学部は違えど1年生のうちは共通科目の授業があり、なんだかんだで若井と顔を合わせる機会が多い。俺に構うのをやめればあっという間にたくさん友人ができるだろうに、すぐに元貴、元貴と俺の後をくっついてくるので結局二人で過ごしてしまう。
「な~、謝ってるじゃんか、ごめんって~」
若井がさっきからしつこく何を謝っているかというと、先日の軽音の新歓の件だ。
「俺だって自分があんなに弱いと思ってなかったんだよ」
「分かった、もういいから。いいって。うるさいな。少なくとも俺はお前とは飲み行かないって決めたし」
そんなぁと騒ぎ立てる彼を無視して次の授業の講義室へ向かう。
「藤澤さんからも、気分悪くさせちゃったみたいだし大森君に謝っといてって言われちゃったし……」
「は?なんで藤澤さん?いつ?」
思わぬ名前の登場につい矢継早に質問すると
「めっちゃ食いつくじゃん……いや、あの時曲の動画送るのにライン交換してて……」
すると何かに気付いたように、にやにやとしながら若井がこちらをみてくる。
「え、藤澤さんのライン教えようか?」
「は?知ってどうすんだよ、いらねーよ」
大体勝手に追加されたって迷惑だろ、と返すと、それがさぁ、とにやけた笑みを浮かべながら若井が続ける。
「軽音に入らなくても気軽に連絡してって言われてるんだよね。大森君にもって」
それを早く言え、といって即座に俺はスマホを若井の方へ突き出した。
その日家に帰ってから、俺は藤澤さんにまず何と連絡するべきかを迷っていた。
「まずは名乗んなきゃな……大森です。連絡先、若井から聞きました。……問題はこの後だよな。先日は先に失礼してしまってすみませんでした、とか?いやでもあんまり引きずりすぎるのもな……向こうも結構気にしてるっぽいし、ここはあえて全然関係ないことで?いやでも関係ないことって何。急に何の脈絡もない話された方が怖いだろ」
うんうん唸りながら文面を考えていると
「何、デートの誘い方でも考えてるの?」
「うをわぁ」
突如後ろからスマホの画面を覗いてきたのは兄。
「勝手にみんな」
「おうおう、そんなに怒るなよ。なに?すずかちゃん?どんな子?」
藤澤さんはラインのユーザーネームを漢字フルネームで登録しているため、兄は女の子と勘違いしているらしかった。
「なぁマジそういうんじゃないから。あ、ちょっと」
ひょいとスマホを取り上げられ、慌てて取り返そうとするも全く届かない。
「よし、ほらこれでファーストインプレッションはばっちり」
ぽんとスマホを投げ渡され、慌てて画面を確認すると
『大森です。連絡先、若井から聞きました。』
『良ければ今度ご飯にでも行きませんか?』
『涼架さんといろいろお話できたら嬉しいです。』
『お返事お待ちしてます!』
俺は思わず叫び声を上げながら兄にスマホを投げつけた。
階下から母の「静かにしなさい!」と怒る声が聞こえた。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
コメント、いいね、とても嬉しいです!ありがとうございます🙏✨
コメント
12件
若井くんと元貴くんのからんでるとことかめっちゃ好き
なんだかんだ言って涼ちゃんのこと気にしてるんだなぁ..可愛い笑 元貴くんにお兄さんがいたり、すずかちゃんって読み間違えたり、細かなところでミセスの皆様の体験談..と言うんですかね。それを出していて凄いです✨
お兄ちゃんありがとう!(´▽`) 即座に携帯を出すもっくん可愛いჱ̒✧°́⌳ー́)੭