたって」
「じゃあ、何の話でした?」
「……」
「ほらぁ!」
達宣が笑う。
祐希も、つられて笑った。
こんな時間が、ずっと続けばいい。
でも、もう少し一緒にいたいだけでは、足りなくなってしまった。
自分の気持ちを隠したまま、達宣の隣にいることが。
少しずつ、苦しくなっていた。
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