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休日の昼下がり。
彼女は人混みの中、坪井の姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。
陽の光と合わさって、輝く表情からは。溢れ出さんばかりの好意を感じ取れる。
「珍しいね〜。 涼太から呼び出してくれるなんて」
息を弾ませ、隣に立ったのは咲山夏美だ。
半年ほど付き合い、その後もだらだらと関係が続いていた。
(なんだろ、どんな関係って聞かれたらセフレが一番しっくりくるのかな)
そんな意味では”特別”に、なるのだろうか。
考えながら咲山を見ると、やはり楽しそうに笑顔を見せる。
申し訳なさばかりが、身勝手な心を支配した。
「ごめんな、急に呼び出して」
真衣香と関わらないように数日を過ごし、その週末。坪井は咲山を自宅近く、駅前のカフェに呼び出していた。
「別にいーよ。 涼太とお昼から会うの初めてだね? いつも夜じゃん」
当たり前のように咲山が腕を絡めて隣に並ぶ。
その手をやんわりと引き離すと「どしたの?」と不思議そうな声がした。
「ちょっと話せる?」
改札を出てすぐにあるカフェを指すと、怪訝な顔を見せた。
「いいけど、なんでわざわざ? 涼太の家がいい」
「ごめんな。先にここで話したい」
数秒だろうか。
見つめ合う……という表現よりも睨み合うと言ったほうが正しいかもしれない。
そんな視線を交わし合った後、咲山は大きく息を吐いて「……わかった」と短く答えた。
店内に入り「お好きな席にどうぞ」と店員が言い終わるよりも前に、咲山はズカズカと進み1番奥の席に座る。
ソファー側に不機嫌そうに脚を組んで座る咲山を前に、坪井はイスを引き、向かい合って席に着いた。
……が、全く目が合わない。
二人掛けのテーブルで会話なく座っていると、店員が水を持ってやって来た。
「俺ホットにするけど夏美は? なんか食べる?」
「いらない。 カフェオレ」
何か勘付いているのだろう、苛立ちを隠さない声で坪井に応えた。
オーダーを復唱し店員が去ったのを目で追って確認した後、咲山は早口で坪井に言う。
「別に、わかってるし。 こんな時間にしかも涼太から呼び出されたんだもん。 いい話じゃないんでしょ」
腕を組み、下から睨みつけるように坪井を見る。
「早く言ってよ」
「……うん、夏美とこうやって二人で会うの最後にしたい」
放った言葉に一瞬、咲山は目を見開いたが。すぐに伏し目がちになって横を向いた。
「……はぁ、そんなことだろうなって思ったけど。 だったら何でわざわざ涼太の家の近くに呼び出すわけ?」
「……荷物さ、色んな女のあるんだけど。 一番多いのも誰のものか判別つくのも夏美のだけだったから」
坪井の言葉に頬杖をついていた咲山の指が、ピクリと反応する。
ちょうどその時。店員が、注文していたホットコーヒーとカフェオレのカップを持ってテーブルの前にやってきた。
お待たせしました、と。 目の前に綺麗に並べられていくコーヒーカップ。
それを無言のまま眺め、今度は立ち去るのを待たず咲山が口を開いた。
早く会話を進めてしまいたいんだろう。