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過去編 ―「その憎しみは愛の対極にあった」
【魔界側・赤の過去
「……俺の親は、天使に焼かれて死んだ…?」
ぽつりと、赤がそう呟いたのは、まだ10歳にもならない頃だった。
故郷の村は、天界の“浄化作戦”と称された殲滅行動で、跡形もなく消えた。
赤の目の前で、母の羽が焼け、父の腕が切り落とされた。
「お前たちは、“穢れ”だ。世界のために消えろ」
天使はそう言い残して、静かに笑っていた。
その姿を、赤は忘れられなかった。
――天使は、感情のない殺戮者。
白くて綺麗で、冷たい刃を持つ怪物。
「絶対に、許さねぇ」
憎しみは骨に染みつき、怒りは血に溶けた。
黒が剣を握らせてくれたのも、この頃だった。
「お前の剣は、お前の過去を生き延びさせるもんや。切れ。全部、切れ」
赤はそうして育った。
愛ではなく、復讐によって命を燃やすようにして――
【天界側・水の過去】
「水、君のお母様の魂、回収してきたよ。思ったより綺麗だった」
水がまだ幼かった頃、天界の清浄部隊の長が、微笑みながら“母の魂の結晶”を差し出した。
「……なぜ、殺したんですか」
「堕ちかけてた。人間に近づきすぎた。
そんな天使は、腐る前に処分するのが天界の掟だよ」
淡々と語られたその言葉に、水は何も言えなかった。
周囲にいた大人たちは、“当然の処理”として頷いていた。
――天使に情は不要。
理性と秩序、それだけが“天”を維持する。
だが、夜になると、母の声が耳に響いた。
「……ごめんね、水。人を、愛してしまったの」
それを知った瞬間、水は初めて涙を流した。
「愛しちゃ、いけなかったの?」
「愛すると……天使じゃなくなるのよ」
だから水は感情を閉じた。
愛を捨て、命令に従い、戦場で“悪魔”を殺す機械になった。
「悪魔は、堕ちた者。理性のない、狂気の塊。
存在するだけで、世界を汚す」
そう教えられ、信じていた。
そうすることで、自分を保っていた――