物心ついたときには音楽が好きで、小学生のころには何となく自分はもう音楽のことをやって生きていくんだと漠然と感じていた。中学校はろくに行かず日々を作曲に費やし、そんな中で出会った音楽好きの友人ら3人と初めてバンドを組んだ。その中に若井もいた。
高校はそれぞれ別の学校に進学したが、変わらずに音楽活動は続け、何となくこのメンバーでデビューを目指すものだと思っていた。他の3人が学校に行っている間も自分は作曲を続け、ライブハウスに入り浸り人脈作りに励んでいた。小さなハコだが定期的にライブ活動をするようになると、色んな人の目に良くとまるようになる。
メジャーデビューの話が降ってきたのは高2の春だった。誰しもが聞いたことがあるであろう大手の音楽会社の名刺に「ようやくだ」と身震いしたのを覚えている。しかし、喜び勇んでメンバーに報告した時に返ってきた反応は思っていたものではなかった。
「今年の夏からは受験勉強に専念するつもりだったんだけど」
言いにくそうにドラムが口を開いたのを皮切りに、ベースも
「メジャーデビューしたってそれで食ってける保証はないんだろ。俺ももともと学生までと思ってたし」
青春の思い出作りみたいな?と薄ら笑いを浮かべながら話すそいつに思わず殴りかかろうとしたところを必死に若井に止められた。落ち着け!殴ったらだめだ!と耳元で叫ばれているはずの声が怒りのせいでずっと遠くに聞こえた。何が青春の思い出作りだ。音楽は俺の人生なのに。そんな、何の覚悟もない奴らと音楽をやっていたなんて。
「いつかでかいハコでライブしようっていってたじゃんか!売れるかわかんねぇってそんなん逃げだろ!」
若井に羽交い絞めにされて押さえつけられながら、悔しくてたまらなくなってそう叫ぶと
「そんなのその場のノリだろ、マジになんなよ」
衝撃で頭が真っ白になる。ふっ、と押さえつけられていた力が軽くなったかと思うと、さっきの発言をした男がすごい勢いで吹っ飛ばされた。若井が殴ったのだ。ぼろぼろと大粒の涙を流しながらそいつを睨みつける若井を見たら、なんだかもうどうでもよくなってしまった。さっきまであれほどまでに殴ってやりたかった怒りも、行き場のない悲しみも、何もかもがすべてどうでもよくなってしまった。
バンドはその場で解散した。メジャーデビューの話はもちろんなくなった。若井が最後まで「俺はずっと元貴についてくから」と言い続けていたが、「ギターだけで何になんだよ」と冷笑してあしらった。
もう音楽のことすらどうでもよくなってしまっていた。
まったく大学に進学するつもりなどなかったが、音楽のことをやらないとなれば大学は出ていた方が就職には有利だろうと考え、家から通える範囲内で探した。今通っている大学は、特に何かに惹かれたというわけではなく、自分の学力でそこそこ勉強すれば入れそうだったからというどうしようもない理由だ。俺が大学に進学すると話すと、若井も自分と同じところを目指すと言い出し、模試の結果はずっと散々だったが試験当日に奇跡が起きたのか、学部は違うが何とか同じ大学への進学を決めた。
若井はずっと俺と音楽をやりたがっている。あの一件があってからも、何度もセッションやライブに誘われたし、何かとあればまた曲作りをしないのか、バンドを組むつもりはないのかと聞いてくる。しかし、あの日、ずっと信じてきた仲間に埋められない温度差を見せつけられてしまった以上、もう他人とがむしゃらに音楽の道を目指そうという気には到底なれなかったのだ。
俺は若井が大学で音楽の仲間を見つけるのが一番だと思っている。それこそあの軽音サークルなら音楽をやりたい連中はたくさんいるし、明るくて人好きのする性格の彼なら簡単に仲間を集められるだろう。藤澤さんだって若井のこと気に入ってたぽいし。
ふと藤澤さんの顔が頭をよぎった時、彼はどんな風に音を奏でるのだろうと考えた。そんなこと気にしたって仕方ないというのに。
※※※
本日は過去編でした。
今日のMステ楽しみですね〜、録画もばっちりな作者です。
タオル用意しとかなきゃ……!
コメント
9件
過去辛い... ひろぱの気持ちが🥲
そんな過去が🥲もっくんの音楽への気持ち、今そうなってるの納得です。 Mステ私も見ました🥹♥️ 本当に良かったですよね!そしてりょうちゃんが可愛すぎました💕 驚きな交友関係もあり、妄想しちゃいました🤣
過去がヤバすぎる、、、そいつらを殴るの加勢してもいいですか🤛この後の展開気になります(˶' ᵕ ' ˶)