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「そうだ。ケーキを買って来たんだ」
窓の外を見ていた聖夜さんは、こちらを振り向くとそう言った。
「今日はクリスマスイブだからね」
聖夜さんはそう言って、部屋を出てキッチンに行った。
しばらくしてキッチンから戻ってきた聖夜さん。
手にはケーキの乗ったお皿を持っていた。
「この部屋の中だけでもクリスマスの雰囲気を楽しもう?」
聖夜さんはケーキの乗ったお皿をテーブルに置いた。
イチゴが乗ったショートケーキ。
その上に“Merry Xmas”と書かれたチョコのプレートが乗っていた。
「雪乃?こっちにおいで?一緒にケーキ食べよ?」
聖夜さんは私にそう言ってニッコリ微笑んだ。
聖夜さんと向かい合わせに座る。
聖夜さんはケーキを食べながらパソコンを触っていた。
私はケーキを食べる気にもなれない。
これが、もしクリスマスを一緒に過ごすカップルの関係なら、私は喜んで彼の買って来たケーキを食べるだろう。
でも私は拉致された身で、聖夜さんは私を拉致した人。
私は殺人を目撃した被害者で、聖夜さんは人を殺めた殺人犯。
「ケーキ、嫌いだった?」
なかなか手をつけない私に聖夜はそう聞いてきた。
嫌いじゃない。
寧ろ、ケーキは大好きだ。
私は首を左右に振った。
「じゃあ、食べて?」
聖夜さんはそう言ってニッコリ笑う。
ケーキに目を落とす。
フォークに手を伸ばすけど、手が震えて上手く掴めない。
「どうしたの?手が震えてる……」
「ゴ、ゴメン、なさい……」
「何で謝るの?」
「わからない……」
私は首を左右に振った。
なぜ手が震えるのか、自分でもわからなかった。
「毒なんて入ってないから安心して?」
聖夜さんはそう言って、私の前に置かれたケーキのクリームをフォークで掬い口に入れた。
「ほらね、大丈夫でしょ?」
そう言ってクスリと笑う聖夜さん。
私は震える手でケーキを一口大に切って口に入れた。
味なんてわからない。
ただ、咀嚼して喉を通っていくだけ。
「雪乃?大変なことになったよ」
「えっ?」
顔を上げて聖夜さんを見る。
大変な、こと?
もしかして、公園での事件の犯人が捕まったとか?
いや、でも犯人は目の前にいるわけで……。
それに、もし犯人が捕まったとしたら、大変なこととは言わない。
だって聖夜さんにとっては犯人が捕まることは嬉しいはずだから。
「キミのこと、警察が公開捜査に踏み切ったみたいだよ」
「えっ?」
公開捜査?
それって、全国に私の顔が知れるってことだよね?
「参ったな、恐れていたことが現実になっちゃったね」
聖夜さんはそう言って、クスッと笑うとケーキを頬張った。
「見る?」
「えっ?」
聖夜さんはパソコンを私の方に向けた。
ネットニュースの記事が載ってる。
【行方不明の女子高生。公開捜査へ】
そう大きく書かれた文字。
うそ……。
記事を読んでいく。
しっかりと私の名前も年齢も出ていて、顔写真まで……。
「凄いね。雪乃は有名人だね」
聖夜さんはそう言って再び笑った。
どうして笑ってられるの?
どうして余裕でいられるの?
私は画面をスクロールして、記事の最後を見た。
それを見た時、胸がドクンと跳ねた。
ーー公園での女性殺傷事件との関連性があるのか、調べを進めている。
そう書いてあった。
公園での事件と私が行方不明になった日が同じで、お父さんかお母さんのどちらかが警察にその日の足取りを話したんだろう。
公園で起こった殺人事件。
それとほぼ同時刻に行方不明になった私。
もし、警察に犯人が私だと疑われたら……。
どうしよう……。
怖い……。
私は人なんか殺してない。
ガタガタと震える体。
ポロポロと流れ落ちる涙。
「雪乃?どうしたの?」
聖夜さんが心配そうな顔で私を見てる。
首を左右に振り、何も言えない私。
聖夜さんはパソコンの電源を切り、立ち上がる。
「雪乃?」
私の名前を呼び、私に近付いてきた。
私の前にしゃがむ聖夜さん。
「雪乃?」
俯き、ガタガタ震えていた私の名前を呼んだ。
「どうしたの?何で、そんなに震えてるの?」
聖夜さんはそう言うと、私の体をギュッと優しく抱きしめた……。
「い、いや!」
聖夜さんの体を押し退けようとすると、更に腕に力を入れて私の体をギュッと抱きしめる聖夜さん。
涙をポロポロ流し、恐怖でガタガタ体が震えている私を落ち着かせるように……。
「雪乃?大丈夫、落ち着いて?何も怖くないよ……」
聖夜さんの低い声が私の耳に届く。
恐怖に包まれた私の体。
なのに、こんな時でも私の胸はドキドキと煩く鳴っていた。
聖夜さんにも、このドキドキが伝わるってるんじゃないかと思うくらい、激しく痛いくらいにドキドキしていた。
聖夜さんは私の体を離した。
「雪乃?泣かないで?」
聖夜さんはそう言って、私の頬にそっと触れた。
ビクンと肩が揺れる。
「ねぇ、雪乃?大丈夫だよ……僕が……」
聖夜さんが何かを言いかけた時……。
ーーピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
聖夜さんは、さっきまでの穏やかな顔とは違い、鋭い目で玄関を見る。
ナイフのように冷たく鋭い目。
その目を見た時、私の背中はゾクリと震えた。
「こんな時間に誰だろうね……」
私にそう言った聖夜さんの顔は、いつものように穏やかな顔に戻っていた。
「はい!」
聖夜さんが部屋の中から玄関に向かって声を出す。
「アキ?私!開けて!」
レイナさんだ。
どうして?レイナさんが?
だって今日は稼ぎ時で来ないはずじゃ……。
…………まさか、私の公開捜査を知ってしまったとか?
嘘がバレてしまう。
「聖夜、さん……」
「面倒なのが来たね。公開捜査のこと知っちゃったかな?」
聖夜さんはそう言ってクスッと笑った。
「アキ?いるんでしょ?」
なかなか玄関を開けないからなのか、少しイライラした口調になってるレイナさん。
「チッ!」
舌打ちした聖夜さんは、玄関をキッと睨んだけど、またすぐにいつもの顔に戻り私を見た。
「大丈夫。雪乃は何も心配いらない。僕に任せてくれたらいいからね。でも余計なことは話しちゃダメだよ?」
聖夜さんはそう言って私の頭を撫でると、その場に立ち上がる。
「今、開けるから待って!」
そう言いながら玄関に向かって、ゆっくり歩き出した。