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〜月下に咲く、君の声〜
中日
夜、官舎の一室にぼんやりとした灯りがともる
月光が障子に影を落とし、部屋は静けさに支配されていた
日本は、膝を揃えて座っていた
凛とした姿勢の裏に、張り詰めた緊張が見える
「……また、来たんですね」
そう呟く日本の声は低く、乾いていた
それに返したのは、襖の奥からの足音
「当たり前アルよ、日本」
「君が“待っている”の、分かってるアル」
姿を現した中国は、白い長衣に身を包みながら、緩やかな笑みを浮かべていた
昼間の外交官としての仮面はすでに外されている
「あなたが勝手に、そう思ってるだけでしょう」
「フフ……言葉と身体が違うアルね」
「そんなに背筋を伸ばして……けど、目が潤んでるアル」
日本の肩に、すっと手が置かれる
その手は決して乱暴ではない
けれど、すべてを奪い取るような、そんな圧を孕んでいた
「……これも国のためですか」
「その言い訳、使うのはもうやめたほうがいいアル」
「君が“嫌”と言わない限り、俺はやめないアル」
そう言って、中国の指が日本の頬を撫でた
「逃げてもいいアル。けど、どうせ君は逃げないアル」
「そういう顔をしてるアルよ」
帯に手がかかり、ゆっくりと緩められていく
日本の背がわずかに震えた
「……冗談で済むなら、楽だったんですけど」
「これは全部、本気アル」
「俺は君の声が聞きたいアル……あの、震える小さな声が」
唇が、耳に触れた
熱と吐息が混ざり、日本は小さく息を呑んだ
「今夜も、君の声を咲かせに来たアルよ」