テラーノベル
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「そりゃ、私くらいしか行きたくないでしょ。 涼太の部屋なんて。 荷物取りに来いってこと?」
「ごめん。 こーゆう時どうするのが正解かわかんなくてさ」
無言のまま、長く深いため息が返ってきた。
「……わかった、取りに行ってあげる」
立ち上がった咲山を呼び止める。
「え、もう出る? 口つけてもないけど」
「いらない。 さっさと終わらせよ」
思いのほかあっさりと従った咲山を不思議に感じながら、けれどそれよりも。振り回し続けた自責の念が強い。
追いかけるように急いで席を立った。
「俺が呼んだし、出すから」
レジに向かう途中で財布を取り出した咲山に伝える。
フイっと視線をそらして「ごちそーさま」と不機嫌な声が返ってきた。
店を出て、無言のまま並んで歩く。
思えばこうして咲山と並んで歩くことは、あまりなかったように思う。
一緒に飲みに行けば、家には連れ帰らずホテルを利用したし。そうでなければ『行ってもいい?』という咲山からの連絡に『いいよ』と返して待つだけで。
きっと咲山は何度も暗いこの道を、ひとりで歩いていた。
(思い返すと、マジで終わってんな……)
マンションに着き、エレベーターに乗り込む。
会話もないまま部屋の前に着いた。
「まとめてるから、ちょっと待っててな」
と玄関を開けると。
咲山が背後から思い切り坪井を押した。ふいをつかれ、そのままバランスを崩し玄関先に膝をついてしまう。
「……痛ぇ」
声にしながら振り返ると、見下ろす咲山が無表情のまま鍵を閉め坪井に跨る形で座った。
「……ちょっと、夏美。 何してんの、離れてよ」
「ねえ、別にいいじゃん。 いつもみたいにこのまましようよ」
咲山は、坪井の手を掴んで自身の胸元に寄せた。柔らかな感触を何度も繰り返し押し付ける。その手を掴んで引き離そうとするが「立花さんのことが好きだとか言うんでしょ」と、咲山から出た言葉に一瞬動きが止まってしまった。
「夏美……」
「それでどうして、会わないってなるの? 別に今までと変わらないでしょ? 涼太、私を好きだったことなんてないんだから」
咲山はそう言いながら掴んでいた坪井の手を離し、次は慣れた手つきでスエットのゴム部分に手を掛けた。
上下に手を滑らせて。触れた部分が、硬さを持っていることに満足げに息を吐く。
「いつもみたいにしてよ」
「夏美」
「ねえ、ほら。 こうやって触ってたらすぐ反応するじゃん。 男なんてそんなものでしょ、セックスなんてそんなものでしょ? 涼太も言ったじゃん」
その声が、弱々しくなっていく。
涙が混じって、震えている。
「……そうだね、確かに言った。 けど、俺はこれ以上あいつの顔見れなくなるようなことできない」
「バレなきゃいいでしょ! 他の彼女がいた時もそう言って私たち……」
「夏美、聞いて」
咲山の声を遮るように、坪井はやや声を張って名前を呼んだ。
驚いたように声を止めた咲山を見上げながら、ゆっくりと声にする。
「夏美。俺、今こうしてても立花のことしか考えられないんだよ。 お前の胸触って身体は興奮しててもさ、お前に対して何も感じてない」
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