Side.赤
「大丈夫だよ、慎。ね、泣かないで」
家に着いても、ぐずって機嫌が直らない。
大体抱っこをしていたら泣き止むんだけど、今日は何かが違うらしい。
「もう痛くないでしょ、痛い痛いのぽいってしたから。…じゃあお歌聴く?」
腕に抱きながら、得意の英語の子守唄をうたう。
だが、落ち着くはずのきらきら星のメロディーも、耳に入っていないようだ。
「どうしたの。違う歌かな」
曲を変えてみても、効果なし。子どもって難しいな、と思った。
と、ポケットの中のスマホが震える。慎太郎をソファーに下ろして確認すると、しょうくんのパパから心配するメールが届いていた。
かんしゃくモードに少し入っちゃっただけだろうから大丈夫、と返信をした。でもしょうくんには申し訳なかったな。
すると、立て続けにスマホに着信があった。今度は会社だ。
「パパ…」
慎太郎の呼ぶ声に振り返る。
「なあに」
「抱っこ」
しょうがないなぁ、とまた抱き上げる。
返信は遅くならないようにしないと、と考えたとき、ふとあることを思い出した。
「やべ、あれ忘れてた。ちょっと待っててくれる?」
一旦慎太郎をソファーに座らせる。
玄関まで向かい、そこに置いてけぼりになっていたベルトを持って戻る。
しょうくんが遊びに持ってきていたベルトを、元気になるようにと慎太郎のために貸してくれたのだ。
「ほら、しょうくんが貸してくれたよ。ライダーの変身ベルト」
途端に目がきらきらと輝く。
「すごい! つけたい、変身する!」
おお、と自分も驚きの声を上げた。単語だけだが急に饒舌だ。
こんなベルトがあることは知らなかった。確か、パパは新しく出たものだと言っていた。
「どうやってやるのかなあ…」
呟きながら、銀色の部分をガチャガチャとやってみる。と、ガチャリと音がしてベルトが外れた。
慎太郎の小さな腰に回してまたはめようとするが、サイズが違うようで上手くいかない。
伸ばせるところをいじっていると、その様子をどう解釈したのか慎太郎はニコニコしながら見ている。
「おっ、できた」
どこかが光るのかな、と適当にボタンのようなところを押すと、ベルトの真ん中の丸い部分が緑色に光った。
「すごっ」
息子よりも驚く。
そして当の慎太郎は嬉しくなったようで、剣を出していつもテレビから発せられている決め台詞を放つ。
目の前の見えない敵と戦うように、勇ましく振り回して。……周りの家具が心配だが。
でもその楽しそうな姿に、頬がとろんと緩んだ。
これからある運動会のご褒美に、新しいベルトをあげようかな、と思った。
終わり
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